12.燃える大海鴉

「ペンギン!」

俺は顔を引きつらせるしかなかった。

地球では可愛げのある生き物とされているペンギンだが、もはや名前くらいしか共通点がない。

そんなにエサをえり好みする方ではない。競合する生物でも撃退する凶暴さがある、大型捕食者だ。


残念な事に、大型捕食生物がうちのお得意様というわけだ。

ただ、救助対象の漁船に向かわないだけマシかもしれない。

このまま漁船に戻って行かないようにはできそうだ。


攻撃的になった獣は待ってくれない。

「ギャギャギャギャウギャーーーッ!」

咆哮と共にペンギンが巨体を反らし、海面から跳ね上がった。

着水と共に柱のような波が爆発。

本体はもちろん、これでは水の塊だってまともにぶつかるわけにはいかない。俺は急いで高度を上げた。


抱えられている負傷者、ペネロペはすっかり憔悴していた。

「ヤバい。ヤバいって!」

「わかってる!」

「何なら私を置いて……」

憔悴しすぎだ。IRGはそう言う文脈で仕事する組織じゃない。

「そりゃまずいぜ、とにかく撤退地点に着くんだ!」


巨大ペンギンは体をうねらせ海面を走るように泳いだ。

速い。モーターボートか何かか?


羽毛と脂の詰まった分厚い皮膚で覆われている。

シーカーガンのダーツでどうにかなるとは思えない。

というよりほぼ無意味。逆上させるだけだろう。


これは、距離が詰まったら終わる。


俺は全力で飛んだ。

背の羽の付け根がこれ以上ないくらい、ビリビリと震えていた。

酸素が尽きないように必死で呼吸するが、高度が少し高いせいで非常に苦しい。

しかし、なんとか追いつかれない距離を保つことができていた。


(よし、このまま耐える!)

そう思ったのもつかの間。

ペンギンがこちらを見据えたまま、わずかに体を反らせて減速した。

(来るな、これは)


ペンギンはグッと喉元を膨らませ、轟音とともに嘴を開いた。

俺は嫌な予感と共にコースを大きく変えると、すぐ横を油の塊が通り過ぎていった。

油、というより、脂、だろうか。

嘴の内側から抜けたであろう棘と、得体の知れない固形物も混ざったそれは、海面に重い音を立てて落下し、浮きとどまった。

吐しゃ物のようで、何か汚い感じがする。

やはり、飛び道具を持っていたか。海コウモリを怒らせたのもこいつだろうか?


「うわぁ……」

ペネロペが嫌悪感をあらわにした。落ち着きを相当失っているので、やっぱり怪我が軽くないのだろう。

これは食らったら即、戦闘不能になる。

「こちら司令部。そのペンギンは何だ!?」

「未確認の器官をもってる!撤退地点まで持つか分からない!

ボートでも何でもいい、支援が出せないか!」

「了解した」


「ケイド、大丈夫?」

「あ、ああ……」

流石にペネロペが心配してきている。

大丈夫ではない気がするが、Yesというべきところだ。


ほどなくしてペンギンの二発目の予備動作が見えた。

よく似た動きだが、一つだけ違った。


吐き出す前の、バチンという破裂音。

それでペンギンの口が燃え上がり、火の塊と化した油を発射した。


(避けろ!避けないと死ぬ!)

「うっ!?」

何とか避けたものの、海面に着弾したそれは燃えっぱなしになっていた。

塊状なのがむしろ助かった。噴霧されて火を付けられたら終わってるんじゃないだろうか。


「あ、あかんやつや」

「落ち着けペネロペ……口調が変だ」

「口やけどしないのかな?あいつ」

ペネロペは気を反らしたくて仕方ないようだ。

怪我をした身で担がれ、回避行動に付き合っている。

結構痛むはずだった。

大事な仲間だ。早く治療を受けさせたい。


流石に司令部は装甲付きのボートを出し、撤退までの距離を縮めてくれた。

レーダーに映ったボートまで、俺は無我夢中で戻った。

ボートにはドクター・ホワイトと医療チームが待ってくれていた。

「ペネロペ!ケイド!大丈夫かい」

「な、何とかね……」

「強がってそうだから、よく診てやってくれ、ホワイト」


もちろん、このままペンギンを放って帰るわけではない。

ここから再戦する。

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