第33話 美少女たちの決闘

 僕は、ペイジからもらった魔法石を使って幸運のそよ風を起こしたものの、いかんせん風が弱すぎたために、ティアラにしまう未来を見た。


 くっ…美少女たちのスカートをはためかせるのには最適だが、この場に相応しい魔法ではないのか……。


「こんなにも…風魔法が使えないってことは…ひょっとして…アナタ…」

 ティアラは僕が魔法騎士ではないことに気が付きかけている様子だ。


 もはや一刻の猶予も許されない。


 しょうがない…ここは…時間稼ぎだ!


「なぁティアラ、僕はどうやらコツが分からないからお手本を見せてくれないか?」


「風を起こすだけでお手本も何もないわよ。別に難しいことじゃないんだから。早くやりなさいよ」


 な…なんだとう!?


 まさかティアラがお手本を見せてくれないなんて!?


 それは想定外だ!


 勝気な彼女なら自慢げにやると思ったのに!

 それほどまで簡単な魔法なのか!


 ヤバい…何とか…しないと……。


 何かないかと辺りを見渡すと、ティアラの隣にいるアストレアが目に入った。


 そうだ…!


 ここは、不自然だが…これで時間を稼ごう…!


「そういえば、ティアラとアストレアってどっちが風魔法得意なんだ?」

 何が『そういえば』なのか僕にも分からなかったが、必死な僕はとにかく言ってみた。


 ……すると。


「は?私に決まっているじゃない?こんな家柄だけのお嬢様に私が負けるわけないわ」

 ティアラが考える間もなく即答した。


「あら?私の魔法がアナタの消しカス魔法に劣るとでも?私よりも胸がちっちゃい子供に負けるわけがないですわ」

 アストレアも、ティアラの挑発に食いついたようだ。

 

 さすがアストレア…煽りの名手だ…。

 ティアラの魔法をけなすだけではなく、胸の大きさまでマウントを取っていくあたりはさすがだ…。


 僕がアストレアの煽りに感心していると、ティアラの感情が昂りはじめた。


「はぁ!?胸の大きさなんて魔法と関係ないじゃない!」


 それはそうだな…。


「分かったわ!どっちの魔法が優れているか勝負よ!アンタのその胸をそぎ落としてやるわ!」

 胸の大きさに触れられたことで、ティアラはより激高しているように見える。


「もちろん、受けて立ちますわよ、第10位さん?」

 側近としての階級でも再びマウントを取っていくアストレア。


 二人は互いに距離を十分に取り、構えた!


「アンタが判定するのよ!しっかり見てないさい!」

 ティアラの怒声が僕に向けられた。


 ……え?僕が判定するの?


 これ…ヤバいヤツじゃん?


 ティアラとアストレア、どっちを勝ちにしても、負けにした方にヤられるパターンじゃん?


 僕は、スキルを発動しなくとも、自分がヤられる未来が見えた。


「喰らいなさい…風業の大嵐ウィンド・トルネード!」

「薙刀・斬撃波(吐息で吹き飛べ)」 


「ゴォオオオオオオ!」

 次の瞬間、轟音と共に巨大な炎の竜巻と、斬撃の竜巻が出現した!


 ちょ…ちょっとぉおおお!?


 この二人…やっぱり混ぜるな危険だ!!!


 ティアラは炎の竜巻を、アストレアは斬撃の竜巻を生じさせたようだ!


 待て待て待て待て!


 なんだこれは!?風魔法の勝負じゃなかったのか!?


 いや…確かに二人の周辺には強風が吹き荒れている…。


 だが、その本質は風ではない!


 結局のところ、ティアラは得意の炎魔法が風を飲み込み、先ほど僕が喰らった『炎業の大嵐フレイム・トルネード』となってしまっている!


 アストレアも、得意の剣技で斬撃を繰り出し、それが竜巻となっているが、結局それは斬撃だ!吐息でもなんでもない!


 僕は審判としての役割を早々に諦め、二人に背を向けて逃げ出した。


 いやだって…無理だろ!?火の粉と斬撃が近くまで飛び火している!そのままでいたら確実に巻き込まれてしまう!


 そして……!


 そして、二人の炎と斬撃の竜巻が衝突した!


「バリバリバリバリ!」

 お互いの実力が拮抗しているのか、激しく音を立てている!



 そうだ…そのままお互いで相殺し合ってくれ!そしてどちらの魔法も消えてくれ!


 じゃないと…僕まで巻き沿いになりそうだ!


 僕は、振り返りながらそう願った。既に体のあちこちに擦り傷や火傷ができている。


 ……だが。


 なんと、二人の竜巻の回転する向きが同じだったのか、竜巻が一つに一体化してしまった!


「ゴォオオアアアアオアアアアアオアオオアオア!!!!!」


 な…なんでだ!おかしいだろ!


 僕は、全力でダッシュしている。だが、今や二人分の竜巻の強さは尋常ではない!


「ティアラ!アストレア!止めてくれ!強すぎる!僕が巻き沿いになる!」

 僕は声を張り上げて必死に二人に訴えた。


 ……だが。


「ごめん、もうコントロールできないみたい…」

「あら奇遇ですね、私もですわよ」


 二人とも、『テヘっ』って顔をしている!


 ……マジかよ!


 何がテヘっだよ!可愛いけど困るよ!僕の命が危ないよ!


 やべぇ…これは死ぬかも…。


 と思った時、僕の意識はモノクロ世界へと…!


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 はっ…!

 気付けば僕の意識はモノクロ世界へと移っていた。


「お…ぉおおおおお!?」


 二人の竜巻はサンサンと光輝く天をも打ち破る勢いだった!

 炎と斬撃がミックスされて、もはやこの世の光景ではない!


 周囲の美少女たちは既に端の方へと避難している!


 そして…そして僕は…逃げ遅れていた……。


 正面には竜巻がみるみるうちに僕へと迫ってくる!

 今や風圧で立ち上がることさえできなかった!


「ぎゃ…ぎゃぁああああああ」

 僕は、竜巻に巻き込まれ、体中を焼かれ切り刻まれた……。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 はっ…!

 僕の意識は再び元の世界へとようだ。


「がっ……」


 僕の体は、全身を燃え裂かれ、切り裂かれたような痛みが走っていた。

 

 な…なんだ今の未来は!?


 見えた未来がほんの僅か先だ!僕に取れる選択肢が残されていない!


 既に逃げ遅れ、竜巻を前にしてはもう何もできないじゃないか!?

 

 はっ……!


 僕は、強風を感じて前に目をやると、そこには……。


 そこには、先ほどスキルで見た光景があった…。


 既に竜巻は天にも達する勢いで、周囲にはもう誰も残っていない。

 僕だけが逃げ遅れていた。


 この…数秒後に…僕は竜巻に巻き込まれるじゃないか!?


 タイムリミットは、およそ3秒。


 この短すぎる時間で、僕は何ができるのか。

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