第24話 ご褒美と同志

 フロレンティナは、何に悩んでいる…?


 …どういうことだろうか。


 美少女のブーツや靴下を脱がせたり、素足を洗ったりマッサージするのは、僕にとってはご褒美以外の何物でもないというのに。


「おかしいわね…アナタの…どこが…今までの勇者と違うのかしら…?彼らは、例外なく激しい抵抗を示したし、侮辱に耐えられないという感じだったのに…。アナタは…そんなことを苦にもしないよう……」

 フロレンティナは、僕の顔をじっと見つめながら、考え込みながら言った。


 ……?


 今までの、勇者……? 


 そうか、フロレンティナは、以前に召喚された勇者たちにも、同じように足を洗わせたりしたのか…。


 僕は、彼女の部屋に入ってから、彼女の思惑と僕の反応に微妙な差異がある理由に気が付き始めていた。


 女神様が確か言っていたな…。


 僕が転生するのは、彼女の八つ当たりに過ぎなくて、普段は、もっとちゃんとした勇者を選ぶと…。


 ちゃんとした勇者とは……。


 きっと…生まれたときから神からの才能ギフトに恵まれていて…。

 きっと、富裕な家庭に生まれ、何不自由なく育っているはず…。


 そして、彼らは…例外なく周囲から尊敬されてきたし、自分に高い誇りを持っているはずだ…。


 それに、身の回りのことは召使などにやらせているのだろう…。

 そう…まるで今フロレンティナが僕にやらせているように……。


 ……そうか。


 僕は、ようやく違和感の正体に辿り着いた。


 今までの勇者は選ばれしサラブレッドだった。

 特にティアラやアストレアの襲撃や、魔法学校での授業を切り抜けてフロレンティナの家まで到達した勇者ならば、サラブレッドの中のサラブレッド、天才の中のさらにほんの一握りの天才だけだろう。


 つまり…彼らは…恐らくこのフロレンティナの仕打ちに耐えきれなかったのではないか?


 自分の召使以下のことをやらされるか、首を絞められるかの苦渋の選択を迫られて、苦しんだのではないか?


 そして、フロレンティナはそんな苦悶に歪む彼らを見て楽しんでいたのではないか?


 確かに、彼ら選ばれし天才の勇者たちの中には、鬼畜すぎる美少女たちをも納得させるレベルの能力を持った人もいただろう。

 だが、このフロレンティナによる試練はまったく別の角度からだ。


 そう、辱めだ。


 この辱めを受け入れられなければ、首輪が締まり窒息死という未来が待っている。


 だが、温室育ちのサラブレッドたちには、そんな辱めを受けた経験もなければ、当然耐性もない。さぞ苦しんだことだろう。


 ……だが。


 …だが、僕は違った。


 僕は、正規のルート、すなわち高い才能を買われてこの世界に来たわけではない。単なる八つ当たりである。


 したがって、僕はサラブレッドでもなんでもない、ただの庶民である。高潔なる誇りなど微塵も存在しない。


 美少女の足を見られるだけでも眼福なのに、揉ませて頂けるなど望外の幸せである。


 そう、フロレンティナが思っているお仕置きは!

 僕にとってはご褒美なのだ!(バン!)


 僕は、思いがけず天才の勇者たちを上回る?ものを持っていることに気が付いて得意になった。



 …すると、うっすらと、フロレンティナの前に半透明色の画面が現れた!


 んん?


 僕は、よく目を凝らした…!


 —————————————

 フロレンティナ

【好きなヤりかた】辱殺

【発情スイッチ】誇り

 —————————————


 これは…フロレンティナのステータス!

 スキル【卑猥な覗き見ムッツリ・スケベ】が発動したようだ…。


 好きなヤリかたは辱殺。

 聞いたことのない言葉だが、女王様らしく、辱めてヤるのが好みらしい。


 そして、発情スイッチは、誇り。

 やはり、高潔な気高き誇りを持った勇者たちがカモにされてきたのだろう。

 挫折や辱めを知らない彼らを見ると、フロレンティナはヤりたくなってしまうようだ。


 ふむ…大体、予想通りか…。


 ん…?


