第20話 待ち合わせは正門前で

 僕は、自分の首元に手をやった。


 触った感触はないが、僕の首には、フロレンティナの隷属魔法「隷属の首輪パーフェクト・オベイション」によって、首輪を嵌められている。


 僕は、フロレンティナに感じた恩の分だけ、彼女の命令に絶対服従を強制されている。さもなければ、首輪が僕の首を絞めてしまうのだ。


 ……。


 ……イヤおかしいだろぉおおおおおおお!?


 僕は!勇者だろ!なんで首輪を嵌められてんのぉおおおおお!?


 聞いたことないよ!?首輪系勇者!どこの世界でペットみたいに、奴隷みたいに飼われた勇者が存在するんだよ!

 首輪を嵌めた勇者に救われたい人なんていないよ!


 くっそ…大変なことになったぞ……!


 ていうか…なんで今回はこうしてフロレンティナに首輪を嵌められる未来が見えなかったんだろう……?


 炎の融合魔法を手伝ってもらったときも、未来は見えたものの、特にこの光景は暗示していなかったけどな……。


 …………。


 ……まさか!?


 そうか…未来が見えなかったのか……。


 僕のスキル【臆病者の白昼夢】は、少し先までの未来しか見えない。

 つまり、こうしてじわじわと僕を死に追い詰めるタイプの場合、前もって未来を知ることはできないのか!


 くっ…なんてことだ……。


 僕は、これからフロレンティナに何を命令されるのか戦々恐々とした。

 内容次第では、僕の命さえ危ぶまれてしまう。

 

 そんな僕の不安げな表情を楽しむようにして、フロレンティナは僕に言い放った。

「それじゃあ、放課後、正門前で待ち合わせをしましょ?あ、正門って試しの門のことね?

 早く来たほうがいいわよ?遅くなりすぎたら、勝手にその首輪、締まるから」


 正門前、待ち合わせ……!


 初めての美少女とのドキドキ待ち合わせイベントが、まさか死の恐怖によるドキドキになるとは思っていなかった……!


「あまり遅れると不審がられるから、もう教室に戻りなさい。私は先に正門で待ってるわね。

 あ、そうそう、ティアラやフロレンティナにこのことを言ってはダメよ。言ったら、その首輪、締まるから」


 先に行って待ってるという言葉が、こんなに怖いものだとは知らなかったな……。


 行かなければ、死。他の人に知られても、死。


 つらすぎる美少女との待ち合わせだ。


「じゃ、放課後、正門前ね」

 フロレンティナはそういうと、颯爽と身を翻してどこかへ去っていった。


 僕は、首輪を嵌められた衝撃と未来への不安から、頭をうなだれて、教室へと戻った。


 §§§


「……ということなので、みなさん、覚えておいてくださいね」

 教室へ入ると、相変わらず肩から眩しいほどの肌が見えているサーシャ先生は、教壇に立ってHRをしていた。どうやら僕はHRの終わり間近に滑り込んだようだ。


「遅かったわね?」

 ティアラが、アストレアとともに座る最後列の席から僕を手招きした。


「まぁね、ちょっと色々あって……」

 僕は、招かれるままに、2人と一緒に座った。


「それでは、今日のHRは終わりです。皆さん、1日お疲れさまでした」

 サーシャ先生はそう言ってHRを切り上げた。


 僕は、正門前でフロレンティナと待ち合わせをしているので、急いで席を立って向かおうとした。


 ……が。


「あー疲れた!それじゃー一緒に帰ろうかー!」

 ティアラは、今にも正門に走り出そうとしていた僕に声を掛けた。


「そうね、勇者様のお部屋は宮殿の別室を与えられていますものね?

 私たち皇族十側近は本館ですけど、同じ宮殿ですから、帰り道がいっしょですね」

 フロレンティナも同意した。


 う…嬉しい!


 こんな真紅と紫の華を両手に抱いて帰宅できるのは…すごく嬉しい!


 でも…でも……僕は、こっそりと正門前でフロレンティナと落ち合う約束があるんだ!


 僕は、美少女2人と下校するのを断らなければならない現実を心から憎みながら、言った。


「ごめん。実は、この後行かなきゃいけないところがあって、2人とは帰れないんだ。本当にゴメン」


 ……すると。


 僕の意識はモノクロ世界へと


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 はっ……!

 気付けば、僕の意識はモノクロ世界へと移っていた。


 モ…モノクロ世界……!


 つまり、僕は未来を見ている……?


 し…しまった……!


 最近、2人とうまくやれていたせいで、すっかりこの2人がキケンな性癖を持っていることを忘れていた……!


「おい」


 正面には、怒りに震え、般若の形相となったティアラ!

 その隣には、深淵まで落ちてゆくような黒き瞳をたたえた、闇のマネキン、アストレアがいる!


 ヤ…ヤバい……!


 初めて1度のモノクロ世界で2人の悪魔に襲われそうになっている僕は、後ずさりしようと足を後ろに引こうとしたが、2人同時に睨まれた恐怖から足がストンと落ちてしまった!


 僕は、2人を見上げ、声を震わせながら、何とか言った。


「イヤ…これは違うんだ……!僕だって2人と帰りたいんだ……!」

 本当だ!心の底から2人と帰りたい!でもフロレンティナがそれを許さないんだ!


 だが、2人の表情に変化は一切ない!

「少し心を許したと思ったらこれだ……!黙ってや……!」

 

 そして、ティアラとアストレアは同時に僕の方へ一歩近づき、構えた!

炎帝の裁きフレイム・ジャッジメント

長刀・死屍累々全身メッタ刺し


 まずアストレアが僕へ向かって一瞬にして近接!そしてどこから取り出したのかスラっと長い刀で僕をメッタ刺しにした!あまりの速さに僕は痛みを感じる間もない!

 次の瞬間には、僕の頭上に炎の渦が出現!さらにそこから巨大な火柱が僕を潰すように落ちてきた!僕の視界は一瞬にして真っ赤に燃え盛る炎に包まれた!


 僕は、全身を貫かれた痛みと、全身を焼かれた痛みで、地獄の苦痛を味わった!


「ぎゃぁあああああああ」

 僕は、この痛みから解放されるために一刻も早く死にたいと願いながら叫び声をあげた……。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ……はっ!

 僕の意識は、元の世界へとようだ……。


 気が付けば、僕は、炎の剣で体を引き裂かれたような痛みを感じていた!


「がっあぁ……」


 僕は、あまりの痛みに、モノクロ世界から戻って来たにも関わらず、うめき声をあげた。


 僕としたことが……不注意だった……!


 僕は、保健室で覗き見た2人のステータスを思い出していた。


 2人の発情スイッチは確か……。

 ティアラは侮辱が、アストレアは拒否がNG!


 つまり…彼女たちの誘いや提案を僕は断ることができないのだ!

 なぜなら、それは侮辱や拒否にあたる行動となるから!


 すると、ティアラは僕に笑顔で言った。


「あー疲れた!それじゃー一緒に帰ろうかー!」


 ぐっ……これは……初日以来のピンチだ……!


 2人を断って正門に行けば、2人に焼き刺しにされる!

 だが、2人と帰ってしまったら最後、フロレンティナの首輪によって、僕の首はペットボトルの飲み口くらいまで小さく絞められてしまうだろう!


 ……どうする!?どうすればいい!?


 僕は、この2人を巻いて、フロレンティナの待つ正門へと行かなければならない……。

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