えげぶ!! ~演劇部で毎日バカしてますがなにか?~
五月雨ムユ
第1話 幼馴染ラブコメのすゝめ 前編
私、
もちろん忙しく何かをしたりするのは大変だし、そういう状況下になると「ああ、ゆっくりしたい」なんて風にも考える。
それに、別に平和な日常が嫌いなわけでもない。
ただ、何もなさすぎる日常というものも好きじゃないのだ。時間がないと時間を欲しがるけど、いざ時間があると困るというメンドクサイ人間なのだ、私は。
そんな私も中学に入学したばかりの頃は、いわゆるアニメ的漫画的ラノベ的イベント、具体的には「謎の美少女転校生」だとか「学校に悪の組織が攻めてくる」だとか、そんな感じの夢を見たりもしたけど、学年が上がるにつれて現実という名の景色が視界を占める割合が段々と高くなり、中学も最高学年となる頃にはそんなお子様な夢からも卒業してしまった。
しかし、適材適所とでもいうのだろうか?
世の中案外上手くできてるなァと感心せざるを得ないことに、そんなアニメ的漫画的ラノベ的イベントという夢が私の手元から零れ落ちていくのと入れ替えに、まるで狙っていたかのように──まあ実際狙われていたのだろうが──体育祭や文化祭といった現実的なイベントごとの手伝いという案件が、私の元には舞い込んできたのだった。
イベント好きが幸いしたとでも言うべきか、何を血迷ったのか、私は今度はそんな現実的なイベントの魅力に魅せられてしまい、中学時代の後半をまるっと行事の運営、具体的には文化祭実行委員会や生徒会の手伝いといった、そういった業務に溶かすこととなったのだった。
生徒会役員になったり文実の執行部になったりはせず、あくまで手伝いとしての立場に留まったのはせめてもの理性とでもいうべきか……ともかく、そんな風に学校行事という名のイベントに貴重な青春の1ページを捧げた私は、しかし結果だけを見れば何か大きな功績を打ち出すでもなく、かといって特段大きな問題を起こすでもなく、万事つつがなく地元の中学を卒業してしまったのだった。
そして、この春から少し家から離れた
今度こそ、青春らしい青春を送らねばと。
せっかく華のJKになるのだ。イケイケのスクールアイドルを目指すくらいの気持ちで挑まなくては。
いや、そこまではいかなくとも、部活に入って、仲間達と切磋琢磨して、彼氏でも作って、高校時代という名の人生の夏休みをキラキラと輝かせよう。
そんな、冷静に考えたら何を言ってるのかよくわからないことを心に固く誓った私は、期待と不安を等しく心に抱きながら、桜が舞い散る柴高の校門をくぐり、そして私の運命を大きく変えることになる部活、演劇部に出会ったのだった。
*
ここらで改めて自己紹介をしておこう。
私の名前は
この春から県立柴山高等学校に通うことになった華の高校1年生。
部活は演劇部に所属しており、好きな物は甘いものと小動物で、反対に嫌いな物は辛い物とキモい物という、おそらくそこそこ世間的に好かれるタイプのJKなんじゃないかと我ながら思っている。……まあ、あくまで勝手に自負しているだけだが。
身長が155㎝と少し低めなことがコンプレックスだが、世の中にはきっと小さい子が好きな人もいるだろうし、そこについてはあまり深く考えないようにしている。体重・スリーサイズについても似たような理由で敢えて言及しないでおく。まあ、ご想像にお任せするということで……
とまあ、これくらい話せば、きっと新学期初めの自己紹介から少し踏み込んだくらいの情報は伝わっただろう。
さてさて、そんな私だが、しかし、人間の本質なんてものは、少しの環境の変化程度じゃ大して変化しないんだなと遅まきながらも悟ったのは、入学式から1か月弱が経ったゴールデンウイーク明けの5月初旬のことだった。
入学からも多少なりと時間が経ち、新しい環境にも少しずつ慣れてきたこの時期。
なんとか友達作りで大失敗することも回避し、クラス内でもそこそこ安定した場所で地に足をつけて高校生活をスタートさせた私だったが、しかし入学時にあった変な緊張感がクラスから消えていくにつれて、今度は私の中で再発した例のイベント病の発作に悩まされることになっていた。
他の原因として、特にこれといった用もなく毎日だらだらと過ごしてしまったGWの存在も少なからず挙げられるだろう。
このままではまた中学時代の二の舞になりかねない。
中学とは違い、演劇部という拠り所を得ていた私ではあったがしかし、今万が一にでも先生から「文実に入ってみないか?」なんて声をかけられようもんなら、反射神経で「はい!」と元気よく頷きかねない。
別に誰に急かされてるわけでも、実際に声をかけられたわけでもないのに、妙にリアルな危機感を抱いた私が次に取った行動は、隣のクラスにいる中学からの親友にして悪友、
後にして思えば、この時感じた変なリアルさを伴った危機感は、ある種の未来予知というか、虫の知らせだったのだろう。もっとも、この時の私では知るはずもないのだが……。
ともかく。
私の大親友、東雲音羽。
彼女は私と同じ演劇部所属であり、おかげでクラスこそ違えど、高校に進学してからも、放課後に帰り道、それに加えてなんなら登校時も彼女と一緒なことが多く、何の運命なんだこれはと1人ぼやく今日この頃である。
「おはよう、音羽っ!!」
「お、おはよう。どーしたの、ちーちゃん。朝っぱらからそんな息切らして」
無駄に小走りで音羽の席まで突撃した私に、音羽はキョトンとした顔を浮かべてそう言った。
ちなみに「ちーちゃん」っていうのは私のことだ。笹原千代だから「ちーちゃん」……まあ安直と言えば安直だが、こうして面と向かって呼ばれると、なんだかストレートに親密さが感じられるというか、妙に心がくすぐったくなるから私は結構気に入っている。
……っと、それはともかく。
私は息を整えつつ、イベントごとがまた恋しくなってきた云々、そんな、はたから見たら戯言でしかない悩みを音羽にぶちまけると、彼女は「なるほどねぇ」と無駄に真面目な顔で頷いてみせる。
「どうすればいいと思う? このままだと私、また中学時代と同じになっちゃうよ!!」
「同じに、ねぇ……まあ私にそんな相談してる時点で、もうすでにだいぶ同じ道に入りかけてると思うけどねぇ」
そう言ってニヤリと笑う音羽。
「うっ……それを言わないで……」
余談だが、そもそも中学時代の私に様々なイベントごとの話を持ち込んだのは音羽その人なのだ。
だから、いわば元凶ともいえる彼女に相談を持ちかけてるあたり、私も大概頭悪いのだが……。
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