第7話 記憶喪失
僕は再び同じ問いと対峙していた。
『私とアストレアどちらに案内を頼むつもりだったのかしら?』
この2人はどちらが選ばれるのか白黒つけるまで終わりはないとでも言うようにしつこく問い続ける。
……どうすればいい?
ティアラを選べば窓の外に張り付いているアストレアが今にも
アストレアを選べばもちろん目の前のティアラに灰になるまで燃やし尽くされるだろう。
……僕はこの命の窮地においてなぜか高校での日常を思い出していた。
僕は学校で女子の更衣室を覗こうとしたり、友達にエロ本を売ったりして、体育のムキムキマッチョ鬼教師に呼び出されることがしょっちゅうだった。
その時もこんな風に『お前がやったんだろう!』ときつく拷問を受けていたんだっけ。あの時も自分が窮地に立たされている感覚だった。
あんな日々も懐かしい。ああいう日常こそが幸せってヤツだったのか。
僕は真の幸せとは何かという命題への答えを悟りかけていた。
ん……?
そういえばいつもはどうやってこんなピンチを脱していたんだっけ?
………。
………!!!
そうか。そうだった。
その手があったんだ。
ふふっ。僕もバカだな。
これは僕の
僕は賢くもなければスポーツができるわけでもない。
自分が選ばれし者だと思ったことは一度だってないし、今だって勇者だという実感なんてない。
だが……だが!
僕にも誰にも負けない優れた才能があるんだ……!!!
……それは!
「……ん?何のこと?」
僕はとぼけた顔をして言ってのけた。
ティアラはきょとんとした顔をした。心なしか窓の外でスタンバっているアストレアも同じように間の抜けた表情をしている気がする。
「……いやごめん、気を失う前のことをよく覚えていないんだ」
僕はティアラが今しがた言ったことが何なのか全くわからないという素振りをしてみせた。
そう!これが!僕の素晴らしき才能!
説明しよう!
あまりに覚えていないという素振りがリアルすぎるために、誰もが僕は何も覚えていないと思いこまされてしまうのだ!
それは若かりし時代!
僕が小学生のときだった!
女子高生のスカートの中に何があるのかを知りたくて、僕は足繁く近所の本屋に通っては立ち読みしている女子高生の足元に滑り込みスカートの中身を覗きこんでいた!
だが時には本屋の店長や女子高生本人に見つかり説教を喰らうこともしばしばだった!
そこで僕は考えたんだ!
スカートを覗く以上バレることは致し方ない!うむ。
ならばどうすれば、見つかった時、言い逃れできるのかを!
そこで編み出したのがこの記憶喪失だった!
『知りません』『覚えていません』『記憶にございません』
政治家の答弁を見習い来る日も来る日も修行した結果『本当にコイツは何も覚えていないのか?』と思わせるほどにリアルな表情、仕草であたかも何も知らなかったように振る舞うことができようになったのだ!
この能力を身に着けてからというもののスカート覗きだけでなくその後に続く学校での悪事をいくつも迷宮入りにさせてきた!
『お前はその時どこで何をしていたんだ?』
『スミマセン覚えていません』
『プールサイドにお前がいたという証言があるが?』
『まったく身に覚えがありません』
あまりのリアルさにさしもの鬼店長や鬼教師も僕が本当に身に覚えがないと信じざるを得ないのだ!
ふっ。どうだ。これが僕の持ち得る才能。血と汗と涙の結晶。挫折と苦悩の結果生まれた、渾身の能力だ。
「……覚えていないのなら、仕方がないわね」
ティアラはそんなことは何でもないという風を装うが、明らかにガッカリしている様子が見て取れる。
窓の方にさりげなく目をやると、もうそこには人の気配はない。アストレアも去ってしまったようだ。
……どうやら僕の
やったぞ!再び死亡フラグを回避した!
やはり
女神様から頂いたスキルもなかなか役に立っているが、やっぱり最後に信じるべきは己が培ってきた力だ。
僕のエロスへ懸けた青春も己の血肉となっていたのだ。
そうエクスタシーに浸っていると……!
ピロリ♪ピロリ♪ピロリ♪
……ん?
どこかで聞いたことのある音楽だ……確か…これは……。
マクドナルド!そうだ、マクドナルドでハンバーガーができたときに鳴る音だ!
な…なんだ?
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