18.好奇心と野心

結局、おれは「クラブ」に入部した。

おれもちょっと怠惰なとこあるのかな。きついトレーニングとかないし、痛手にならなさそうって理由でそうした。

なし崩しな感じはするけど、所属というものができたような気がした。


カトー、ヒアリ、トムの3人は、癖つよだけど、ワルぶりたいわけではなさそうだ。

このメンツで、いじめや校内の荒れたやつにたいして、どれだけプレッシャーがかけられるかは不明……だけど。

おれも理由はあいまいだ。

関わっていこうという気持ちになった、としか言いようがない。

思ったより治安の悪さを感じたから、力をつけた方がいいのかも知れない、と思う一方で、人のつながりも馬鹿にできないとか、セコイ事を考えた面もあるけど……。



「クラブ」のメンバー中でもカトーがいちばんしっくりくる。

同じ人種だから?かどうかはわからない。

単に気が合うということでいいんじゃないか。

同時に、カトーにかんしては半信半疑だ。

おれに対する食いつきがウザいときは、ある。どこか暑苦しいというか。



でも理屈をこねてみたあとで思う。

ただ、おれは寂しかったのかも。

そんなもんだよね、と思うけど。


カトーは表の顔である工学クラブでも、エンジニアと言うか、発明マニアという感じでバリバリやっている。

俺はカトーの優秀さをなんやかや頼ってしまっている。勉強に困った時に助けてもらったり。なんだか、へへーと頭を下げて、手下ポジションになりたい気すらする。

手下の立ち位置は楽かもしれないけど、格好は悪い。それに、そうなってはカトーにとっては嬉しくなさそうだ。

それより、話を受け止めあう相手ができたのが、互いにラッキーだったのだと思う。

なんか、向こうのほうがIQ高い気がするけど。


「僕は機械いじりも好きだけど、単につるむ事も好きだ。その為の二重のクラブさ。

シュンはどうする?工学とレアキャラ両方参加するかい?」

「おれは工作って、あんまり得意じゃないな……」

「レアキャラだけやる?」

「これ、幽霊部員だよねぇ」

「ま、そうだな」

「いいのかね、そんなんで」

「トムはそんなんだけど、いいと思うぜ」

「聞こえてるぞカトー」

トムが睨みつけてきた……んだけど、実は顔の作りで睨んでるっぽく見えてしまう事に気づいた。



カトーは意欲的で気さくなやつだが、慎重さもある。発明品や作った物を見せてもらうまでには意外にも時間がかかった。

どうやら「ここまで見せてOK」という判定が、何レベルかあるみたいだ。

まぁ、別にスパイじゃないし、全部見なくても良いけど……

でも、作った物紹介してる時のあいつのドヤ顔はなんかクセになる。

今はドローンを懸命に作っている。

「実はただのドローンで終わらせるわけじゃないんだ。でもこれ以上は今は言えないんだ。秘密にしておきたい」

意識高いけど、思わせぶりだな。聞いて欲しいのかな。


ヒアリも機械づくりには意欲的だ。

ドローンの応用で自分が飛べる物ができないか模索しているらしい。

もっとも、そういうものが世の中に全くないわけじゃない。

歩けない人のための車いすと同じように、装着することで空を飛ぶ事ができる器具はあるそうだ。

だから、目標はそれの改良という事になるみたいだ。

機械を改良したいのかもしれないし、それでコンプレックスをどうにかしたい感じでもあるのかもしれない。


「シュン君、試しに着けてみない?飛ぶの楽しいよ」

興味はあるけど、安全面が怖い。

ちょっとちゃんとしたところで講習受けないと事故る気がする。

あと、ヒアリは異性にあんま遠慮しない性格だ。

いや、大抵の事は遠慮しないって言ったほうが正しいかも。


トムは…、本当に工学クラブの活動は何もしてない。

部室でダラダラしているだけ。漫画本提供してきたり、菓子を持ってきたり。

ただ、いい所もある。

トムは口が悪い反面、少なくともクラブにいるメンツには媚びないし、ほとんど否定も肯定もしない。

「無」に近いじゃんと思う。でも、悪くない。


カトーから聞いた話では、昔結構過酷ないじめにあったことがあるらしい。

だからなのか、ダラダラしているようで、思いに耽っていることが多い。

でも、トムには隠れた特技がある。

焼き菓子を作るのが上手い。

食うのも大好きだけど、作るのも好きなんだろう。

味見したらすごく美味かった。

もしかして、猫の毛ちょっと食べてる?と一瞬思ったけど。


怒った時の独特な口癖……

「アップルパイぶつけんぞ」はまず自分が作れる料理からランダムで選出しているみたいだ。

実際にぶつけたら、絶対に勿体ないと思う。アップルパイも部室で好評だったから。


トムは自分の事をゴミだと思っているくらい自信がないみたいだ。

「シュンは俺みたいになるな。取り柄無しの意欲なしになったらお先真っ暗だ」

「何だよ、まだそういう事言うには早いだろ。中年かよ」

トムは耳をピコピコと動かした。

「俺、実はこんなでも悪くないと思ってるんだよ。ぬるま湯みたいでさ。

でもおすすめしねぇ」

「菓子作りは?」

「できるからやってるだけだよ。暇つぶしってやつ」

菓子作り、暇つぶしの中でも結構時間使う気がするんだよなぁ。


おれは実質、トムと同じ立ち位置になる。

トムには悪いけど、カースト低い感は否めない。

何か出来ることを追求したほうがいいのかもしれないな。


一通り聞いてしまった。

皆なんか抱えてるし、手助けするのもアリかも。

でも、自分のスタンスみたいなものを出さないと、なんとなく釣り合わない。

となると、してみたいことはあるけど。

どうしたものか……?

踏み出そうか迷う。

でも、決断にそんなに時間はかからない気がした。

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