17.レアキャラクター・クラブ

カトーは、なんというかオタクっぽい風貌の男子だ。

マッシュルームカットで、眼鏡で、ちょっとおれより細身だ。あまりタフそうには見えない。

でも、なんだろう。ただのカンだけど、そういうのほど油断しちゃいけない気がするというか。弱いとは限らない、という感じがする。

さっきの不良学生とは別方向の「ギラっとした感じ」を目から発しているような。

握手もなんとなく力が入っていた。

何かの方向に熱意を持っているタイプ……だな。

もっとも、体張って助けてくれたんだから、ちょっと失礼だけど。


「いきなり出て来て助けてくれたのはありがたいけど……

やっぱり、おれのことを先に知ってるんだよね」

「ああ、ニュースを見たよ。デスゲーターの生息地、しかも地底から生還したんだろ?

めちゃくちゃすごいから、話しかけるスキをうかがってたんだ」

「なるほどね……」

ストーカーかよ。

でも、さっきの所に飛び込んでくれたのは本当にありがたかった。

あのまま行ってたら病院送りだ。

それはそれ、これはこれ。

うだうだ無駄話をするのも好きじゃないし、切り込んでみるか。


「すごいのはIRGで、おれじゃないよ。何か用?」

「いやいや、そんなことないって。

僕らからしたら、100年ギャップがある人間なんて、超超レアなわけ。

話を聞かせてよ」

「うーん。……ん?

『僕ら』って何?あんたのクラス丸ごとにプレゼンじゃないだろ?」


カトーは、ぱん、と手を打ち鳴らして言った。

「よくぞ聞いてくれましたっ。

単刀直入に言うと、用事は二つ。

一つは、僕は君の体験談にものすごーく興味があるって事。

もう一つは、是非僕のクラブに参加してほしい」

「げ。なんだよクラブって。宗教?」

おれは、本当に宗教勧誘だったら全然意味ない質問をしてしまった。

「興味あるかい?場所を移そう。」


おれは流れでカトーに連れられて、学校の工作室まで来てしまった。

なんか、ハナっから拒否だと感じが悪いだろうし。怪しかったら距離を取るってことにするか。

作りかけの機械が乗っかった机に、生徒が二人、距離を離して寄りかかっている。

(コロニアルの女子と、フェリドの男子かぁ。ちょっと不思議な組み合わせだ)

カトーはかれらの前に立ち位置を移動して、話し始めた。

「ここは工学クラブの部室で、僕が部長だ。

でもこの部は表向きっていうか、いや、ダミーじゃなくて活動もしてるんだけど……。とにかくもう一つの顔がある。

それがレアキャラクター・クラブだ」


レアキャラクター・クラブ?

はてな、と思っているとカトーがどんどん説明を進めた。

「学校って、結局集団生活だろ。しかも、ここの生徒って、これでもちょっとナーバスでさ。目立つことを結構嫌ってる。

そのうえ人種の違いもあるし、浮くとすげぇ面倒くさくなるんだ。

さっき見たいな、暴力振るうやつもいる。それだけじゃないのは君も知ってるだろ。

でも、目立つのをいきなり目立たなくするなんて、無理だ。


だから、いっそ目立つしかない奴でまとまってチームを組んでおいた方がいいと僕は思ったんだ。目標は卒業まで耐えることだけ。

それがこのクラブだ。」

「な、なるほど?」

「まあ、別に入部してくれなくてもいいんだ。

ただ、いざって時のために顔見知りにはなっておきたい。

君、本当は腕っぷしあるだろ?そういう期待だけしてるわけじゃないけど。」

ここまで話して、カトーは後ろを向いた。

「2人とも自己紹介よろしく」


「あたしはヒアリって呼ばれてるよ」

コロニアルの女子のほうが名乗り出た。

赤っぽい肌色と赤っぽい髪のツインテール、確かにヒアリって感じがする。毒があるわけじゃないだろうけど。

カトーよりも背が高い。コロニアルって大柄な人多いのかな。

おれは彼女の違和感にすぐに気づいた。

普通、背中にある羽がない。

「ああ、この羽ね。あたし、一回脱皮不全を起こしてて、その時に羽のもとがもげちゃったの」

コロニアルって脱皮するんだ?ちょっと気色が悪いと思ってしまった。

なんか想像しかけたけど、やめておこう。

「すぐに病院駆け込めばつなげてもらえるんだけど。でも、親にほっとかれちゃったんだよねぇ。

痛いし、一生飛べないし、でもあたしに興味なかったんだろね。

うちの親って、ほんと最悪。あ、いきなり愚痴でごめんね」

「よ、よろしく」

ちょっとかわいそうではあるな。


「トムキャットだ。略してトム。ニックネームだけどな。」

もう一人の部員、フェリドの男子はさっきからずっと不機嫌そうな顔をしている。

なんというか、背が低くて太っていて、灰色のちょっと長めの毛皮をしている。

ペルシャ猫とかそういう雰囲気がするんだけど、高貴さが肥満と、ジョークの描かれたTシャツでチャラになってる感じがする。

「簡単だ。俺がここにいるのはデブだからだ。クソが」

だいぶ口悪いな。

「ずっと痩せようと思って努力してたんだけどよ、なんか途中であほくさくなっちまった。

言っとくけど、お前、俺になんの期待もするなよ」

そして、いきなりトバしてくるな……。

ふだんからいろいろ溜まってるんだな。

トムは金色の目を細めて、何か仮想敵をにらんでいるような表情をした。

「こういう見た目だから、なんかハッキングみたいな特技があるに違いないとかいうヤツ、たまに湧くんだけどよ。

余計なお世話だよ。特技無いと学校いちゃダメなのかよ。アップルパイぶつけんぞ」

勘弁してくれよ。

でも、結構正論だと思う。

よっぽどエリート集める方針の学校じゃない限り、特技も才能もなくても、学校は基本通っていいはずだ。

特技と言えばおれのあの能力もあるけど……大っぴらにしてはいけないしなぁ。

そうじゃなくても凄いサバイバルを切り抜けた時点で、レアキャラと言えばそうなんだろうなぁ。

おれがデスゲーターとやりあって倒したみたいな、噂の尾ひれもあるのかもしれないな。

トムはトムでかわいそうな感じがするな。かわいそうっていうのも上目線だけど。

「とりあえず、おれはそうは思ってないよ」

「クソじゃなきゃいいよ。よろしく」

フェリドと握手をすると、なんだか肉球の感触がふんわりしていた。


カトーがおれをまっすぐ見て、再度口を開いた。

「僕がレアキャラクターな理由も簡単だ。なぜなら日本人だから。

いや、ゼーラールの移民だから、日系人って言ったほうがいいのかな」

「そういう事か……」

街をパッと見しただけでも、人口の率がすごく低そうだ。

「君は、入部の資格大ありなんだよ。怪しい部だろ?無理強いしないけど、困ったら頼ってくれ。

でも、そういう建前取っ払って、部員じゃなくても、友達になりたいんだよ」


うーむ。

ダイレクトに言われると、ちょっと響くものはあるかもしれない。

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