第5話 イケないことをしてほしい

「……それじゃ夜も遅くなったことだし、勇者様を寝室の方に案内するわ。歩きながら残りのことも説明するわね」

 ティアラは少しだけ疲れた顔をして言った。

 彼女にとって僕は今日のの勇者だ。さすがに疲れたのだろう。


 よ…ようやくこの場から逃れられるのか……。


 僕は美少女たちに囲まれたこのキケンすぎる空間から離れられそうだと分かりほっと安堵の息をついた。


 ティアラは僕を案内するためにさらに一歩僕に近付いた。


「う…ぉ…!」


 こうしてさらに近くで見ると、つい触れてしまいたくなるような綺麗な肌や胸から覗く均整の取れた谷間に魅せられて気を失いそうになる。

 先ほど3回も殺されそうになったことなど忘れてその美しさに吸い込まれてしまいそうだ。

 

 ……んんイヤだめだろ僕!しっかりしろ!

 ティアラは少しでも機嫌を損ねれば般若の形相で燃やしてくるヤバい奴なんだ!気を引き締めろ!


 そう自分に活を入れていると、近くに佇んでいた紫色のドレスに身を包んだ美少女が突然


 その手は柔らかく僕の手を包み、まるで僕の心まで優しく包み込むようだった。


 ………!?!?!?!?


 なに!?これ!?手が触れた!?手がお触れになられましたよお嬢様!?


 ただ手を取られただけなのに童貞のように異様に興奮する僕。


 いや童貞なんだけれども。


 「私が寝室まで案内いたしますわ」

 そう言ってドレス同様澄んだ紫色の目で僕を見つめてきた。


 ……ナニ!?ナニコレ!?

 展開が急過ぎて頭が全くついていかない!

 僕を巡ってこの新しい美少女がティアラと争うとでもいうのか!?


 ドキドキと激しく胸が波打ち、恋、というかハーレムの始まりを知らせるようだ。


 勇者の取り合いだなんてハーレム以外の何物でもないじゃないか……!


 よく見ると彼女はティアラよりも上品な佇まいで、お嬢様のような雰囲気を纏っている。


 ……!!!!!


 気が付くと、想いを伝えるかのようにきゅっと手が握りしめられているではないか!


 さらに、彼女がやや前かがみになっているせいかドレスの胸のふわっとなっている部分が体から離れその豊満すぎる乳房の肌色が見えている!


 推定では……Fカップ!


「アストレア……!案内役は私が仰せつかっているのよ……!」

 そう言ったのはティアラだ。

 まだ般若とまではいかないが、彼女の歪んだ表情から怒りゲージがみるみる溜まっているのがはっきりと見て取れる!


「あら、でも勇者様だってお好な女性を選ばれる権利があるはずよ」

 アストレアは顔が歪み始めているティアラを前にしても、飄々と言ってのけた。


「私、皇族十側近第9位のアストレアと申します。以後よろしくお願い致します」


 アストレアと言うのか君は!けしからん胸にけしからん積極性だ!ティアラが怒っているではないか!

 殺されるのは僕なんだぞ!?


 でも素晴らしい!素晴らしいぞ!

 ティアラはすぐに僕を燃やそうとしてくるヤバい奴だが、君なら僕をちゃんとハーレムさせてくれそうだ!うん!


 彼女は相変わらず僕の手を握りしめ乳房の一部分を見せてくる。  

 …この角度で見るのは普通の角度よりも覗き見しているようなイケない気がしてなぜだか凄く興奮する。

 それに、あと少しで禁断の実が見えそうだ……!


 どうする僕…?


 ティアラとアストレアどちらを選ぶ……?


 ……。


 ……まぁ…さすがにティアラか…。


 いかにアストレアがおっぱいをチラ見せさせて僕を誘惑するよく教育されたお嬢様だとしても、アストレアを選んだら確実にティアラに燃やされるからな……。


 僕はそう考えて、『嬉しい提案だけどやっぱりティアラに頼むよ』と言おうとしたそのとき!

 

「……寝室でイケないことして差し上げますわよ?」


 ……!?!?!?


 アストレアが顔を僕の隣にまで近づけ僕の耳元で囁いた!

 彼女の息遣いが聞こえるどころか息が僕の耳にあたっている!

 僕は興奮で頭が、いや下半身がどうにかなってしまいそうだ!


 イケないことって何だ?やっぱりあんなことやこんなことか?いや、それともこんなことやあんなことか?そうだろう?そうだよな?


 むぉおおおお、イケないことしてほしい!


 このお嬢様、上品な割に男のツボをよく抑えていやがる……!


 だが、だが………!


 何度だって言おう!この先!どんな不条理な世界にだって、ハーレムはあると僕は信じている!


