第32話 幸運のそよ風

「それではみなさんも、風魔法の練習を始めてください」

 サーシャ先生が言うと、教室のあちこちで風が起こり始めた。


「あ、そうだ自然の風も取り込めるように、天井も開けておきますね」

 サーシャ先生が手を天井へと掲げると、天井がゆっくりと横へとスライドした!


「ゴゴゴゴゴ」


 天井が全開となると、太陽の光と、自然に吹く風を気持ちよく感じる!


 え…どんな学校だよ天井開くって…。


 僕はあまりのスケールに言葉もなかった。


 自然の風の力も利用できるようになったからか、美少女たちは存分に強風を生み出している。


 そして、その強風に煽られるようにして、そこら中で美少女のスカートがめくれている。


 ………。


 風魔法…なんて卑猥な力だ!


 僕は、必死に鼻を抑えて鼻血が出ないようにしながら、思った。


 風により美少女たちのドレスがはためいている光景は、まさに楽園パラダイスだった。


 僕は風魔法がもたらすハレンチ極まりない光景に魅入られていた。


 僕も…僕もこのハレンチな力が欲しい!


「おぉおおおおおおお!」


 僕は、この世界に来て初めて、ティアラなど他の人に促されずに、積極的に動いた。


「おぉおおおおおお!神よ!神がいるならば!僕に力を下さい!このハレンチな光景を生み出す力をぉおおおおおおおおお!」


 僕は、自分に魔力がないことなどお構いなしだった。

 ただ僕のエロスへの飽くなき探求心が、僕を突き動かしていた。


「あぁあああああああああ!」



「アナタ…ふざけていないのは分かるけど…何も起きていないわよ?」

 隣にいるティアラが冷静に指摘した。

 確かにこんなに近くにいる彼女のドレスは微動だにしていない。


「動け!動け!動けぇええええええええ!」

 僕は、今や風を起こすことよりも、ドレスの裾をひらひらと動かしたい一心で叫んだ。


 だが……。


 何も、起きなかった……。


「ゼェ…ゼェ……」


 クソッ…現実は…厳しかった……。


 やはり…僕ごときの才能では魔法は使えないのか…!?


「おかしいわね…どんなに魔力が少なくなっていても、この程度の風ならいつでも起こせるはず…」

 いくら必死になってもそよ風すら起こせない僕を見て、ティアラは腑に落ちないといった様子だ。


「そうですわね。魔法騎士様に苦手な魔法系統はないはずですわ。だからこそ私たちは魔法騎士を選んでいるのですから」

 アストレアもティアラと一緒になって考えている。


 ヤ…ヤバい!!!


 二人が…何かに気が付き始めている…!


 このままでは…僕が魔法を使えないことがバレてしまう!

 そしてバレたらヤられてしまう!


 どうすれば…どうすればいい…!?


「ウフフ、困っているのなら…助けてあげましょうか?」


 ……!


 フロレンティナ……!


 振り返るとフロレンティナが耳元で囁いていた。


 ………。


 ありがたい…この場を切り抜けられるのは、ありがたい…が…。


 だが…僕は極力、フロレンティナには頼りたくないんだ…。


 彼女の力を借りれば借りるほど、この首輪の効力が強まってしまう。

 彼女にこれ以上の弱みを握られることは避けたい……。

 何をさせられるか分かったものではないからな。


 ……そうだ!


 僕は、ペイジから魔法石をもらったことを思い出した。


 確かこの魔法石の色は……。


 僕は、こっそりと魔法石を確認した。


 そうだ…新緑色だ…。


 風のイメージは緑…。おそらくこの魔法石、風魔法が使えるんじゃないか…?


「こんなにも…風魔法が使えないってことは…ひょっとして…アナタ…」

 ティアラが、何かに気が付きかけた!?


 時間がない!使うしかない!この魔法石を!


 僕は、がむしゃらに魔法石を発動した……!


 と思った瞬間、僕の意識はモノクロ世界へと


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 はっ…!

 気付けば僕の意識はモノクロ世界へと移っていた。


 ちょうど僕は、魔法石を発動したところみたいだ。


「お…おぉ……?」


 魔法石がさらに新緑色に輝き始めた!

 今、効力を発揮しようとしているのだろう!


「な…なにが起きるんだ…?」

 僕は、期待と不安の入り混じる気持ちで、様子を観察した。


「ふわっ」


 ……ん?


 今、『ふわっ』って聞こえたような……。


 ん…?


 お…おぉおお!?


 なんと、教室全体に、地面からそよ風が吹き上げているように、上昇気流が発生している!


 ただし、その勢いはそよ風!気付くか気付かないか際どいくらい弱い!


 だが、僕にはこの弱さで十分だった。

 あまりの勢いの弱さに、美少女たちは風が起きているに気が付いていない。


 それほどの優しさで吹き上げているのだ。


 ……ということは!


 そう!地面から吹き上げるような優しいそよ風が!今、美少女たちのスカートを舞い上げている!


 太ももの大部分が露わになっているにも関わらず、そのことに気がつきさえしない!


 これは…これは……。


 僕はペイジの粋な計らいに、感動すら覚えていた。


 アイツ…これを狙ったのか…なかなかやるな……。


 まさにこれは幸運のそよ風と呼ぶにふさわしい!

 スカートを舞い上げるだけではなく、そのことに気が付かせないのだから!


「アンタ…私にウソついてた……!?」

 僕が、そのハレンチな光景に興奮していると、後ろからドスの効いた声が刺さった。


「ティ…ティアラ!」


 振り返れば、般若モードのティアラが腕を組んで仁王立ちしている!


「ちょっ…ちょっと待ってくれ!ホラ!見てくれよ!起きているだろう!風が!舞い上がってるだろう!」

 僕は、必死で今自分が起こした風魔法を説明しようとした。


 ……だが。


「は?何も起きてないじゃない」


 な……!


 あまりの風の弱さにティアラも気が付いていないようだ!

 これはまさに不運!弱すぎるそよ風の運ぶ不運だ!


「私を侮辱した罪は重い…!炎業の大嵐フレイム・トルネード…!!!」


 ティアラが前方に手をかざすと、そこから炎の竜巻が現れた!


「ゴォオオオオオ」

 燃え盛る炎と高速で回転する勢いで、耳をつんざくような轟音を鳴り響かせている!


 そして、次の瞬間、その巨大な炎の竜巻は、僕に向かって放たれた!


「ぎゃぁあああああ」

 僕は、その炎の竜巻に巻き込まれ、体を焼かれ、勢いに引き裂かれ、宙に吹き飛ばされた……。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 はっ…!

 僕の意識は元の世界へとようだ。


「ぐっ……」


 僕の全身は焼かれたような、引き裂かれたような痛みが支配している。


 幸運のそよ風……確かに素晴らしい魔法だ……。


 ハレンチな光景を生み出すという点においては素晴らしい…。


 だが、だが、この場を切り抜けるという点においては、全く役に立たない……!

 あまりに、起こす風が弱すぎるのだ……!


 そして、ティアラが言った。


「こんなにも…風魔法が使えないってことは…ひょっとして…アナタ…」


 ……ヤバいぞヤバいぞ!?


 魔法石は役に立たないことがわかった!


 どうすれば…どうすればいいんだ!?

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