第14話 ご褒美

「勇者様がよければ、手伝ってあげましょうか?私、人助けが好きなのよ」

 フロレンティナは微笑んだ。


 ……!?


 なんだ?なんだこれは?


 僕は急すぎる展開に動揺を隠せなかった。


 ……。


 いや嬉しいよ?これだけの美少女に助けてもらえるなんて最高だし、今後のムフフ展開に繋がるのならウェルカムだ。


 ……だが。


 あまりにも都合が良すぎるぞ?

 それに、彼女は人助けっていうキャラではない気がする。だって、女王様だぞ…?


 大体、いい話にはウラがある。


 学校の友達がエロ本を100円という破格の値段で譲ってくれたときだって、中に入っているカラーの袋とじマル秘写真が気付かないくらいキレイに切り取られていたことだってあったのだ。


 ……怪しい。


 だが、フロレンティナを頼るしかないのも…事実だ。


 他に…名案もないし…な……。


 僕が、渋々ながらもフロレンティナの助けを借りようとしたその時。


 僕の意識は、モノクロ世界へと


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ……はっ!!!

 僕は、気付くとモノクロ世界にいた。


 うぉ!キタか!モノクロ世界!

 ということは…僕は今からフロレンティナにのか!?


 僕は緊張から体が強張った。


 前には、フロレンティナ。


「フフ、そうこなくっちゃ。私がアナタの後ろからティアラにバレないようにうまくやってあげるから、心配せずに炎に手を入れなさい」


 ……….。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ……はっ!

 元の世界に意識が


 も、もう終わりか!?

 今回は、見えた未来がいやに短いぞ!?

 フロレンティナが僕に指示を出しただけで、特に何も起きてない!


 どういうことだ…?


 僕は、今までになかったパターンの未来の見え方をどう捉えるべきか分からなかった。


 ……だが。


 だが、今回は、初めて


 今までは、毎回のごとくモノクロ世界で、痛い思いをしてきたが、今回は違う。


 単に、フロレンティナが僕を助けてくれると言っただけだ。


 これは……。


 初めて、正解、すなわち、選択肢を選ぶことができたということか…?


 僕がどうすべきか思案していると、フロレンティナは僕に問いかけた。


「勇者様がよければ、手伝ってあげましょうか?私、人助けが好きなのよ」


 ………。


 正直、怖い。

 フロレンティナの性格から考えても、調子が良すぎる気がするし、彼女が妙に勘が鋭い女性であることも気にかかる。


 だが、今しがた見えた未来は、別に僕がフロレンティアにことは少なくともなさそうだ。

 それに、フロレンティナに頼らずにこの窮地を切り抜ける名案も浮かばない。


 虎穴に入らずんば虎子を得ず、か。


 イッてやろうじゃないか。どうせ、僕は『びびりエロもやし』。

 まともな手段では、この非情すぎる世界で生き残ることなど到底できやしないだろう。


「ありがとう。実は、フロレンティアの言う通り、困っているんだ。助けてくれないか?」

 僕が覚悟を決めて言うと、彼女は先ほど聞いたことを繰り返した。


「フフ、そうこなくっちゃ。私がアナタの後ろからティアラにバレないようにうまくやってあげるから、心配せずに炎に手を入れなさい」





「……遅かったわね」


 僕がトイレから戻ると、ティアラは少しイライラしている様子だ。彼女は待たされるのがキライなようだ。

 だが、隣のアストレアがおしゃべりの相手をしてくれていたおかげで、イライラが多少は和らいでいるようにも見える。


「あぁ、ついでに覚悟も決めてきたよ」

 僕はちらりと後ろを振り返りフロレンティナを確認すると、彼女はウィンクして返した。


 ……怖いな。なんでこんなに不安なんだろう……。


「ほら、さっさと腕を入れなさいよ」

 ティアラが急かしてくる。


 前には、サーシャ先生が魔法で作り上げた、炎の華。


 メラメラと燃え盛っており、先ほどからその勢いは衰えてはいない。


 くぅ……。ここに手を入れるのかよ……。


 離れていてもその熱さが伝わってくる。


 ………フロレンティナ、頼むぞ…!


「…ぉぉぉおおおおお!!!」


 僕は、自分を鼓舞するように叫びながら、その燃え咲く炎に思いっきり腕を入れた!

 先ほどの二の舞にならぬよう、目をしっかり瞑って、燃える自らの腕を見ないようにした!


「お、いいわね。魔力を自分の腕に集中して。腕が炎になるイメージを強く持つのよ」

 ティアラが隣で教授してくれる。


「あぁああああああ!!!」

 僕は、無駄だとしていながらも、自分の腕に魔力を集中させ、炎と一体化する想像をした!そうでもしないと気が変になりそうだ!


 僕は、見てはいけないと思いながらも、チラリと腕を見やった……。


 腕が!僕の腕が燃えている!完全に火の中に入っている!死ぬ!怖い!燃える!


 僕は自分の腕が火に入っているのを目の当たりにして発狂しそうになった。


「そろそろ腕を抜いていいわよ」


「あぁあああああああ!!!」

 ティアラが許可した直後に腕を引き抜いた。僕はもはや半狂乱だ。


 腕を抜くと、僕はあたかも炎と融合しているかのように腕が燃え盛っている!