 そういえば、なんでスキルが使えたんだろう…?


 確か、正門で使おうとしたときはSP不足だった気が…?


「ステータス」

 僕は、ステータスを確認した…。


 —————————————

 夜立郁人 Lv3

 HP: 32/37 SP: 10/11

 職業: お尻よりおっぱい派

 スキル:

臆病者の白昼夢リスク・プリディクション】命が危険に晒されたとき、少しだけ未来を見ることができる。

卑猥な覗き見ムッツリ・スケベ

 —————————————


 なっ…!


 僕は、驚きのあまりステータス画面を凝視してしまった。


 HPもSPもめっちゃ回復してる…!


 ……まさか!


 …フロレンティナの足を揉んでいたら、回復したというのか!?


 そうだ。そうに違いない。あれほどの至福の時間は、そうそう経験できるものではない。

 睡眠による回復などとは比べ物にならないだろう。


 …やはり、これは僕にとってご褒美だったのだ……。



 僕が、この問題の正解に至ったとき、まだフロレンティナは座って考え込んでいた。


 すると、彼女は重々しく口を開いた。


「まぁ、いいわ…。今日のところは、ここまでよ。もう、帰りなさい…」

 フロレンティナは、なぜ僕が辱めを感じていないのか腑に落ちないまま、とりあえず僕を家に帰すことにしたようだ。


 僕は、フロレンティナの部屋をあとにした……。


 

 §§§



 僕は、大きな邸内を迷いながらも何とか玄関に辿り着いた。


 僕は、こういう辱めならいつでも喜んで受けたいと思いながら、彼女の家を後にした……。


 ……と思った直後だった!


「おぉ友よ!同志よ!」

 バシッと音が鳴らんばかりに僕の肩を何者かの腕で組まれた!


「うぉっ!」

 僕は、完全に油断しきっていたために、驚いて声をあげた!


 だ…だれだ!?


 隣を見やると、どこかで見た記憶のあるような…がいた。





「おぉ友よ!同志よ!」


 フロレンティナの大きな邸宅を去ろうとしていた直後、やってきたのは、どこかで見た顔のだった。


 コイツ…どこかで見たような……?


 ぼさぼさ頭の冴えない小男。


 誰だったっけな…と首をひねっていると、彼は元気よく言った。


「あぁ俺か?俺は、フロレンティナ様の馬の飼育を務めているモンだ。ペイジって呼んでくれ」


 馬の飼育……?


 そうだ!確か、試しの門を抜けたあと、フロレンティナが馬を預けていた付き添い人だ!

 そして、ココに着いたときも、コイツに預けていた!


 僕は、ポンと手を叩かんばかりにペイジを見た光景を思い出していた。


「お?思い出したか?で、お前は何て名前なんだ?新しい勇者なんだろ?」


 …コイツ、やけになれなれしいな…仲良くなれないタイプだ……。


 僕は、そう思いながらも答えた。

「夜立郁人だ。そうだ、昨日来たばっかりだ」


「おぉ!昨日か!郁人、なかなかやるな!フロレンティナ様の辱めを難なく乗り切ったのは郁人が初めてだぞ!」


 …いきなり名前呼びとは…。まったく礼儀がなっていないな…。

 そもそも、僕は男がキライだ。僕の視界には美少女しか入れたくないんだ。


 僕は汚らわしい存在を視界の外に追いやり、相手にせずにさっさと歩を進めた。


「おいおいおい!待てよ!郁人は俺の同志だろ?さっき、部屋での様子をチラッと見させてもらったんだ…!」


 ペイジは小走りで僕の隣を歩き始めた。


 同志…?さっきも言ってたが、どういう意味だ…?

 僕に仲間などはいらない…!ハーレムに男は不要なんだよ…!


 僕が、言葉にはしないものの、言外に伝えんばかりにペイジをにらんだ。


「おいおい!だからそんな怖い顔をすんなって!郁人、アレだろ…?お前、相当の、スケベだろ…?」


「なっ…!!!」


 なんだと…!?僕がスケベだと既に見抜かれている…!?

 なぜだ!?あまりに早すぎる!

