27.ワイバーン④

 俺たち3人は、ワイバーンを倒した余韻に浸ることなく後始末を開始した。


 戦いが終わり、落ち着いて近くで見てみると、その大きさに改めて驚愕する。

 とにかく、でかい。すでに死んでいて縮こまった姿ではあるが、それでもでかいのだ。


 高さは地球で言うところの象くらいなものだが、象よりも足の長さが短いことも関係しているのか、ワイバーンの方が遥かに大きく感じている。

 月並みではあるが、こんに大きな魔物をつい先ほどまで相手にしていたと思うと、相当なアドレナリンが出ていたのではないかと思うものだ。


 ワイバーンより大きく、強さも段違いなドラゴン種や上位個体もいることを考えると、2体倒せたからといって全く天狗になることは出来ない。

 そもそも怪我をしていて、それに万全な状態のワイバーンに怪我を負わせた魔物が平原にいる可能性があるのだ。


「2体とも損傷が激しい。血はあきらめて、血抜きを行うことにしよう。」

「私もそれがいいと思いますわ。」


 俺は、ワイバーンの処理の仕方や売ることのできる部位などの知識が全くない初心者なので、2人の指示に従うだけだ。


 もともと怪我をし血が出ていた上に、最後の方に急所を徹底して狙ったおかげで、2体とも血が止まらない状態となっており、ノーマンさんの判断で今回は血の収集をあきらめることになった。

 ワイバーンの血は貴重なポーションの材料としても使われるため、高い価格での取引が行われるらしいのだが、新鮮な血が良いらしく条件は満たせそうにないからである。


 とはいっても、肉は高級食材として人気であり、皮や爪なども装備やポーションの材料として使われるようなので、それなりの収入は見込めるだろう。

 皮に関しても傷が多いため、相当部分的にはなってしまうのだが・・・。


 とにかく、初心者講習会で習い、その後もキラーラビット等で実践した血抜きを、3人で進めて行く。

 うろこでおおわれ硬い部分が多いため、簡単な作業ではなく体力も使う。


 ここに来る前の連携の確認にもそれなりの時間を使ったため、すでにお昼と夕方の境目くらいの時刻になっている。

 夕方には大森林に向かった冒険者たちが帰ってくるという予定になっていることもあって、必死に急ぎ作業をするが、単純作業も多いため軽く戦いを振り返りながら、だ。


「冬樹、率直に今回の戦いはどうだった?」

「色々反省すべき点はありますが、剣技の発動や攻撃のタイミングなど上手くいった点も多いので、良かったとは思っています。」

「剣技は素直に驚きました!剣を持って数日で剣技を発動するなど、普通では有り得ないのです!」


 シャーロットに褒められ、ノーマンさんもそれに頷いたことで、少し照れるところだったが、よくよく考えると俺は全然普通ではない。

 ただ女神はこれまで地球から転移・転生した者は大成しなかったと言っていたので、ここからが大変なのか、こんなものはまだまだなのかのどちらかだろう。

 俺には最大のストロングポイントであるキャンピングカーという愛車があるので、これからも強くなれることを祈り精進していくのみだ。


「剣技は確かに素晴らしかったな。実戦の中でコツがつかめたというのは、今後も役立つときがあるだろう。ただ冬樹が言った通り、反省すべきポイントもいくつかある。一番は2体目の登場に気付けなかったことだな。車に居たのなら、マップをしっかり確認し、周りの状況を把握する参謀的な役割を担ってほしいものだ。飛んできたスピードを考えると、十分気付ける時間はあっただろう。シャーロットはどうだった?」

「わたくしが思ったのは、最後の方に冬樹様が剣で戦っていた際に、魔法が撃ちづらかったことですわね。動きが読めず、合図や攻撃のサインが少ないため、タイミングが計りづらいと感じました。」


