第8章 宮殿かくれんぼ
黄色い
「意外とあっさり抜けた?」
「短かったみたいだね」
私たちは目の前に現れた建物を見つめた。フェンスに囲まれた大きな庭があって、その
私たちは開いていた緑のフェンスの真ん中を通り抜ける。見る限り、左右に、それも左右
「すごい、きれい! でも、入っちゃっていいのかなぁ」
きれいだけど、なんだかきっちりしすぎて、かえって落ち着かない。本当に入ってきちゃってよかったのかな、と思ってしまう。門番はいなかった。
宮殿は近づくにつれて、はっきりと見えてくる。壁は全体に落ち着いた黄色で、庭のつくりと同じくらいきっちりとした左右対称だ。
中央の部分に、
建物は基本的には横に広くて、2階建ての部分が多い。真ん中の部分と、左右にそれぞれ1か所だけ高いところがある。入れそうな場所は何か所かあるけれど、メインの入口はやっぱり、真ん中の入口だと思う。
私たちはそのまま、真っすぐ進んだ。入口のドアは開いていて、だれでも
広い。とにかく広い。そして、
遊園地がオープンしたのも最近だから、本当に新しいのかもしれない。だけど、こんなに広い
エントランスホールには、ほとんど何もなくて、全部が
「こちらでございます」
案内されるまま、私は
「こういうの、ゲームで見た」
「あるかも」
毅が考えそうなことだ、と思う。
案内された部屋に入ると、そこはツインのベッドルームだった。
「建物の外見は宮殿ですが、ここはお客様をお
「え?」
ちょっと待って、聞いてない! お父さんとお母さんが外で待っている。私たちは帰らないといけない。私は部屋の中をざっと見回した。白い電話機がある。私がそれに向かおうと動くと、後ろから声がかかる。
「そちらの電話は内線です」
外にはかけられない? どうすればいいんだろう。
「どうしよう」
私は毅を見たけれど、期待はしなかった。
「そう言われても。ゲーム機じゃ、連絡は取れないし」
そういう
「あの、家族が待ってるので、帰りたいんですけど」
「大丈夫です。この宮殿の敷地に入った時点で、外の世界とは
どういうこと? 理解できない。
「あなたたちの時計は、この敷地に入った
金色の
「現在、こちらは16時55分です。それでは、ごゆっくりとお過ごしください」
そんなこと言われても。
女の人が外に出たので、私は部屋の中を見ておくことにした。部屋ははっきりと分かれていないが、2つの大きなスペースがあった。入口側には、テーブルや
棚を開けると、お皿や
ベッドは少し
クローゼットを開けてみると、服がたくさん
「今のうちに
「ああ、かもね」
私は先に何着か、気になる服を選び出す。何かゲームをするのかもしれないから、動きやすい服のほうがいいのかもしれない。だけど、せっかくいろいろあるし。私は適当なワンピースを何着か取って、サイズを見る。全部同じなのに、私のサイズに合っている。
「うわ、全部サイズ合ってるなんて、気持ち悪いなぁ」
「ホントだ」
私はクローゼットの
クローゼットは大きいので、毅は別の場所で服を選んでしまったらしい。さっさと着替え始めてしまう。私も早くしないと。ピンクのレースつきのワンピースに決めて、下着も探し出した。毅は気にしないんだろうけど、私は服を持って洗面所へ向かう。ついでだから、ちょっと洗面所の様子も見てみよう。
お
お風呂に入るときもそこで服を
ドアはないから、やっぱり
服を持って戻ると、私は自分の服をナップザックの中に入れてしまう。残っていたボトルのお茶も飲んで、それは捨ててしまった。
ザザが現れるまでに、私たちは2人とも着替えを終え、生活空間の確認を済ませていた。
「とりあえず、泊まろうと思えば泊まれそうではあるね」
そう言ったところで、急に部屋にザザが現れたものだから、びっくりしてイスに
「わわっと……ええと、そろそろよさそうだね。この後のゲームを説明するよ」
