第22話 女の子が招待する場合

「ぐっ……!」

 僕は、緩やかだが着実に締まり始めた首輪を感じながら、猛然と教室を飛び出した。


 どうやらこの首輪が締まりきる時間制限タイム・リミットは近いようだ。


「おぉおおおお!」

 僕は、廊下をスプリンターのように駆け抜け、階段を幅跳び選手のように飛び降りた。

 

 広すぎる校舎からようやく外に出ると、その巨大な正門、通称『試しの門』が目に入ってきた。


 あそこか!

 

 僕は、さらに四肢を躍動させた。これ以上ない力強さで地面を蹴り、自らを前進させた。


「が…あぁ……」

 今や喉の締め付けはさらにきつくなっていた!僕は、かろうじて呼吸ができているような状態だ!


 早く…早くしなければ!


 ついに正門が僕の視界の直線上に入ってきた!門の下には、フロレンティナがこちらを向いて佇んでいる!


 フロレンティナ!今!イクぞ!


「んんんん!」

 僕は、もはや呼吸をするたびに首から痛みすら感じていたため、最後に大きく息を吸って、呼吸を止めて門に向かって走った!


「ズシャァアアアアア!」

 僕は、最後は滑りながら、地面から激しい砂煙をあげながら、フロレンティナの傍へと駆け寄った!


「がはあっ…はぁっ…はぁっ……」

 僕は全身を使って、激しく呼吸をした。酸素がこんなにもみずみずしく美味しいものだと知ったのは今日が初めてだった。


 ……!


 気が付けば、僕は普通に呼吸ができるようになっていた。フロレンティナによる隷属の首輪が緩んだらしい。


 僕がフロレンティナを見やると、彼女はストップウォッチのような機械を手に持っていた。

「……4分47秒ね。悪くはないタイムよ。アナタ、あと13秒で死ぬところだったわよ?」


 やはり!時間制限タイム・リミットがあったのか!それも、たったの5分だけ!

 この広すぎる校舎を考えれば、あまりに短すぎる!


「ウフフ、明日は4分で締まるようにしておくわね。天才の勇者様なら、もっとヤれるはずだもの」


 ……!


 やはり…フロレンティナは女王様だった!それも、ドSの!超ドS女王様だ!

 僕をさらに苦しめては楽しんでいる!

 僕は、明日も確定した地獄がやってくることを知り、絶望を感じた。


 最初、僕を助けてくれたのは、彼女の一時的な仮面に過ぎなかった!すべては、後で僕を苦しめるためだったのだ!


 くそっ…。勇者様なのに、美少女の下僕に成り下がるとは……。


 僕は、改めてこの世界の不条理さを恨んだ。


 ………。


 そうだ…。忘れないうちに、一応、ここでフロレンティナのステータスを見ておこう…!

 

 僕は、近いうちに来たる危機に備えるべく、スキル【卑猥な覗き見】を発動し、フロレンティナのステータスを覗き見た…!


 ……が。


 何も見えなかった……。


 ……どういうことだ?

 見えないにしても、マリー先生のときのように、少なくとも『??』の表示だけは現れるはずだが…。


 ……まさか!


「ステータス」

 僕は、素早く自分のステータスを確認した。


 —————————————

 夜立郁人 Lv3

 HP: 3/37 SP: 1/11

 職業: お尻よりおっぱい派

 スキル:

臆病者の白昼夢リスク・プリディクション】命が危険に晒されたとき、少しだけ未来を見ることができる。

卑猥な覗き見ムッツリ・スケベ

 —————————————


 …やはり!


 度重なるスキルの発動とモノクロ世界での傷害により、HPもSPもほとんど残っていなかった!


 おいおいおいマズいことになったぞ!まだフロレンティナのパートががっつり残っているのに!


 僕がそうして頭を抱えていると、フロレンティナは僕に向かって馬上から言い放った。

「じゃあ、行くわよ。離れずに付いてきなさい」


 フロレンティナはそう言うと、近くに待機させてあった彼女の馬に軽々と跨り、ムチを取った。


 おぉ…!さすがフロレンティナ…!やっぱり騎乗姿が一番イイな……。その下々を見下すように履いて捨てるように闊歩する姿は…たまらない!


 僕は、たった今下僕にと思ったことなど忘れ、下僕に悦びを感じていた。

 冷静に考えれば、このような凛々しく美しい女王様の傍を歩けるだけでも幸福というべきである。


「あ、言わなくても分かると思うけど、離れ過ぎたら、その首輪、締まるから」

 フロレンティナはそう言い捨て、ムチを馬にピシっと振るって街へと駆け出した!


 !?!?!?


 ど…どこへ行くの女王様!?


 それに…離れたら締まるって…?


「がっ!」

 突如、僕の首輪がきつく締まり始めた!しかもその強さは校舎のときよりも強い!


 まさか!?


 この女王様、なんたるムチャ振りなんだ!


