11.放火犯の正体

「ケイド、負傷したペネロペを撤退地点まで護衛してください。シーカーガンの使用を許可します。

その後ただちに増援部隊に合流すること」

「了解」

致し方ない。

俺は海コウモリどもに背を向けて進路を変更した。

「ごめん」

「謝らなくていい。早く治療したほうがいいよ。」


海コウモリは喚きながらこちらを威嚇している。追いかける気は満々のようだ。

連中がここでいきなりおとなしくなるわけがない。

それにしても、相当に気が立っている。


さてと……。

俺はペネロペを担ぎながら片手にシーカーガンを構え、背面を警戒しながら飛んだ。


シーカーガンは個人携行できる誘導弾発射装置だ。

こいつの欠点が多いという話は繰り返しになってしまうが、発射体が結構大きいせいで、銃身もそこそこに大きい。

そうそう大量に弾を持っておくこともできないし……だが、誘導性能は高い。

決して取り回しが良いとは言えないが、担いだペネロペ越しで撃つことはできる。


そうこうしているうちに一匹が翼を折りたたんで突っこんで来た。

「早速か。

響くけど、我慢してくれよ!発射!」

俺は銃身をそいつに向け、引き金を引いた。


ガチリ。

まず、重い金属音が腕を伝わり、破裂音と衝撃が追い付いてきた。

飛び出した弾はダーツを大きくしたような形状で、一匹のコウモリに突進する。


それに気づいたコウモリは翼を広げなおして急減速。大きく向きを変えた。

こいつは十分に賢い。だが、誘導弾の事は理解していない。

ダーツはコウモリが降下し始めた地点の少し先で、ねじれるように軌道を変えた。

相手はさらにターンを試みたが、それで距離が縮まり、仇になった。

ダーツはコウモリの背中に突き刺さり、諸共海に突っ込んだ。


有効打ではある。だが、やはりこれを繰り返してしまうのは損耗と同じな気がする。

怪我人に何度も耐えてもらうにはいささか反動も強い。


「急ごう、ペネロペ」

俺は飛ぶ速度を上げた。疲労を考慮してもここはなる早で撤退するのがベストだ。

「コロニアルがもう少し飛ぶの速かったらよかったんだけど。でも、よろしく」

追いかけて来ている個体数も多くない。振り切れるはずだ。

残りのコウモリは増援が対処するだろう。そう思った。


だが、ほどなくして運の尽きを実感した。


「油と焦げた臭気を感知した。ケイド、お前のほうに近づいている」

沿岸部で警戒していた獣人のメンバーがそう報告してきた。

俺は、型どおりの返答に舌打ちを混ぜてしまった。

(真犯人のお出ましか!こういう時、なんでこっちに来るんだか)


獣人が気づいてから、こちらの嗅覚が反応できるまでにはある程度のインターバルがある。

だから距離は保っておけるはずだが……。

残念な事に、海面が白く泡立ち、盛り上がるのが良く見えた。

思ったよりも近い所で浮上してきている。

轟音と共に真っ白な飛沫の塊から突き出したのは、鋭い嘴だ。

そいつの体は海面からぐんと持ち上がった。


被害にあった大型漁船の3分の1くらいの体長があるだろうか?

ギラギラと輝く二つの目、棘じみているがびったりと体を覆った黒い羽毛。

背面に、細長いいぼのような、とても短いヒレのような突起がある。

極めつけは嫌に目立つ頭の黄色い毛と、巨大なサーフボードみたいなフリッパーだ。

「ぺ、ペンギンじゃない。やっば」

ペネロペがほとんど素の口調になって言った。

ここ、ゼーラールでは地球のクジラのニッチに紛れ込んだペンギンがいるのだ。

それだけならまだ許せる。そこらで図鑑を買って、読んでみれば載っている種だ。


だが、吠え声と共に開かれた嘴の中が問題だった。

嘴の裏にびっしり詰まった脂ぎった棘。

喉の奥に見たこともない発熱器官を確認したところで、俺も覚悟を決める必要があるようだった。

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