相変わらず、元気のいい声だ。ザザは何もなかったような笑顔で説明を始めた。
「今から1時間くらいは、好きに過ごしてね。時計が18時を指したら、ゲームが始まるよ。3時間以内に私を探してね。見つからなかったら、ここから帰れなくなるよ。
「見つかったら、次のゲームはまた、明日。私は
帰れないなんて、
「無理じゃね?」
「うーん……」
そんな気がする。何か手を打たないと。本当に帰れなくなったら、笑いごとじゃ、
ゲームの間、食事を
「帰れないって、冗談だよね?」
「わからない」
毅は
「ディズニーランドみたいだね。なんか
「うん、あった気がする」
言われてみれば、他の遊園地のアトラクションでも、ピストルで私たちを
この迷宮は遊園地のアトラクションなんだもん。3人のイラストがある以上、ザザ1人でつくったわけではなさそうだし、他の2人のほうが年上っぽかった。
「どっちかが建物の中で、どっちかが外でいいんじゃない?」
毅だって、さすがに建物の中で迷ったりしないだろう。
「外のほうが、建物が目印になって迷わなくて済みそうだから、
「迷うと思う?」
「うーん、なんかやたら広いから」
「オッケー。終わったら手伝うってことで」
毅はすぐに出発した。私もクローゼットから小さな
首には入場券と時計を
建物全体のイメージはざっくりとつかんであったので、私は自分がいる1階の
といっても、
いや、それとも。私はホウキで飛んでいたザザを思い
私はエントランスホールに
大きな植木
細かいところを探そうとすると、
階段まで戻り、2階に上がる。青い絨毯は階段にも
私は階段を
見つからない。部屋のほとんどはホテルだし、ザザは部屋には隠れないと言っていた。部屋に隠れたらルール
2階から上に向かうエレベーターや階段は3か所あって、私はそれを順番に試すしかなくなった。
左の
左から上がり、上の部屋に着く。1匹の
女性に
だけど、私が女性に視線を送る間に、猫が近づいてきていた。白い毛に茶色いぶちがある。猫は私に近づいてくると、私の
「まさかあなた、ザザじゃない?」
私は思わず訊いていた。
「違うよ」
猫は人間の言葉でそう言った。
「え?」
「僕はザザじゃない。ザザを見つけたいなら、
「
私は急いで階段を駆け下りた。
玄関ホールの中央の植物の葉を片っ端から手に取って
「わっ!」
ザザだ。
「あは、見つかっちゃった。じゃあ、次は明日の9時から、2回目だよ」
ザザはそう言うと、あっという間に姿を消してしまう。私は首にぶら下がる時計を見た。19時58分。あと1時間もあるから、毅を
玄関から外へ出ると、私は毅の名前を大声で呼んだ。ところどころに設置された照明が初夏の花を照らしている。どうも季節はずれの花も
私は心配になって、
照明がないので、裏は暗くてちょっと怖い。来なければよかった。でも、毅がこっちにいるかもしれない。
「毅!」
私は大声で何度か呼んでみる。相変わらず、返事はない。宮殿の裏は広い。宮殿の
カサカサと葉がこすれる音ばかりが、大きな音に聞こえて、なんだか気味が悪い。私はいったん戻って、表の庭をもっとよく見ようと決めた。
来た道を戻り、正面の庭の細い、
「毅、どこにいるの?」
「お姉ちゃん?」
「毅、ザザを見つけたから、
「ああ、いたんだ。どこに?」
「玄関の葉っぱに化けてた」
「え?」
戻りながら、私は実際にザザが隠れていた場所を指さした。
「で、明日の9時から2回目だって」
「そんな、そんな変な場所に隠れられたら、数時間じゃ、普通は見つからないよ!」
毅が言うとおりだ。だけど、また猫に訊けるかもしれない。私がそう言うと、毅は少しほっとした様子でうなずいた。
「昼間なら、もっといろいろ手があるかもね」
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