 次の瞬間には、僕は全力で駆け出していた。


 前には、フロレンティナが颯爽と騎乗し街を駆けている。街の住民はもう慣れてしまっているのか、フロレンティナのことが目に入ると、前もって道を開けていた。


「うぉおおおおお!」

 僕は、先ほど全力疾走して疲れ切った体に、さらにムチ打って走った。


 なんとかフロレンティナの傍まで追いつくと、首輪の締め付けは緩くなり、呼吸がラクになった。


「ハァ…ハァ…ハァ……!」

 僕は、激しく呼吸しながら、街を駆けるフロレンティナのすぐ後ろを走った。

 必死の表情でフロレンティナに縋りつくように全力疾走していた僕は、さも不振な様子だっただろうが、街の人は特に驚いた様子もなかった。

 もはやフロレンティナに弄ばれる勇者も珍しくはないのだろう。


「ウフフ、やっぱりアナタ、意外とタフよね。それでこそ虐めがいがあるわ…!もっとペースを早めるわよ…!」

 フロレンティナはさらに大きくムチをふるい、馬は走る速度をさらに早めた!


「う…うぉおおおお!」

 僕は、フロレンティナにおいていかれないように必死だった。

 少しでも離れれば首輪が締まり、呼吸が苦しくなる。ということは、一度でも離れれば挽回が難しいということだ。



 そういえば…前にも…こんなことあったな……。


 僕は、必死に走りながら、高校でも同じような経験をしていたことを思い出していた。


 僕は、陸上部女子部員が走る姿を覗いていたことがバレた後、秘儀【薄っぺらな仮面僕は優等生です】を発動し、ピンチを切り抜けた。

 だが、その後に待っていたのはこのセリフだった。


『おい、なぜ部員を覗いている?』

『先生の授業で速く走るためです』

『それなら仕方ないな…』

(かかったな!)

『では、次の100m走で9秒台を出せるはずだな?』

(!?)


 当時もムキムキ教師にムチャ振りをさせられていた。

 日本人で100mを9秒で走れるのは数人しかおらず、そんなタイムを出せるはずがないことを知らなかった僕は、次の日からインターネットを駆使して早く走る方法を研究し、放課後は近所の公園で短距離走の練習を繰り返した。


 そして、タイム計測の日。


 僕は、10秒の壁を突破した。


 ストップウォッチを押す人が下手だっただけかもしれないし、追い風が吹いていたからかもしれない。


 だが、僕は9秒台で駆け抜けた。


 僕は、女子部員が駆ける姿をこれからも堂々と眺める口実が欲しかったのだ。もしここでいいタイムが出せれば、早く走るということを大義名分として掲げ、時間の許す限り飽くことなき女子部員の躍動する姿を眺めることができる。


 僕は、エロスの力で限界を突破したと言っていい。



「アナタ…本当にヤるわね……」

 フロレンティナはなかなか離されない僕を振り返り、驚きを含んで言った。


 そう!

 僕は、その時以来、速く走ることができるようになったのだ。当然、毎日走りこんだため、持久力だってある。


 やはり…覗きこそが最強なのだ……!


 僕がそう確信を深めていると、馬が歩を進めるスピードが落ちてきた。

 どうやら、目的の場所に到着したらしい。


「ふぅ…着いたわよ。ようこそ、ここが私の家よ。私は宮殿にも部屋を与えられているけれど、こっちも使っているのよ」


 フロレンティナの…家…だと!?

 見れば、周りの住宅を30個足しても足りないくらい大きな立派な屋敷があった。


 僕は…美少女の家に御呼ばれしたのか!?


 初めてだ!初めて女の子の家に足を踏み入れた!それもこんな美少女の!


 落ち着きかけた僕の呼吸は再びハァハァと荒ぶり始めた。


 待て…落ち着け……。


 僕は、はやる気持ちをどうにか抑えようと努力した。


 女の子が家に男の子を招待するときってどういう場合だっけ……?


 僕は、てんで経験がないので友達の話を思い出そうとした。


 確か、付き合ってる人同士が、それこそ、部屋でイケないことをするときとか……。


 …!?!?!?


 まさか!?


 僕は、この現実が信じられなかった。この現実が夢であってほしくないと初めて思った。


 フロレンティナは、今日、僕をのか!?


 そうだ!そうに違いない!


 だからこっそり僕を呼び出し、家まで招待したのだ!


 僕の…初めての相手は…フロレンティナ!


 僕は、召使のような人に馬を引き渡しているフロレンティナを改めて眺めた。


 まさにスレンダーというべき体型…!推定バストはDカップと他の美少女たちと比べればやや小ぶりだが、ほっそりと引き締まった体のために、胸が小さいと思うことはない……。

 黒いパンツにジャケットを羽織り、手袋、ブーツを身に着けている姿は、まさに女王様!

 その手にもつムチで僕を痛めつけてほしいとさえ思う!


 僕は、これからどんな辱めを受けるのか想像して気持ちが昂っていた。


 ドSの女王様によって、僕の内なる性癖までも露わにされそうだと期待に胸をときめかせた。

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