 そして、僕は来たるそのときまで!

 絶対に死ぬわけにはいけないんだぁああああああ!


 僕は今や完全に、妹の玲菜と再会するためではなく、美少女とのえちえち展開のために生き延びようとしていた。


 そして『ティアラにお願いしたい』その言葉を発するか発しないかの瞬間!


 僕はモノクロ世界へと意識を……。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ……はっ!

 世界が白黒に反転したと思った直後、僕の脇腹に痛みが走った!


 ……!?なんだ!?


 下に視線をやると、短剣が腹部にグッサリと突き刺さっている!

 既に激しく刺された後のようで、腹部からは激しく出血している!


「な……!」

 

 ……短剣の柄に目をやると、誰かが握っているようだ!


 顔を上げると、その短剣を握っているのは、先ほどまで僕の手を握っていたアストレアだ!


懐刀・絶頂への導き天国までイカせてあげる


 アストレアは僕が苦悶の表情を浮かべるのを無表情で観察しながら、短剣をグリグリと押し付けねじまわしている!


 ……継続する痛みで意識が飛びそうだ。こんなに長く痛みを感じるくらいならいっそひと思い殺してほしい!


 確かにこの痛みは僕を天国までイカせるに十分なエクスタシーだ!


 じわりじわりと迫りくる死の色を感じ始め、僕はようやく目の前にいるアストレアの表情をしっかりと捉えた。


 ……!!!


 ……表情がない!

 先ほどまでの魅惑するような紫色の瞳は今や真ん丸の漆黒の色!

 口は大きく開かれているがそれは笑顔ではない……!

 そうそれはまるで……マネキン。表情のない闇のマネキンだ。


「ぎゃぁああああああああ」


 僕は痛みと恐ろしさの入り混じった悲痛な声をあげた……。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ……はっ!

 僕は再び現実世界に


 腹部には当然のように激痛が走っている。それも体の内側からグリグリと押し付けられるかのような、体の芯まで響くような痛みだ!


 くそっなぜだ?


 ティアラに頼むのが正解のはずだろう!だってそうしなければ、ティアラに燃やされてしまうのだから!


 ……まさか!

 そこまで考えてふと思い当たった。


 ……もしかしてどちらにしても殺されるのか?


 ティアラに頼めばアストレアに、アストレアに頼めばティアラに殺されてしまうのか!?


 だとすればまさに万事休すだ!


「ステータス!」


 僕は誰にも聞こえないくらい小さく唱えステータスを確認した……。


 —————————————

 夜立郁人 Lv1 【刺し傷】

 HP: 1/32 SP: 1/9

 職業: エロもやし

 スキル: 臆病者の白昼夢リスク・プリディクション

 —————————————


 …ぐぅまずい、まさに絶体絶命だ。体力も魔力も残っていない。

 もはやスキル【臆病者の白昼夢】を使うこともできなければ、体力を消耗することも許されない。


 僕は持ち得る僅かな知力を総動員して生き残るために考えを巡らせた。

 今や頼れるのは己の力のみだった。


 ……折衷案として『2人にお願いします』と言うのはどうだろう?

 これなら2人ともの要求を満たすことができるのではないだろうか?


 ………いやいやダメだ!

 これだけ顕示欲が強く自信もある2人のことだ。自分1人だけではない答えには納得しないで、やはり僕をに違いない。


 ………ならば2人以外の美少女に頼むのはどうだろうか?


 ………いやこれも却下だ!

 結局選ばれなかった2人とも怒らせることになるだろう。ティアラに燃やされて、アストレアに刺されるという死のフルコースを堪能するだけだ。


 ……どうすればいい?どこにも答えがないじゃないか!?


 僕の頭が絶望に染まっていく中、アストレアは僕に言った。


「私が寝室まで案内いたしますわ」


 そして彼女は再び僕の手をきゅっと握り乳房をチラ見させてくる。


 ……運よくここまで生き延びたものの、ここで僕は死ぬことになるのか。


 3分を過ぎて5分は生き延びた自分を褒めてやりたい。


 玲菜……お兄ちゃん頑張ったけど、ダメだったみたいだ……お兄ちゃんはここで死ぬことになりそうだ……。


 僕にできることは、ティアラとアストレアどちらに殺されるか選ぶことだけだ……。


 せめて死ぬ前におっぱいの柔らかさを知ってから死のう……そのアストレアの艶めいた乳房に触れて……。


 僕は生きることを諦めてアストレアの胸に手を伸ばした。



—————————————

【レビューのお願い】

 皆さまからの応援を励みになんとか今日も書き進めております。おもしろい!もっと読みたい!等々思われましたら、レビューを書いて下さると嬉しいです!よろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る