「あぁああああああ燃えてるぅうううううううう!!!!!!」


 ティアラには何度も燃やされてきたが、アレはモノクロ世界のことだ。カラフルな現実世界で自分の腕が燃えているのを見て、正気など保っていられない。


 僕は、燃え盛る腕を見てさらに叫んだ。


「あぁぁぁあああああああああああ!!!!」


「あっぁあああああぁぁああぁっつつつつつうううううううう!!!」


 炎の華から腕を引き抜いた僕はもはや我を忘れていた。

 今や自らの腕は、直視することができないほどにグロテスクに燃え上がっている!


「あら、やるわね、うまくできている感じがするわよ」

 隣で見守っている、というよりは見張っているティアラが冷静に言った。


 バカ言え!今や擦りたてのマッチ棒のように僕の腕は燃えているじゃないか!?


「アラ、さすが勇者様!ステキですわよ」

 アストレアも僕に賞賛の眼差しを向けた。


「……え?」


 僕は、改めて僕の右腕を見た。


「……お?」


 熱くない?いや熱い?熱くない?ん?熱い…?…熱く…ない?


 相変わらず僕の右腕は、燃やし尽くそうといかのように燃え盛っている。


 ……だが。


 熱くない!熱くないぞ!


 どうやら、僕は燃え盛る腕の見た目だけで燃えていると錯覚していたが、熱さは感じない。


 やったぞ!やった!なんだかわからんがとにかくやったんだ!


 僕は、何が起きているのか全く分からないが、とにかく成功した事実を噛み締めていた。


「フフ、さすが、ここまで来た期待の勇者様ね。そのまま、手を右の方へ向けてみて?」

 フロレンティナが後ろから僕に言った。


 僕は、言われるがままに、腕を誰もいない右側に向けた。


「ウフフ。バン♪」

 そして、フロレンティナがそう小さく呟いた。


 ……すると。


「おぉおおおおおお!?!?!?!」


 炎と化した僕の腕が急速に膨張!そして、次の瞬間、炎の激流が前方へと放出された!


「ゴォォォオオオオオオオ!!!」

 激しい炎の渦は、物凄い音を立てながら、まるで炎の嵐のように空間を燃やした!


 こ…これは…まるで……。


 そう、これは、ティアラが先ほどみんなの見本として見せた技『炎の激流葬フレミナル・トルグレイブ』にそっくりだ。


 それだけではなかった。


 ティアラのそれをはるかに凌ぐ強烈さだ。


 あまりの強烈さに、僕の視界が炎で埋め尽くされて何も見えなくなった!


 ………。


「シュウゥウウウウウ………」


 ようやく…収まった…のか?


 僕は、何かが焦げたような匂いと薄く立ち上った灰色の煙の中で茫然としていた。


 ………。


 辺りを支配するのは、静寂。

 誰も、何も言葉を発しなかった。


 僕は、何が起きたのか分からずにただ突っ立っていることしかできなかった。


 隣にいるティアラも、目の前の光景を信じられないといった顔で佇んでいた。


「パチパチパチ」


「さすが勇者様、いきなりこのレベルの魔法まで使いこなせるとは、ね」

 後方にいたフロレンティナが拍手しながら言った。


 すると、釣られて他の美少女たちも拍手し始め、やがて万雷の拍手喝采となった。


 ……!?


 い、今のは……。


 もちろん、僕は魔法が使えないので、僕がしたわけではない。


 これは……。


 フロレンティナ…か…?


「ど…どうやったんだ…?フロレンティナ…?」

 僕は、いまだ鳴りやまない拍手の音に紛れて、フロレンティナに小声で尋ねた。


「フフフ、まず勇者様が炎に腕を入れても燃えないように、保護魔法をトイレの前で勇者様に触れたときにかけさせてもらったの」


 す…すでにあの時から!


「そして、他の人に保護魔法で腕を防護していることが分からないよう、幻視魔法を勇者様の腕周辺に発動。あたかも腕が燃えているように見せたわ」


 そうだったのか…どうりで燃えているように見えたわけだ……。


「仕上げに炎魔法の発動。離れたところから魔法を発動させる遠隔魔法を応用して、技を繰り出したわ。私の魔法だと分からないように、ティアラのを拝借させて頂いたけれどね」


 やはり最後の大技はフロレンティナによるものだったか…。


 さすが皇族十側近第3位の女王様だ……。

 僕には想像もできないほどの難易度の高い魔法を幾重にも組み合わせて、先ほどのことをやってのけたのだろう……。


 これだけのことをさもなんでもないようにサラっとやるなんて……フロレンティナ……やはり恐ろしい……。


「フフフ、それでね、ちょっと話があるんだけど………」

 フロレンティナが何かを話し出そうとしたその時!


「スゴいじゃない!」

 サーシャ先生が顔いっぱいに笑みをたたえて僕に駆け寄ってきた。


 うぉ!サーシャ先生が…近くにやって来る!


 体に張り付くようなクリーム色の肩だしドレスを着たサーシャ先生の豊満な胸は、今にもそのドレスから零れ落ちそうな勢いで揺れている。


「アナタはカトレナ魔法学院開校以来の天才よ!初めて使った魔法でココまで人は見たことがないわ!!!」


 そして………。


 僕をヒシっと


 !?!?!!?!?!?!?!?!!?!?!?!?

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