第6章 黄色い罠
ほんの少しだけ休んで、私たちは迷路を
ピンクの小さな花で始まった生垣は、季節外れのツツジを
「歌でも歌う?」
「いや……」
こういうとき、
「高橋先生って、どんな先生?」
「
「うん」
「国語が好きな先生。だけど、ちょっとひいきする」
「ひいきするの?」
「うん。うちのクラスに佐々木って女子がいてさ。その人が、字がきれいで、国語の
「そっか」
「まあ、先生が感想文を読んでくださいって言って、手を挙げたのがその人だけだったからかもしれないけど。『みんな、やる気なさすぎ』って、先生、
「ふうん」
赤いミニバラのエリアにさしかかり、私たちは右へ曲がった。
「学校の話、してるけど、お姉ちゃんはどうなのさ? あんまり友だちいないって言ってなかった?」
「ああ、うん。まあ……」
そこはあまり、つっ
「女子は難しいの」
「そんなもんかなぁ」
ちょっとしたことで、すぐに気持ちが変わるから。
「あなたみたいに、ゲームだけ与えておけば
「それは……」
毅は
行き止まりに何度かぶつかりながらも、どうにか黄色いバラのエリアまでやって来た。なんとなく分かれ道が
「そろそろ次に着くんじゃないかな?」
私は少し先の道を見ながら
その次の角を道なりに曲がったところで、私は思わず足を止めた。場違いなほど
「クイーンだ」
クイーンは、ゆっくりと私を
「あら、マーサじゃない」
クイーンというのはニックネームだ。本名は松尾奈々。女王様気取りで何でも自分で決めたがるので、そういうあだ名がついている。みんな、本人に理由は言わないが、クイーンは別に自分のニックネームを
ただ、ここまでだれにも会わなかったはずなのに、ここで急にクイーンに会うなんて、ちょっと不自然な気がする。
「あなたの横にいるの、どなた? ボーイフレンド?」
クイーンは私の思考にお構いなしに、
「弟よ」
「ええ、もちろんわかってるわ」
オホホ、と笑いそうな表情でこちらを見てくる。気に入らないけど、
クイーンのお父さんは実業家で、各方面に投資もしており、それなりに
「クイーンも迷宮をしに来たの?」
気楽に聞こえるように
「あら、そんなわけないじゃない。私の父はここの経営にも
「そうなんだ。すごいね」
こう言っておけば、害はないはずだ。
それにしても、ちょっと様子を見に入って来られるなら、どこかに
「あなたも弟さんを連れているなら、しっかりなさいね。このエリアでは、よく道に迷って帰れなくなる方がいるそうよ」
「え?」
クイーンは気取った
「
「うん。まあ、クイーンは
そうじゃない場合もあるけれど。そんな言葉は
クイーンに渡されたバラの
生垣の周辺に木が出現し、次第に森のようになってくる。そして、生垣が広がったかと思ったら、完全に森のような場所に出てしまった。
「うわ、ここ、どうすればいいんだろう」
「さあ」
生垣に沿って歩いたほうが、安全だろうか。それとも、森の中心を真っすぐ進むべきだろうか。ただ、さっきクイーンは、迷って帰れなくなる人がいると言っていたから、生垣は見えていたほうが安心な気がした。
左の生垣に沿うように、私は
私は急いでいたつもりだった。反対側にいくつかの道があるだろうと思って、ひたすら生垣沿いを歩いていた。
「お姉ちゃん!」
毅の叫び声に、私ははっとして周りを見回した。何も変わっていない、ただの森だ。そして、左側には生垣が続いている。
「大丈夫? なんか
「え?」
気づかなかった。どうして歩きながら眠れるんだろう。
「なんか変な魔法がかかってる気がする」
毅は落ち着かない様子で視線をさまよわせていたが、
「そのバラが原因じゃないかな。森の中に捨てちゃおうよ。クイーンもわからないよ」
「……そうだね」
クイーンにもらった黄色いバラなんて、確かに、そんなに
「うわ、まずい!」
「走ろう!」
火の回りのほうが、私たちが走るより早いはずだ。急がないと、丸焼けにされてしまう。
ほとんど考える
「
「はあ、はあ……」
私に
「ああ、もう! 離さなければよかった!」
「離さなかったら
そのとき、生垣のバラが目に入った。黄色ではない。赤や白、ピンクのバラだ。逃げても間に合わない、どうにでもなれ、と、カラフルなバラをそれぞれ1輪ずつ
一瞬にして、森は何ごともなかったかのように静かになった。先ほどまで燃え上がっていたはずの木々も、最初から何もなかったかのように、元どおりそこに立っていた。
「あれ?」
毅も立ち止まる。考えてみれば、黄色いバラ1輪で、火なんて起こせるはずもなかった。魔法には魔法で対応するしかないはずだった。解決した理由はわからないまま、私はその場に
毅も座り込んでしまった。携帯を確認すると、もう16時近くなっている。どうしよう。そんなに何時間もかかるなら、午前中からお
「行かなきゃ。お父さんとお母さんが待ってる」
私はどうにか立ち上がって、お
間もなく、出口らしい場所に着いた。森のせいで道が見えない。本当にここが正しい出口なんだろうか。それとも、あと2つ、まだこの先にあるんだろうか。
出口のところへ着くと、「次へ進む」という文字とともに、矢印が描いてあった。
「うーん、いいのかなぁ」
毅が私に問いかけてくる。
「わからない」
進めそうに見えるけど。
「まあ、いいか。最初に戻ったら、出たいって言っちゃおう」
私たちはそのまま先へ進むことにした。
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