21.リアル

ケイドさんは背後のモニターを止め、部屋の照明をつけたので、顔にさしていた暗い影がすっと引いた。

「最初のターゲットは何だ?何人で行く?」

「ウデナガモグラだよ。人数は、3人」

「どんくさいけど、力が強いから注意しろよ。

あと1人、2人いるといいけど、悪くない。だが」

ケイドさんは言葉を継いだ。

もう少し大事な事を言いたくて、ジャブ打ってるのか。

おれもこの人のクセを覚えてきてしまったなぁ。


「言わなきゃいけない事はこっちにもある。どうか心にとめておいてくれ。」

「回りくどいな」

本人なりに、言うのに覚悟がいる事らしい。

「洞窟の中でお前が使った力。

あれはもう、出せないと思ったほうがいい」

「……マジ?

ふわっとした言い方だけど、出ないってこと?

っていうか、ずっと黙ってたの?」

ちょっと予定が狂ったな。

緊急事態に使えると思ってたのに……。


「ああ。ちょっと細工をな。

実験動物が消えるの見て、お前気まずくなかったか」

「まあ、そりゃあ」

「そうなら、俺も安心するよ。

効果からして、軽くとらえられないだろう。銃と同じくらいには。

俺も伝えるのに躊躇ってたんだ。謝らなくちゃいけない……。

ともあれ、これからいう言葉は、ちょっとばかり組織に背いてる。だからオフレコで頼むぜ」

「げ。何言うつもりよ」

真面目過ぎるし、ハードルあがり過ぎだろ。かえって茶化したくなる。


「これは個人の見解だが。

IRGはお前の保護に乗り気だが、同時に警戒している。

何故かはわからない。

わからないのが、俺も怖く感じている」

……。

何も言えない。

「なぜだろうな。

しかし、状況がアンバランス極まりないのは確かだ。

例えば、のっぴきならない脅威が迫っていたり、お前がもはや社会から強い力で排除されそうな状況なら、話は別だ。

だけど、そうでなければ、のがわかるか?

しかも、たまたまそうなっているようにしか見えない。

デメリットが大きい事がお前もわかっているだろ?

単独の状態であの力を使って、ぶっ倒れたところに追撃が来たら……

終わりだろ」

終わり、の一言が俺の中にずんと入ってきた。

そうだ。

俺はその一瞬で、終わりについて色々と考えた、ような気がするけど、それぞれが一瞬すぎて味わえない。


「俺はシュンにこれを覚えながら生きていくのは、酷だと思った。だから言えていなかった。

俺はこう見えて臆病でね。もし仮にお前の立場に立ったとしたら、瞬時の危険よりも、何年も何年もまだ爆発してない爆弾みたいに扱われることのほうが怖い。

狩猟が危ないとかももちろんあるけど、それよりも遥かに、だ。

むしろ、狩猟のほうはやりたいならやってみればいい。

何かあったら連絡できるよう、端末の電池を切らさない事だ。

この世界のリアルを感じてほしい」


よっぽど言うのに抵抗があったのか。

最後の一言で、ケイドさんはなぜか後ろに控えていたモニターを操作した。

止まっていた画面の中のSF世界が、もう一度動き出した。


なんだよ。すげえやりづらいじゃん。

という本音をおれはちょっとアレンジして言葉にした。

「なんだよ。すげえ説教臭いじゃん」

「本当だなあ。俺も歳か」

ケイドさんの触角が動いて、重い空気をかき回したそうだ。

「いくつなんだよ」

「29」

「……っあ。リアクションし辛っ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る