 ノーマンさんの指摘は俺も痛感していることであったが、シャーロットが言ったことに関しては全く気付けていなかったために驚いた。

 シャーロットが前衛として剣で戦い、俺が魔導砲で遠距離攻撃を担っていた時には、ここで撃てばいいのだというタイミングが分かったので、シャーロットがそう感じたのであれば反省しなければならない。

 確かに振り返ってみると、後ろを意識せずに自分本位な攻撃になってしまっていたと思うし、パーティーとしての動きができていなかったとも思う。


 自分が魔導砲で攻撃していた時には、シャーロットの動きに意識してこちらに合わせるようなものはなかったように思えるので、いかに彼女が自然な動きでそれが出来ていたかということだ。

 もちろん経験の差はあるのだろうが、2体目に気付けなかったことといい、どうやら俺はやはり、戦いに集中すると周りが見えなくなる傾向があるらしい。


 ゴブリンリーダーと戦った際に、なかなか気付けなかったところから気になっていたことではあったが、今回の戦いではそれが特に悪い方向に出てしまったような感じで、一歩間違えればパーティーの崩壊につながりかねないことでもあるため、戦いの間も考え続けることにもつながることではあるが、今後気を付けたいものである。


 そんなことを話しているうちに2体の血抜きが終わる。

 そのまま解体はせずに、ノーマンさんとシャーロットのアイテムバッグにそれぞれ1体ずつ入れて、アンヴァルまで持ち帰るのだという。


 2人のアイテムバッグは初心者講習会でもらった俺のものよりは拡張されたものであるらしいが、さすがにワイバーン2体となると厳しいようで、1体ずつとのことだ。


「だいぶ地面が凸凹になってしまっていますが、これはどうするんでしょう?」

「バーナード様の依頼という形で、復元の依頼がギルドに出ることだろう。魔法を使うか、最悪人力でも時間はかかるが可能だ。討伐依頼ではないから、初心者向けという形だな。」


 なるほど。魔物と戦わないため、確かに危険性は薄そうだ。

 薬草などの収集だけではなく、雑用的な依頼も初心者は受けると聞いたので、こういった依頼がこれに該当するのだろう。

 レッドディストラクションの推薦のおかげもあってFランクからではなくEランクスタートであったため、この手の依頼には縁がなかったが、初心者講習会を受講していた面々は今頃、このような依頼をこなしているのだろうか。


「さぁ、では帰ろう。」


 ワイバーンを2体ともアイテムバッグにしまった今、ここに留まる理由は何もないので、車庫を解除して愛車を出し、それに乗り込む。

 解体していないため、高級という話であるワイバーンの肉を早速食べよう、ということは出来ず少し残念だ。


 ノーマンさんとシャーロットがリビング、俺は運転席で運転といったフォーメーションだ。

 助手席に誰もいないというのは少し寂しいのも事実だが、3人だとこのようになってしまうのは仕方がない気もするので、我慢することにしよう。

 そもそもアイが居てくれるので、高望みではあるのだが。


「おかげさまで、行きの緊張感とは真逆の感情だな。アイもありがとう。お疲れ様。」

『いえいえ、マスターの方こそ、お疲れ様です。』


 アイの言葉がいつもより弱く感じるのは、恐らく2体目のワイバーンに気付けなかったことを引きずってのことだろう。

 アイはAIではあるが、日本でのAIと同じとは全く思えず、人と同じように思考し、失敗すれば本気で落ち込むように、感情もある。

 だからこそ引きずっているのだろうが、人と同じようであるからこそ失敗するのだ。


「アイ、今日のことは気にしなくていい。俺だって今日もいっぱい失敗したが、それをきっかけにして成長すればいいだけだと思うようにしている。世の中には完璧な人間なんていない。そして完璧なAIも。アイ、明日は今日よりも成長しよう。」

