第2話 幼馴染ラブコメのすゝめ 後編
とはいえ、1つ勘違いしてほしくないのは、私は中学時代をイベントごとに溶かしたことを反省こそすれ、後悔は微塵もしていないということだ。
勢いで「元凶」などと言ってしまったが、元々イベント好きだった私にとって、彼女は私に甘い蜜を運んできてくれた存在であり、それで私が勝手にイベント沼にはまっていったのだから、これは自業自得という以外にないだろう。音羽にどうこう言うのは筋違いというものだ。
「そもそも、ちーちゃんは極端なんだよ。なんだっけ? 高校入学の時に言ってたやつ。『華のイケイケスクールアイドルJKになる!』だっけ?」
「そんなオモシロオカシイものになろうと思った記憶はないけど……」
でも似たようなことは言ってたような気がする……
特に「イケイケ」って語感がもう……。
「でも、そんな感じの目標は掲げてたわけでしょ? 高校デビューじゃないけど」
「それを何食わぬ顔で華々しく高校デビューきめたあんたに言われると、何か複雑な気持になるけどね」
「あら、ありがとう」
「褒めてないよ」
ニヤっと笑い、わざとらしく手で髪をなびかせる音羽。
そう。高校入学にあたって、音羽の言う通りのあわよくばな高校デビューを狙って失敗した(というより空振りした)私とは対照的に、音羽は華々しい高校デビューを成功させていたのだ。
鮮やかなゴールドに染められた髪に、限界まで折られたスカート、見てるこっちが恥ずかしくなるくらいに開けられたワイシャツからは若干胸の谷間が見えてしまっている。
高校進学を機に、どこにでもいるちょっと活発なだけだった少女(おとは)は、そんな、俗語で言うところの「ギャル」に近い存在にまで昇華していたのだった。
しかし、彼女の凄いところは、そんな格好をしても決して無理をしている感じが出ず、上手いこと全てを着こなしているところだ。
私にイベントごとの話を舞い込ませた件についてもそうだが、音羽は何事につけても無駄とさえ言えるほどの器用さを発揮してきた。
思えば中学時代、彼女がかの有名な厨二病にかかり、厨二街道まっしぐらのファッションセンスを展開していた時にも、普通の人なら似合わないようなアクセサリーの類ですら音羽は着こなしてしまっていた。
……この才能お化けめ。
しかし、それにしてもこの異様な高校デビューの成功っぷりは何なのだろう?
センスの問題なのだろうか?
それとも、そもそもの素材がいいからなのだろうか?
などと自分で疑問提起をしておきながら、ちらりと彼女の胸元に目をやって、まあおそらく後者なんだろうなと1
これまた私とは対照的に、音羽は出るところは出ているし、引っ込むところは引っ込んでいるというスタイル抜群な──もとい凹凸の激しい身体をしてる──からなぁ……
きっと「JK」って言葉はこういう子のことを指すんだろうなと、そんなどうでもいいことをつい考えてしまう。
「で、何の話だっけ?」
「ちーちゃんが、またイベントごとが恋しくなったって話」
「ああ、そうだった」
自分で相談に来て忘れないでよと苦笑いの音羽。
「だから言ったでしょ? ちーちゃんは変に極端なんだって。別に中学時代と違う風になりたいって言ったって、イベントごとに一切関わらないで生活していきたいわけじゃないんでしょ?」
「まあ……それはそうだけど」
「なら、適度にイベントにも顔突っ込んで、適度に華のJK(笑)として青春すればいいんじゃない?」
「なんか少しバカにされてるような気がするんだけど?」
「そんなことないってー」
考えすぎだよーと、明らかにニヤつきながら笑う音羽に、もはや何も言うまいという仏の気持ちで「そっか」と頷く私。
「でも、そんなもんかねぇ」
「そんなもんだよ。それにほら、まだ詳しい話は聞いてないけど、演劇部でもなんか公演とかあるらしいじゃない?」
「らしいね」
まだ私も音羽も演劇部に入って1か月弱の身だ。
「演劇部とは何ぞや」みたいな基礎的な話こそ聞いていたものの、詳しい1年間のスケジュールといったことに関しては情弱な私はともかく、音羽ですらまだまだ知らないことだらけなのだ。
「じゃあそれを楽しみに生きていけばいいんじゃないの? 多分だけど、どうせ近いうちに先輩から『公演とはなんぞや』みたいな話もあるだろうしさ」
「うーん……そんなもんかぁ」
「そんなもんだよー」
したり顔で頷く音羽を見て、なんだか納得できないような、いやでも納得しなきゃいけないような、そんな最大公約数的なことを考えてしまう。
と、そこで残念ながらタイムアップ。
キーンコーンカーンコーンと、おそらく全国共通であろう聞き慣れたチャイムの音が鳴り響き、朝のSHRの開始を告げる。
「ほら、とっとと自分のクラスに帰りなー」
「へいへい」
「『へい』は10回!」
と、無駄に気合の入った声が教室を後にしようとした私を追いかけてきた。
こういう変なところで無駄にクオリティが高いの、最高に演劇部って感じがする。
「変な音羽ルール強制してこないでよ。じゃあね」
「うん。またあとで~」
などと感傷に浸ってる場合じゃない。さっと会話を切り上げ、私は急ぎ足で自分のクラスに戻る。
「イベントごとを適度に楽しみに、ねぇ……」
自分で話を振っておいてなんだけど、まあここで音羽に何を言われようと「それだ!!」と膝を叩いて納得、なんて展開は存在しないだろうし、確かに彼女の言うことはもっともだ。
なら、音羽の言う通り演劇部の公演とか、それこそ文化祭とかの行事をほどほど沼らない程度に楽しみながら高校生活を満喫していこうじゃないか。
華のイケイケスクールアイドルJKとまではいかずとも、部活にも行事にも楽しく参加していれば、きっと素敵な出会いの1つや2つはあるだろうし、それに期待していくとしよう。
ウェルカム・トゥー・白馬に乗った王子様!!
なあに、華の高校生活はまだ始まって1か月弱だ。
私の青春はまだまだ動き始めたばかりなのだ。
これからどうとでもできるし、どうとでもなれる。
ささやかながらも気持ちを新たに、私は期待に胸を膨らませて自分の席に着く。
さあさあ。
この高校生活で、私は一体どんな素敵な出会いをし、どんな凄い経験をするのだろうか?
つつがなくSHRが進む中、この先の高校生活を創造して胸を躍らせていた私は、担任の言葉もほとんど耳を素通り状態だったがしかし次の瞬間、担任が発した言葉に、そしてその先の行動に、思わず私は立ち上がりかけるほどの衝撃を受けたのだった。
曰く、「今日はみなさんに転校生を紹介します」と。
こんな中途半端な時期に、しかも高校1年生のクラスに転校生が来るということ自体が結構なレベルの不思議だが、だが、私が1番驚いたのはその先。
「さあ入って」と先生に促されるままに教室に入ってきた人物を目にした瞬間だった。
「みなさんはじめまして。父の仕事の都合で、5月の頭っていうこの変な時期に転校してきました、
クラス全員の注目を一身に集めながらもハキハキと明るく挨拶をして礼をしたその転校生は、小学校の時に離れ離れになり、以来疎遠になっていた私の幼馴染だったのだ。
まさかここにきて、かつて憧れたアニメ的漫画的ラノベ的イベントが現実のものになるとは。
目の前のあまりの非現実さに、私は考えるのをやめて彼の自己紹介の続きをうっすらと聞きながら、ドサッと机に突っ伏したのだった。
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