第4話 不条理なこの世界では

「このローザ王国はすでに魔王に支配されてしまった世界よ。アナタの役割は、魔王を倒すことね」

 いまだ現状を把握できずに混乱している僕にティアラは説明を続けた。


 ……!


 か…かわいい………!


 じっと僕を見つめながら説明するティアラは今しがた2度も《ヤられそう》》になったことなど忘れさせるほどの美しさだった。


 長い睫毛。小刻みに動く唇。メリハリの効いたスタイルにハリのある胸。


 やっぱり改めて見てもかわいいな……。


 もう何度目かも分からないほど僕がティアラに見惚れているとは突然起こった!


「うぉ…ぁ……!!!」


 ……何かに足元をすくわれた!?

 

 左足を滑らせた僕は突然体のバランスを崩してしまい、派手に転倒してしまった。


「いててて……」


 思いっきり転んだ僕は体の痛みに耐えつつ頭を起こした。


 ……が。


 !?!?!?!?!?


 ………………。


 僕は突然の出来事に何が起きたのか分からなかった。


 顔を少しだけ上げると……そこには……。


 があった。


 僕はこのとき初めて「生足」という表現を使った。こんなに間近で女性の足を見たことがなかったからだ。


 僕はまだ跪いている状態だが、この生足の持ち主は立っているようだ。


 足だ…足が…こんな目の前に……!それも、美少女の生足……!


 触れずともわかるそのスベスベの肌。白くスラっとした細長い形状。


 僕は手を伸ばさずとも触れられる距離にある生足に興奮してしまって正常な思考をすることができない。


 ようやく周囲を見渡してみると、の布地で覆われているようだ。


 こ…これは……。


 ぼ…僕は…にいる!?


 どうやら転倒した弾みで誰かのスカートの中に滑り込んでしまったようだ。確かに美少女たちは地面に向かって大きく開くタイプのドレスを着ていた。


 そして…内側から見えるスカートの色は真紅!


 つまり…この生足の持ち主は…ティアラか!?


 待て…落ち着け……。


 ここがスカートの中ということは………!


 上を見上げれば、そこにはティアラのがあるということではないか!?


 ……ティアラのパンツ!きっと彼女の髪や目、ドレス同様に真っ赤に染まっているに違いない!


 想像しただけで鼻血が噴き出しそうだ…!


 待て…落ち着け……。

 これが罠ということだってありうる……。


 ……いや違う!僕は勇者だ!この物語の主人公だ!


 こけて顔を上げたら目の前にはパンツが…なんていうマンガのようなラッキスーケベが起きたっておかしくは…ないぞ!!!


 僕は目の前に広がる真紅のパンツを期待して顔を上げた……!


 ……だが!


 ……僕が顔を上げたと同時に、僕の意識はモノクロ世界へと


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ……はっ!

 モノクロ世界にやってきたようだ……。


 ……そうだ!パンツは!?真紅のパンツはどこだ!?


「てめぇ…この…エロ勇者が……!」

 ドスの効いた声が前方からした!聞き慣れてしまったこの恐ろしい声の主は!


 ……ティアラだ。


 やはり生足の持ち主はティアラ!僕はティアラのスカートに入り込んでいたのだ!


 見れば僕を取って喰ってしまいそうなほど恐ろしい般若の表情をしたティアラが正面に立っていた!


 ……おぉおおおい待ってくれ!僕はまだパンツを見ていないぞぉおおお………!!!


 不都合なことにこのモノクロ世界は僕がスカートから這い出たあとの未来を見せているらしい。


「い…いや…これは…ちがうんだ……!というか見てない!まだ見てないぞ…!」

 これは…本当だ……見せてくれ……!


 ……が。


「もう…口を開くな…お前の声など聞きたくない……!

 跡形もなく消え去れ……無限の火矢インフェニティ・フレイム・アローズ!!!」


 ティアラの前に数百本、いや数万本もの炎でできた矢が現れた!

 もはや数が多すぎてそれは矢というよりもむしろ炎の壁に見える!


 僕は死への恐怖から足がすくんでしまい、一歩も動くことができなかった!


「や…やめ……」


 今、無限の火矢は放たれた!

 無数の矢は僕の手、足、胴、頭とあらゆる体の部位を貫いた!


 身動きを取ろうとするも体中が矢に貫かれて身じろぎすらできない!

 炎の矢は終わることなく僕の体を貫き続けた!

 

 僕は痛みを感じる間もないほどに全身を木っ端みじんにされた……。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ……はっ!

 僕の意識は再びもとの世界へと


 全身が何か鋭いもので突き抜かれたかのように痛い。痛みだけでぶっ倒れそうだ。


「このローザ王国はすでに魔王に支配されてしまった世界よ。アナタの役割は、魔王を倒すことね」

 ティアラは何事もなかったかのように説明を続けている。


 ……!?


 またこのセリフ……!?

 

 ……ということは!


 僕は、何かに足元をすくわれた!


「うぅお!」


 !また左足が滑った!


 ……だが!


 だが踏ん張れ郁人!


 僕はまだこの世界の美少女たちとのムフフ展開を経験していないじゃないか!


 ティアラのパンツは見たい!見たいが!

 きっとこれから見放題になるはず…だ!


 こんな序盤でわけにはいかないんだ!


 僕は不埒なモチベーションで、残された右足に全身全霊を込めた。


 ……!


 …………耐えた。


 多少体勢は不自然なものの、僕は耐えきった。


「ん?どうかした?」

 僕の異変を察知したのか、ティアラが尋ねた。


「……いや!なにも!なにもなかったよ!」

 僕はなんとか取り繕ってみせた。


 一体何に滑ったんだろう……?


 チラリと滑った左足を伺うと、靴にベットリとがついていた。


「な……!」


 こ…これは…血か…?


 なんと、僕の左足には大量の血が付いていた!


 ……なぜだ?僕は流血はしていないはず……?

 僕はモノクロ世界ではイヤというほどが、この現実世界ではまだ鼻血だって出していない。


 ど…どうなっている……?


 まさか!


 辿り着いたのは、おぞましい仮説。

 

 これは…か!?


 血はまだ乾いていないようだ。


 先ほどティアラはと言っていた。


 僕は他の勇者の血で滑ったのか!?


 おいおいおいおい!?!?


 やっぱり他の勇者たち、この場で殺されてんじゃん!


 僕は意図せずして危険予知のスキルを持っていたから、幸運にもティアラにに済んでいるが、他の勇者たちはどうしていたのだろうか?


 もしかすると戦う系のスキルを選んだ勇者たちは召喚直後からティアラとの戦闘に突入していたのではないか?


 しかし、彼女の服装からは一切の乱れも感じられない。

 僕の前に召喚された勇者たちは、相当の実力者であろうティアラを前にして文字通り瞬殺されたのだろう。


 ……イヤ世界観おかしいだろぉおおおおおおお!

 なんで勇者様なのに瞬殺されなきゃいけないのぉおおおおおお!

 パンツくらいいいじゃぁああああん!

 せっかく勇者になったんだから、期待したっていいじゃぁあああん!


 僕はこの世界の不条理さに発狂寸前だ。



『戦いを回避できる能力』


 それが僕の希望したスキルだが、まさか魔物相手ではなくヒロイン相手に使われるとは思ってもいなかった。


 ……なんでだよ!おかしいだろ!

 美少女はそっちの意味で僕をヤりにくるものではないんだよぉおおお!

 ちゃんとルール通りに動いてよぉおおおお!


 せっかく勇者になってハーレムを堪能しようと思ったのに現実は不条理だ。


 3回も死に瀕して、この世界でようやく3が経とうとしていた。

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