第10話 勇者の僕にないもの
「……試しの門?」
「そうよ。この門は魔力でしか開かないようになっているの。力づくではビクともしないわ。
それに、開けようとする者の魔力の強さに応じて扉の開き方が異なるの。強き者は大きく開けられる一方、弱き者はほんの僅かしか、それもゆっくりとしか開けられないわ」
「おぉ……カッコいい話だなそれは……」
テクテクテク。
僕とティアラが門の手前で話していると、小学生くらいの少女が歩いてきた。
……お?
少女の様子を見ていると、彼女は僕たちの隣を通り過ぎ、試しの門のところで手をかざした!
門は彼女の魔力に呼応するようにゆっくりと小さく開いた。遠くから見ているだけでは、動いたことすら分からなかっただろう。
そして彼女はほんの少しだけ開いたところで、滑り込むようにして入っていった……。
「カトレナ魔法学校には3歳から入れるの。今見たように、彼女みたいに幼く魔力がわずかしかなくても、扉は少しは開くはずだから安心して」
「なるほど」
それなら魔力の弱い僕でもなんとかなりそうだ。
「それじゃあ開けてみて?扉に手をかざして、手先に魔力を集中させるのよ」
「…ふむ」
そして、僕が一歩前に出て扉に触れようとしたその時!
僕の意識はモノクロ世界へともっていかれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……はっ!
僕の意識はモノクロ世界へと移ったようだ。
ちょうど僕はティアラに言われた通り門に手をやり、魔力を解放しているところのようだ。
………だが。
門がピクリとも動かない。
……ん?
もう一度手先に力を込める。
……だが。
手の甲に血管が浮き上がるだけで何も起きる気配がない。
……え?
いやいくらスペックが低くても、少しくらい動いてもよくない?
あんな小さな子供でも開いていたよ?
魔力で開くんでしょ?ね?
試しの門さん?起きてますか?返事して?
……ちょっとぉおおおおおお!?
この流れは…マズいぞ…。
「……おい、なんで開かないんだよ!!!!!」
ドスの効いた声が後ろから突き刺さる。
………!
「い、いや…これは……」
恐る恐る振り返ると、そこには般若!般若の形相のティアラがいた!
先ほどまでの和やかな雰囲気など今やカケラも存在しない!何度も見てきた今にも僕をヤろうとするいつものティアラだ!
「てめぇ……
それで開かないってあるか……?
まさか私を騙してたのか……?」
彼女はこれ以上言葉を発したくもないとでもいうように素早く僕に向かって手を突き出した!
「ティアラさん待って待って!これは違うんです…!」
何が違うのかよく分からなかったが、僕はなんとか言い訳を試みた。
……だが。
「うるさい私を侮辱した罪は重い」
「
ティアラの腕がみるみるうちに炎と化した!
そして、その炎の腕から炎の渦が僕に向かって放たれた!
僕はその衝撃で試しの門に打ち付けられた!だが、炎の勢いは弱まるどころか一層強まるばかりだ!
僕の胴体は炎の激流に貫かれてお腹にぽっかりと穴が空いた!
「ぎゃぁああああああ」
僕は焼きただれた体で絞り出すように叫び声をあげた……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……はっ!!!
再び意識はもとの世界に戻ってきたようだ。
内臓が焼けるように痛い。今にも吐き出しそうな痛みが体の内側から走っている。
そうだ。うっかりしていた。僕は魔法騎士だったんだ。
冷静に考えれば、この試しの門を開けようとすると、僕の魔力が弱いことがバレてしまう。
しかし………。
問題はそこではない。
なぜ門はピクリとも動かなかったのだ?
先ほどの小学生くらいの少女でも開けられていたというのに……。
……まさか。
……いやまさかな。さすがにそんな勇者がいるわけが……。
ここまで考えて至った仮説。
それを確かめるべく僕は小さく唱えた。
「ステータス」
—————————————
夜立郁人 Lv2 【火傷】
HP: 27/35 SP: 8/10
職業: びびりエロもやし
スキル:
【
—————————————
ステータスの中身は今朝見た時とあまり変わりはない。体力が減っているくらいか。
だが、ここでようやく重大なことに気が付いた。
なぜMPではなく、SPとなっているのか。その訳。
今までも何となく感じていた違和感の正体。
通常魔法が登場するRPGでは、MPすなわちマジックポイントが記載されているはずだ。だが、SPとなっている。
SPとはおそらく……スキルポイント。
確かに僕が今まで使ってきたのは魔法ではなかった……。
あれは、スキルだった。
つまりこのことが何を意味をしているのか……。
それは。
僕は魔法が使えない。それも絶望的に。
だから、試しの門がビクともしなかった。MPすなわち魔力が、生まれながらにして全くないから。
そして無慈悲にも再び、ティアラは僕に問うた。
「それじゃあ開けてみて?扉に手をかざして、手先に魔力を集中させるのよ」
開けられなければ、死が待っている。
魔力のない僕は試しの門を開けることができるのか。
僕はまだ魔法学院に足を踏み入れてすらいなかったことに気が付いて戦慄が走った。
◇◇◇
僕は、マンションで言うと20階ほどの高さがある超巨大な門、通称「試しの門」の前で佇んでいた。
魔力が大きければ大きいほど、派手に開門する仕組みらしい。
この門を開けなければ、僕が魔法騎士であるとウソをついたことがバレて、ティアラにヤられてしまう。
だが、僕には魔力がない。
完全に困ってしまった。
魔力がなければ開かない。そして僕は魔力がない。
どうすればいいというのだ。
誰か教えて欲しい。魔法が使えない場合、勇者はどういう風に立ち回ればいいのかを。
そもそもそんな勇者いるのか?これは僕だけなのか?あまりに才能がなすぎたのか?女神様が八つ当たりで選んだ人材だからか?
