第40話 おだて上手
「ママの~♪ちょっといいトコみてみた~い♪」
僕は、スキル【
常連さんもママと一緒になって僕をヤるって…早くココから逃げ出さないと、ヤバい!
僕は、ようやく店内に男がいない理由が分かった。ママや常連さんの危険性故だ。
コールに合わせてヤってしまうような店にいたらひとたまりもない。
僕は、早速こっそりと店を抜け出そうとした。
ママも常連さんとのおしゃべりに夢中になっているようだし…。
僕は、視界から外れるようにして、抜き足差し足で出入口へと近づいた…。
……だが。
「ちょっとぉ。アナタはココに立ってなきゃだめよぉ?まだバイト上がる時間でもないじゃなぁい?」
……!
見れば、酔っているにも関わらず、機敏な動きで僕の元へと寄り、裾を掴んで僕をカウンターへと引き戻した。
「ス…スミマセン…」
こ…このママ、酔っているにも関わらず…よく見ている!
一見正気を失っているようにも見えるが、僕の動きを察知して素早く動くあたり隙がない。
な…なんでだよ!?
普通、酔ったら動きもヘロヘロになるものだろう!?
酔拳かよ!?ジャッキーチェンかよ!?
マズいぞ…このままココに立っていても、いずれイッキコールが始まってしまう…。
そうだ…ここは…。
僕は、もう一つのスキル【
なにか…なにか生き延びるためのヒントはないのか…!?
僕は、スキル【
—————————————
フローラ
【好きなヤりかた】斬殺
【発情スイッチ】コール
—————————————
……!
好きなヤりかた、斬殺…。やはり正面の壁に掛かっている斧で切り倒すのか…。
発情スイッチは…コール…。
なるほど…。
店内を見やれば、徐々に常連さんたちも酔いがまわり、盛り上がってきている。ママが僕をヤるイッキコールを始めるのも、時間の問題だ。
考えられるのは…4つ…か…。
僕は、常軌を逸したこの空間において、至極冷静に、この場をしのぐ方法を考えていた。
1つ目は…逃げることだ…。
だが、もうそれはできないことが分かっている。ママはジャッキーチェンばりの動きで僕を捉えるからだ。
2つ目は…斧を取り除いてしまうことだ…。
確かに斧を取り除けば、ママの斬殺癖の発生を回避することができる。
だが、これも現実的ではないだろう。取り除くといっても店の外へ置けないのでは意味がないし、ママにとがめられるだろう。
そして、3つ目は…常連さんたちに、コールをさせないことだ。
ママの発情スイッチはコール。ならばコールを生じさせなければいい。
だが、これも難しいだろう。このカフェは繁盛しており、店内には10人近い常連さんがひしめいている。これだけの人数を一斉に相手することは困難と思われる。
ならば、やはり、最後の4つ目の策か……。
そうだな…コレなら、ヤられずに済むかもしれない……。
常連さんたちの話声はどんどん大きくなっているようだ。
彼女たちの盛り上がりが最高潮に達しコールを始める前に、早いところキメてしまわなければならない。
僕は、早速行動を開始した。
「フローラさん、このカフェお客さんがいっぱいいて、スゴイですね」
僕は片手にボトルを持って、カウンター席に座るママに話しかけた。
「あらそうかしらぁ?いつもこんなものよぉ?」
ママは、そう言いながら、グイっとグラスに入った赤ワインを煽った。
「いやいや、なかなかここまでお客さんたちに愛されているママもいないでしょう」
僕は、たった今からっぽになったママのグラスに、さりげなく追加の赤ワインを注ぎ足しながら言った。
「そうよぉ?みんなママのことが好きなのよぉ?」
隣に座る常連さんも調子を合わせている。
「あらぁ。ありがとう嬉しいわぁ」
ママは、気分が良くなってきたのか、さらにワインを飲みほした。
「やっぱりこれもフローラさんの人柄や魅力だからこそ、なせることですよね」
僕は、ママの目をじっと見つめながら、さらにボトルからグラスへと注ぎ足した。
「いやよぉ。そんなことないわよぉ」
ママは次第にグニャグニャしながら、もともと真っ赤な顔をさらに真っ赤にさせていった。もちろん、グラスに注がれたワインを飲みながら。
あともう一息だぞ、と僕は自分に言い聞かせながら話を続けた。
「いやいや、僕はこのカフェに入った瞬間から、ステキな方がママをやっているんだなと思いましたよ」
「あらぁ、若い子にそんなの言われると私も照れるわぁ」
ママは空にすればすぐに注ぎ足されるワイングラスを、その手を休めることなく飲み続ける。
そろそろ……来るか…?
僕は、自分の狙いがうまくいくことを願った。これで思惑が外れれば、イッキコールの中、ママに斧で頭をカチ割られることになる。
頼むぞ…時間はないんだ……。
………すると。
ママは、一瞬だけ顔を上げたと思ったら、急に体から力が抜けたようにカウンターに突っ伏した。
「グ…グゥ……」
今や泥酔状態に陥った者特有の、いびきをかいている。
「あらぁ、ママどうしちゃったのぉ?」
「フローラさんは、どうやら眠ってしまわれたようですね。そっとしておいてあげて下さい」
……そう!これが、僕の4つ目の策。
ママを泥酔させること。
ここから逃げられない、武器も隠せない、コールも止められない。
ならば、残った手段は一つ。
ママの意識を奪ってしまうことだ。
人は、ほろ酔い状態であれば、ほどよい気持ちのよさを感じるが、過剰なアルコールが体中を回ってしまえば話は別だ。
泥酔状態にまで陥れば、眠ってしまったり意識を失ったりするのだ。
ママは元々かなり酔いが回っている状態だった。
だから、僕は考えた。
あと一押しで泥酔状態にまで持っていけるのではないかと。
僕は、店にある中でもアルコール度数の高いボトルを選んでママに注いだ。
そして、ママに間断なく酒を浴びせることで、意識を奪ったのだ。
もちろん、ただお酒を飲ませようとするだけではいけない。
ママは酔った状態にも関わらず、俊敏に動くほどの力を見せた。ということは、単純に注ぎ足すだけでは、僕の狙いに気付かれる恐れがある。
だから、僕はここで僕の特技の1つを解禁したのだ!
それは……。
説明しよう!
相手をおだてておだてておだてまくることにより、気分を良くさせ、その場を切り抜けることである!
これは、僕がマッサージ修行に出ていたときだった!
来る日も来る日もお客さんに美女は現れず、近所のオバチャンたちだけだった!
オバチャンという生き物は厄介だ!なぜなら、休む暇もなくおしゃべりを続けてくるからだ!
僕は、その何の脈絡も意味もない会話に対処するために、おだてるという手法を開発したのだ!
『それはスゴイですね』『さすが〇〇さんですね』
そう調子のいい文句を、さりげなく立て続けに並べることにより、オバチャンたちの会話を切り抜けてきたのだ!
僕がオバチャンたちから指名を受けまくっていたことには、こうした背景があったのだ!
僕は、この特技【
僕は、一呼吸おいて、心の中で勝利の雄たけびを上げた。
…どうだ!これが…!
……勇者!夜立郁人だぁああああああああああああああ!!!!!
来る日も来る日もオバチャンたちを相手に、頑張っていてよかった!あの辛い暗黒の日々は、決して間違いではなかったのだ!
その証拠に!今ココで!役に立っているじゃないか!
僕は、ぐっすりと眠りに落ちたママを起こさないように店の端へと移動させた。
そして、カフェを閉める深夜まで、ママ不在の中、常連さんを相手に営業を続けた…。
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