第38話 カフェバイト、始めました
僕は、ペイジとともに今日から働き始めるアルバイト先へと向かっていた。
彼によれば、僕はカフェで働くこととなるらしい。
「あ、ちなみに、コレは絶対に誰にも言っちゃだめだぞ?魔法学院は、バイト禁止だからな。バイトするような低俗な学生はそもそも入学を拒否される」
な…なんだと!?そんなにリスクが高いのか!?
「でも郁人。お前、魔法石が必要なんだろう?背に腹は代えられないんじゃないか?」
「それはそうなんだが…」
僕は、危険を回避するために、新たな危険に首を突っ込んでいる気がしてならない。
「…時給はいくらなんだ?」
「まだ言ってなかったか?日給で1万ルピーだ。こんなにいい給料のところ、他にはないんだぞ?俺に感謝しろよ?」
1万ルピー…どこかで聞いたことのある貨幣単位だな……。
「それで、魔法石は1ついくらなんだ?」
「あー…。魔法石の質によってもちろん違うが、通常は5万~10万ルピーってところじゃないか?」
「な…!」
僕は、思わずその値段の高さに絶句してしまった。
おいおいおいおい!?
僕は1日に何度も魔法を使わざるを得ないときがあるんだぞ!?
魔法石を一つ5万ルピーだとすると、5日に一つしか使えないじゃないか!?
ん…いや待てよ…?
僕の頭に一つ疑問がよぎった。
「それじゃあペイジ。お前は僕に5万ルピーもする魔法石を買ってくれたったことか?貧乏なんじゃなかったのか?」
「あー…。それはアレだ…。俺は、ケイさんの店の常連だから、その分割り引いてもらって安くなっているんだ」
ペイジは、僕の疑問に目を反らし、はっきりとしない口調で答えた。
なんだ…?ペイジ、何か隠しているな…?
普段は歯切れのいいペイジが、はっきりしない答えをするのは怪しい。何かウラがあるのかもしれない。
そうこうしているうちに、ハルジオン中心街の中でも、特に煌びやかな繁華街へと入っていった。
徐々に居酒屋風の店が増えてきて、妖しげな雰囲気を纏う街路となってきた。
カフェって繁華街にあるもんなのか…?
僕はこの国の文化を知らないから分からないが、普通は表の人通りの多そうな場所にありそうなものだが。
「お、ここだここだ」
隣を歩くペイジが歩を止めて言った。
見上げれば、店の上部には『カフェ フローラ』とある。木造のお店で、扉を開けなければ分からないが、僕の想定内のカフェのようだった。
「じゃー俺はここまでだ。明日は休日だから、俺が街を案内してやるからフロレンティナ様の家まで来い。魔法石でも買いにいくんだろう?俺は厩舎にいるから呼んでくれ。あとは、郁人。頑張れよ!」
ペイジはそう言うと、そそくさと去っていった。そろそろフロレンティナの家に戻らないと時間がマズいのかもしれない。
明日は休日だったのか。知らなかったな。久しぶりに、美少女たちに命を狙われずに羽を伸ばせるかもしれないな。
おっとそうだ…遅刻したらマズいことになるんだった…急がなくちゃ…。
僕は、今日から働くことになる『カフェ フローラ』の扉を開けた……。
扉を開けると、地下に繋がる階段が現れた。てっきり1階にお店があるものばかり思っていたので、やや驚いた。
灯のランプは、油が切れているのかところどころ消えており、階段を下りる足元がおぼつかない。
カフェ…か……。
カフェにしては…なんだか妖しげだな…。
僕は一抹の不安を胸に抱きながら、階段を下りた。
……すると。
眼前に、予想だにしていなかった光景が広がっていた。
お…おい…これは……想定外だぞ…!!!
ペイジ…アイツ……!
いや、ペイジのせいにするのはおかしいな…だって、この店の看板もカフェだったのだから…!
おかしいのは、この国の世界観だ…!全く予想ができやしない…!
僕の目の前には、こじんまりしたパブのようなクラブのような光景が広がっていた。
カウンター席にはちらほら既に女性が座って酒を浴びるようにして飲んでいる。
テーブル席もいくつかあり、そちらも女性たちが座っていた。
そして、カウンター奥には……。
……ママがいた。
僕は彼女を一目みてバーのママだと確信した。
その色っぽい体に密着するような黒いロングドレスは、彼女のムッチリとした体を強調している。
胸からは推定Iカップはあろうかという爆乳が零れ落ちそうだ。
太ももには歩きやすくするための切れ目が入っており、そこから覗く肌がなんとも艶めかしい。
おいおいおいおい!?
これの…これのどこがカフェなんだよぉおおおおおお!
全然カフェじゃないじゃん!?
めちゃめちゃいかがわしい店じゃないか!?
こういうのは、クラブっていうんだよ!カフェじゃない!
眼前には六本木のバーを思わせる光景が広がっている。
こんなところで未成年が働いていたら、それは魔法学院だって退学にするわ!当たり前だろ!
僕は、信じられないような大人の場所に、思わず体が硬直してしまって動くことができなかった。
すると、入口で突っ立っている僕に気付いたママが、僕に近付いてきた。
「あらぁ、可愛いボウヤやねぇ。こちらにいらっしゃい?」
ママは、甘ったるいような、僕を誘うような声を出して僕の手を引いた。
「珍しいわねぇ、ココにこんな若い子が来るなんてぇ。私、我慢できるかしらぁ」
彼女の口からは、お客と一緒になって飲んでいるのだろうか、お酒の匂いが漂ってくる。
「フローラさん、その子がさっき言ってた新しいバイトの子じゃないのお?」
こちらは、カウンター席に座っていた女性。彼女も既に酔っているらしかった。
「あらぁ。そうなの?」
そう言って僕を覗き込んだママは、僕のうぶな心を包み込むような甘さだった。
この国の大人の女性は…マリー先生といいこのママといい…妖艶な方が多いな…。
僕はその吸い込まれそうになる胸から目を反らし、答えた。
「そうです、よろしくお願いします」
「うふふ、礼儀正しい子は、嫌いじゃないわよぉ?それじゃ、こっちに来て?」
ママは、僕をカウンターの奥へ来るように手招きした。
僕は、これから始まるカフェでの仕事に不安しか覚えなかった……。
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