第5章 お化け屋敷
入口のドアは、私たちが近づくと勝手に開いた。両開きの重たい
建物の中は暗い。空気は少し冷たく、どこかのお化け
外にいたときには感じなかったのに、なんだか外でざわざわと木が
「お化け屋敷っぽいな」
「だね」
「痛いよ」
毅の手を強めに
「ごめん」
「まあ、怖いの苦手なの、知ってるけど」
いつもは頼りない弟に言われたくない。でも、
ともかく、私は前に進んだ。だけど、ほんの少し進んだだけなのに、後ろでギーッ、バタン、というドアが閉まる音がして、思わず身体が
「ただの自動ドアだよ。mp3で音を出してるだけかもしれないよ」
確かに、その通りだ。もう少し
そう思っていたとき、目の前にぼんやりとした姿の、白っぽい
「ひっ」
声はあまり出なかった。
足元では古そうな板がギシギシと音を立てて
霊のいるところは明るかった。照明ではない。霊自体が明るかった。照明は足元に、少し明るめのランタンがいくつか置かれている程度だ。
どうにか幽霊の
「コウモリ!」
「
毅は笑いながらそう言って、私の手を引っ張った。
「さっさと行こう」
「わかってる」
頭ではわかっている。心がついて行かないだけだ。
血みどろの男が目の前に現れ、思わずのけぞる。見たくないのに見てしまった。
黄色く光る、飛び出た
下を向いたまま走り、目の前が明るくなったのを見て、顔を上げた。だけど、それは出口でも何でもなかった。
「何、これ?」
「
毅は
鏡がないと思ったところに足を
「え? ちょっと、道じゃない!」
「道か鏡か、確かめてから進んだほうがいいかも」
鏡が反射するのはわかってる。でも、こんなふうに道と鏡が
「こっちじゃない!」
右へ、左へ。鏡の
「きゃあっ!」
突然、目の前にゾンビが現れて、私たちを驚かせる。ちょうど手探りで確かめようとしているところだったので、
「嫌、もうやめて!」
「この建物から出ない限り、どうしようもないよ」
わかってる。私たちはまだ、建物の中にいた。無限に映る自分たちの姿と、いつゾンビと出くわすかわからない
「お姉ちゃん、怖がらなくても、ここに実物はいないよ」
「わかってるけど……」
本当に抜け出せるんだろうか。どこまで行っても、どれだけ進んだかわからない。しかも、こんな鏡の中では、
実物がいないなら、どうして鏡に映るんだろう。なんだか気味が悪い。ゾンビが映るのはほんの短い時間だけだ。次の
ゾンビだけかと思ったのに、目の前の鏡に真っ黒の姿が現れた。吸血鬼だ。ええい、どうせ鏡だ! と思ったのに、
逃げようとして左に向かおうとしたら、鏡にぶつかってしまう。
「落ち着いて」
毅に声をかけられる。鏡
「お姉ちゃん、
毅が私の手を引いた。私はポケットからスマホを出す。
「
「時間を教えてよ」
私はスリープを
「15時3分」
「うわ、思ったより
毅が私を引っ張ったので、私はスマホをポケットに戻す。顔を上げたとき、真っすぐの道が見えた。
「あっちだ!」
「鏡に
「そうだけど……」
でも、間違いなかった。真っすぐ向かう道に出ると、もう鏡は見当たらなくなった。目の前には出口があり、そこから建物を出られるのだとわかった。
「
そう思うと、なんだか急にお
「ああ、何かおやつ、持ってきたらよかった」
「そうだね」
私たちは建物を出て、周りを見回した。目の前に青い壁はない。そこにあった壁は、壁というよりも、
「生垣の迷路」
「少し休みたい」
毅はリュックに手をかけようとする。
「待って、ペットボトル出すから」
私は毅の後ろに回って、リュックからボトルを出した。それからナップザックを右肩だけはずして、自分のペットボトルを出す。お茶にしてよかった。なんとなく、気持ちが落ち着く。
緑に囲まれて、心地のよい風を受けていると、自分がどこにいるのか忘れてしまいそうだった。
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