10.コウモリの浮かぶ波間
「おいおい……早くしてくれよ」
増援の到着時刻が告げられた。
嫌でも口が悪くなる。
先に到着している俺たちでできる限り対処したが、憎いことにコウモリがまだまだ飛び交っているのだ。
その対処というのも、大きなコウモリを何匹も銃撃して(あるいは、近接して無理やりに)海に叩き落とすのだから、あまり快いとは言えない。
体重があるから落下時の音もかなりのもので、それに声もうるさい。
コウモリの翼が大きいせいで、銃殺されたそいつらの傷だらけの体が波間に浮かぶのだった。
「きゃあっ」
衝撃音と悲鳴が聞こえた。
音がした方向はほぼ真上だ。
俺はまっすぐ落ちてきた悲鳴の主、ペネロペを受け止めていた。
見るとか、体が動いたとか、いちいち言っていたらずいぶん悠長なくらいの時間しかなかった。
躊躇っているヒマはない。一旦過ぎ去り、ターンしてきたコウモリの眉間に向かって射撃した。
水柱があがり、波間のゴミが増えた。
「大丈夫か」
俺はペネロペの怪我を確認した。
出血の赤が痛々しいが、見たところ、脊椎はやっていないようだ。意識もはっきりしている。
「翼が痛むか?」
しかし、彼女の質問の答えは、全くの予想外だった。
「ちょっ、やめてよ!お姫様抱っこは」
「えっ!?……本当だ」
「ミスティーの方が好みな癖に、プレイボーイ気取りなの?」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ」
海面衝突で洒落にならなくなるような時に、そんな事を気にしていられるわけが無い。
……ともかく、肩に担ぎ直した。
ペネロペはよく鎮静剤代わりに悪態をつく。それが彼女の習慣で、どうやら、そこそこの効力があるらしい。
というより、IRGの隊員は口が悪いヤツの方が多い。その中で俺がマシな方に位置付けられているだけかもしれない。
「勘違いはよせ。ミスティーは社交辞令のノリが良いだけだよ。酒を奢ると後々楽だし。
言っとくけど、他の種族と恋愛はしない方がいい。苦労ばっかりになるからな……」
「見てきたような言い草ね。まーいいけど。わたしは虫男なんて趣味じゃないからね」
「やれやれ、言ってくれるな。そんなことはいいよ」
(ペネロペに襲い掛かれるくらい接近を許したのは、厳密に言えば手落ちだな)
俺はすぐさま負傷者の発生を報告した。
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