…文句を言っても始まらない。考えよう。
………。
……そうか。
別に自分で開けなける必要はないのだ。ティアラに開けさせるように仕向ければ、僕は門に触れずに学校に入ることができる。
……うん。いいぞ。この方向性で間違いないだろう。
あとは、ティアラの自尊心を刺激するようなセリフを言えれば……。
……よし。
「ティアラ、僕に手本を見せてみてよ。ティアラならこの巨大な門をそれはそれは大きく開けられるだろう?」
僕は素早く熟考してティアラに言った。
……完璧だ。
ティアラの勝気な性格ならば確実に開ける。
そして、僕は素知らぬふりをして門をくぐってしまえばいいのだ。
「……それもそうね。見せてあげるわ。私の力を」
……よし。ハマったな。
……想定内だ。
僕は心の中でガッツポーズを決めた。
僕の思惑通りティアラは腕まくりをして試しの門へ向かう。そして、手をかざし……。
「
……………。
……え?
ティアラがいる場所から大きな火柱が上がった!
だがそれもつかの間、火柱は勢いを増し、火柱どころか炎の竜巻となった!
「あぁあああっつつぅううう!」
彼女が生んだ炎が辺りに飛び火した!彼女周辺だけ大火事の様相を呈している!
僕は猛然と後ろを向いてダッシュして門から必死で遠ざかった!
「ギィイイイイイイイ!!!」
試しの門は大きな音を立てている!それは門の泣き叫ぶ声にも聞こえた!
……………え?
……手をかざして魔力を集中させるってこういう意味?さっきの少女もそうだったけど、手先にこう……ふわっと魔力を出してふわっと門が開く……みたいなことじゃないの?
ティアラの場合、魔力を集中させるだけでなく、もはや必殺技が繰り出されてしまっている。
死に物狂いで門から離れて振り返ってみると、門は90°まで開いていた!
おぉ。
いやすごいけど。50mはあろうかという巨大な門をこれほどまで開くのはすごいけど。
門の周りを見渡してみると、荒野と化している。どうりで活気のある街からそれほど離れていないにも関わらず、この近くでは人を見かけないわけだ。
「ま、こんな感じね」
ティアラはかなり遠くまで避難した僕を振り返り、鼻高々に言った。
……いやこんな感じって……。危うく燃やされるところだったわ……。
……ん?なにか……忘れている気がするぞ……
…………しまった!!!
僕は今しがた自分が犯した失態に気が付いた。
僕は門の外にいる!
暴走する炎から逃げることで必死でさりげなく門の中に入ることを忘れていた!というか熱すぎて入ることができなかった!
……やばい。
そんな僕の動揺には気が付かない様子でティアラは続けた。
「さ、開けてみて。ここまでうまくはできないと思うけどね」
これは想定外だ……。
マズい。万策尽きた。魔力のない自分では開けられないし、ティアラももう開けてしまった。
今や早くも扉はほとんど閉まりかけてしまっている!
本当にどうしようもないぞ……。
頼みのアイデアが失敗に終わったことで僕は完全に困ってしまっていた。
「ちょっと早くしてくれる?」
ティアラはやや怒気のこもった声で僕をせかす。門の前に立ったものの、一向に動く気配のない様子の僕にイラついてきたようだ。
何か、何か策はないのか!?
そうだスキル【|臆病者の白昼夢リスク・プリディクション】よ発動しろ!とにかく何かしら未来を見てやる!
……が、何も起きる気配はない。
おいおいおい!自動発生するこのスキル、マジで不便だな!本当に必要な時に使えないなんて!
「おいなに突っ立ってるんだよ」
ティアラの声が後ろから刺さるように聞こえる。大分、口も悪くなってきた。もう猶予はいくぶんもないだろう。
マズい…本当にマズい……。
何か…策はないのか!?
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