 部屋を覗いたといっても、それだけでわかるものなのか…!?


 僕は、初めて彼を前にして立ち止まった。


「隠したってムダだぜ?俺たちは同じ志を持っていることが分かっているはずだ…!」


 ペイジはそう言うと、正面から僕を見据えた。


 ………!!!


 コイツ……!


「ほらな?否応なくわかるんだ、こういうのは」


 僕は、ペイジの目を見て直感した。


 コイツは、同志だと。


 だが、そう分かっていながらも、僕は、念を押すことにした。


「お前は学校の廊下を歩いている。目の前に、誰かが履いていた靴下が落ちている。お前はどうする?」


 ペイジは、僕の質問に一瞬意表を突かれたようだったが、やがて得心がいったように自信たっぷりに答えた。

「そうだな…。靴下はたっぷりと匂いを嗅いだあとで、ポケットにしまって持ち帰るな」


 ………。


 僕は、その答えを聞き、しばらく考えたあと、言った。


「よく研究しているが、甘いな。半分正解だが、半分は不正解だ。

 まず、僕ならばいきなり靴下の匂いを嗅ぐことはしない。なぜなら、ブサイクが履いている可能性があるからだ。

 僕は、こういうことがいつあっても素早く対応できるように、誰がどんな靴下を履いているかインプットしている。だから、誰のものかを自身の記憶と照らし合わせたうえで、美少女のものであれば匂いを堪能し、持ち帰るが正解だ」


 ………。


 僕とペイジは正対し、しばらくの間、沈黙が流れた……。


 そして、お互いどちらからともなく手を差し出し、固く握手をした。


 今やお互い分かり合っていたのだ。


 僕たちは、エロスへの飽くなき探求心を持った、同志であると。


「いやー嬉しいぜ、新しい勇者様が同志でよ?いつも来る勇者様は、かたっ苦しいヤツばっかりでさぁ」


「やっぱりそうなのか?ちなみに勇者が入れ替わるのはどれくらいの頻度なんだ?」

 僕は、ずっと聞きたかった疑問を聞いてみた。


「うーん、俺は、ただのフロレンティナ様の馬の世話をしているだけだから、完璧に知っているわけではないが、フロレンティナ様がたまにこぼした言葉からすると、大体、そうだな…。

 9割は召喚直後に消されて、初日を生き延びるのは約1割。

 さらにそのうちの1割だけが2日目の魔法学校の授業を切り抜ける。

 で、最後にこのフロレンティナ様が大体狩っちまうって感じだから…。

 ま、1日3人くらい召喚されてるんじゃないか?」


 ……!


 やはり…ほとんどの勇者は召喚直後速攻でヤられていたのか!

 それにしても1日3人とは…どんな勇者の回転率だよ…!


 僕はその数字の物語る恐ろしさに背筋がブルっと震えた。


「やーだから郁人はスゴイよ?もう2日も生き延びてるからな。それに、同志ときている。何か困ったことがあれば言えよ?できる限り力になるからよ」


 ペイジ、か…。なかなか詳しい情報も持っているし、同じ志を持っている。なかなかありがたい存在だ。


「それにしても驚いたよ。フロレンティナ様の足を嬉々として洗っている勇者様を見たことがなかったからさぁ」


「ふふっ…もしかして、羨ましかったのか?」


 僕がからかうと、ペイジは叫ぶように答えた。

「当たり前だろ!俺は、フロレンティナ様に触れたことさえないんだ…」


 …そうだったのか。それは悪いことを言ったな…。


 それにしても、ペイジはこの世界のことをよく知っていそうだ。

 今のうちに色々聞きたいな…と僕が思っていると、ペイジは言った。


「これから時間があるか?メシに行かないか?今日は俺が奢ってやるよ」

 

「ありがとう、ペイジ。ちょうど僕も色々話したいと思っていたんだ。お言葉に甘えさせてもらうよ」


 僕は、この世界に来て初めて心を許せる友人を持てる気がして、気持ちがスッと軽くなった。


 そして、僕とペイジは、陽が落ちて暗くなり明かりがぽつぽつと灯り始めた中心街を歩き始めた……。


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