第9話 彼女の横顔が愛しくて

 僕が下半身を東京タワーにして待っていると、ティアラは僕に手を伸ばし、そして、僕の胸の辺りに触れた。


 ……キタ!!!まずは、Tシャツを脱がしてくれるのね……上半身の次に下半身か……焦らすじゃぁないかティアラよ……でも焦らしプレイも嫌いじゃないぞ……早く…!


 僕は、ティアラの細く綺麗な手を全力で胸で感じつつ、美少女に触れられたことによる胸の昂ぶりから、心臓がバックンバックンと波打っていた。


 ……ハァ、ハァ、ハァ…。


高貴なる召替ノブル・トランスフォーム!」

 ティアラがそう唱えると、僕の胸から全身に向かって、光がほとばしった!


「うぉっ!」


 …………。


 光が収まって見ると、何かのアニメで見た、いかにも魔法使いですと言うような青の装束に僕は身を纏っている!足元まで伸びるマント風ジャケットに黒のパンツだ!


 !?!?!?

 !!!!!!!!!


 瞬間、ちょっとパンツがきつかったため、東京タワーにして待機していた僕のブツがボキリと音を立てて崩れ落ちた!

 

 僕は目をカッと見開いて苦悶の表情を浮かべるが、歯を食いしばって全力で抑え込み、動揺を悟られまいとした!


 ……………。


 ……………。


 ……はぁ、はぁ、はぁ。


 殺されるところだ…。


 ティアラ、男の弱点を知り尽くしてやがるな…。


 にしても……着替えって、魔法かよ……めちゃめちゃガッカリだよ……。


「私のセンスに文句あんの?」


 エッチな展開を期待して、落胆を隠そうにも隠し切れない僕を、ティアラはギロリと睨みつけた。


「いやいや、ないです!すっごくオシャレだと思います!」

 咄嗟に、誉め言葉を並べ立てる僕。


 ティアラは、その言葉を聞いて満足気に言った。

「そうでしょうね」


 だんだん、彼女のあしらい方が分かってきた気がする。


 スキル【臆病者の白昼夢リスク・プリディクション】が発動する間もないくらい素早く反応できるようになってきた。


 くぅ……。


 これだけ窮地を切り抜けてきたのだから、そろそろ報われたいよ……。

 ムフフな展開がないと、なんでこんなに必死で生き延びようとしているのかわからないよ……。


 そんな僕の悲痛な心の叫びはもちろんティアラには聞こえるはずもなく、彼女は満足そうに言った。

「うん、それなら、恥ずかしくないわね。それじゃあ、学校に行くわよ」


「はーい……。」



 §§§



「今歩いているのは宮殿の別館。アナタの寝室も別館にあるの。ちなみに、アナタが召喚されたのは、宮殿の傍の礼拝堂よ」


 ティアラは歩きながら説明してくれる。今日はなんだか機嫌がいい。どうやら、ちゃんと案内役としての役割は果たしてくれるみたいだ。


「ちなみに、宮殿の本館には王女様や、私含め皇族十側近の部屋があるわ」


 そうなのか。いつか美少女たちのお部屋に御呼ばれしたいものだ。


「さて、ここが、ハルジオン中心街よ」


 ……宮殿の出入り口の大きな門をくぐると、急に活気に溢れた街にでた。

 ……ここが、中心街。


 振り返って宮殿を見てみると、相当に大きな、歴史的建造物であることが伺える。モスク風の装飾があったり、神々の彫刻があったりと、イスラム教とキリスト教を足して2で割ったような不思議な印象だ。東京ドーム位の敷地面積はあるのだろう。かなり遠くの方まで宮殿が続いている。


 スゴイ場所に寝室を頂いちゃったなぁ……。



 さて、視線を街へ戻すと、コチラはコチラで活気に溢れた巨大な街を思わせる。

 さすがに渋谷ほどではないが、街路は多くの人が闊歩している。見渡せば、武器屋に食事処、宿屋に木造の住宅が所狭しと並んでいる。


 その中世ヨーロッパを思わせる街の様子や、ファンタジー的な衣服に身を包む人々を見ると、自分が新たな世界に転生してきたことが実感される。


 ……しかも!


 喜ばしいことに、どうもこの国の女性には、美少女が多いようで、ついすれ違う人たちに見惚れてしまう。


 特に、現代風に言うと、この国ではミニスカートやショートパンツのような丈の短い衣服が流行しているようで、眩しいような肌が覗く太もも付近を凝視してしまう。


「フフ、感心しているようね」

 ティアラは僕の見開いた目の意味を取り違えているようだ。


「そうだね、こんなに素晴らしい街だとは思わなかったよ」

 こんなに美少女が多いとは思わなかったし、魅惑的な衣装を着ているとは思わなかったよ。


 だが、僕がそう言うと、ティアラは笑みをほころばせてみせた。


「あれが剣の専門店で、あれは薬の調合をしているお店よ」


 ティアラは、僕が街から女性に関心の対象が移ったことなどつゆ知らず、僕に嬉々として街の説明を続ける。

 どうやら彼女は、本当にこの街のことが好きなようだ。


 なんか、可愛いな………。


 僕に自慢の宮殿や街を紹介するティアラは、ようやく年ごろの娘らしいあどけなさを感じさせ、ふと、可愛いなと思ってしまう。


 宮殿ではムリしてたのかな。


 きっと派閥争いとか大変なのだろう。礼拝堂や宮殿で見るよりも、楽しそうに街を歩いているように思える。


「……奥に見える建物が、カトレナ魔法学院よ」

 少し街の中心部から外れて人気ひとけが少なくなってきたところに、それはあった。


 ……!!!

 ……デカイ。


 学校、というより、もはや城のようだ。1本巨大な塔が、天に昇るようにそびえたっている。やや古びているのか、黒っぽく見えるが、それもまた粋な感じがする。


「……どう?」


「すごいよ。スケールも大きいし、雰囲気もいい。圧倒されっぱなしだよ」


「そうでしょう、そうでしょう」


 ティアラはまた得意気な顔をして何度も頷いてみせる。


 ………可愛い。


 いや、可愛いぞ?なんだ?街を歩くティアラ可愛すぎるんだが?


 昨日から何度もそうになったが、今日は全然雰囲気が違う。ピリピリした感じがしない。

 彼女は本当にこの街のことが好きなのかもしれない。

 僕を襲う姿と街を歩く姿のギャップにグッくる。


 ……僕がティアラにキュンキュンしていると、歩いて10分程だっただろうか、カトレナ魔法学院に到着した。


 目の前には、中央に大きく『K』の文字が彫られた、荘厳な正門が鎮座している。高さ50mはありそうだ。

 ……見上げるだけでも首が痛くなってきた。


 こんな巨大な門をどうやって開けるのだろう。という職業の人がいるとしても、50人は必要じゃないか?


「……ここがカトレナ魔法学校よ。この門は、試しの門と呼ばれているわ」


 ……試しの門。


 なにを試されるというのだろうか。


 僕は、この門から強烈なイヤな予感がした……。

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