『・・・はい!』


 キザな言葉で恥ずかしくなるが、ぎこちないながらも俺の言葉で笑顔を見せてくれたアイ。

 経験も少なく、すぐに切り替えることは難しいだろうが、恐らく大丈夫だろう。


 街までは10キロほどであるため、10分もするとアンヴァルが見えてくる。

 門の付近は出発時と変わらないが、ワイバーンの影響なのか、いつもより馬車の数が少ないのは気のせいではないだろう。

 当然だが、街の人々はワイバーンが討伐されたことを知らないのだ。


「衛兵の様子を見るに、エレナたちは帰ってきていないのだろうな。」

「そうですね。浮つきも慌てもしていないようです。」


 作戦に向かった面々が帰ってきていないのに急ぐ必要はないということで、しばらくシャワーを浴びて汗を流すなどして休憩をとることにする。

 一応代表としてノーマンさんは、確認と報告がてら、衛兵のところへと赴くことになった。


 ノーマンさんが門の方に行っている間に、一通り使い方を説明してから、まずはシャーロットにシャワーを浴びてもらう。

 彼女の住む屋敷では、風呂はないものの、温かいお湯で体を清めることができるそうだが、シャワーを使ってみたいという、彼女たっての希望によるものだ。


 もちろんシャワーブースは鍵が付いた扉で仕切られており、透明でもないため覗くことなどできないが、初めて使うシャワーやボディーソープ、シャンプーなどに興奮する声が漏れ聞こえてきている。

 一枚壁を経た先に生まれたままの状態でものすごい美少女が居るのだ。何となく普通ではいられないのは仕方がないことではないだろうか。


 そんな風にそわそわしてリビングのソファーに腰掛ける俺を、テレビ画面の中のアイが無言でじと目をして見つめてきていた。

 先ほどの落ち込む様子は表情からは感じられず、早速切り替えられたようで良かったとは思うが、今度は眼光鋭く怖さすら感じる。


 正気を取り戻した俺は気持ちを切り替えて、自分と愛車のステータスのことについて考えることにした。

 ワイバーン戦でのレベルアップによるステータスアップにより、現在はこのようになっている。


【名前】大内冬樹(おおうちふゆき)

【種族】人

【レベル】12

【体力】164/164

【魔力】12/12

【攻撃力】41

【防御力】45

【器用さ】42

【知力】(魔法の適正)12

【素早さ】232

【スキル】車庫、剣術LV.2

【残りスキルポイント】16


【アイテム名】愛車(キャンピングカー)

【レアリティ】unknown

【レベル】10

【体力】1450000/1450000

【魔力】1450/1450

【攻撃力】1450

【防御力】1450000

【器用さ】-

【知力】1450

【素早さ】-

【スキル】

 戦闘支援LV.2(半径15メートル以内で戦闘する際、味方の全ステータスが75%アップする。なお、効果は常に発動される。)

 範囲回復LV.1、範囲索敵LV.1、魔導砲LV.1、食料定期便LV.1[指定中:飲料、野菜、魚]

【機能】

 AI、マップ、アイテムボックス、保存、後方カメラ

【残りスキルポイント】13


 特に気になっていたのは愛車のスキルである戦闘支援のレベルアップだ。

 スキルポイントではレベルを上げることができない仕様になっていたので、このように区切りでレベルアップするのではないかと思っていたが、やはりその通りであった。


 範囲が広がったうえ、ステータスのアップ率も上がっているため、今以上に戦いやすくなるのは間違いない。

 ただ、もし10レベルおきに一つずつレベルが上がっていくとすれば、次にレベルアップするのは40レベルに到達したときと考えられるので、甘くはないということでもある。


『マスター、剣術がレベル2に上がっていますね!』


 以前、初心者講習会でスキルを獲得した際も例の声は聞こえなかったので、自力で獲得した際には聞こえないのだろう。

 戦闘支援もステータスアップももちろん嬉しいが、剣術のレベルが上がるのは自分の力で、という思いが強く余計嬉しく感じる。


「冬樹様!冬樹様!」

「あぁ、シャーロット。上がったのか。」

「もう、何度も呼び掛けたんですよ。本当に素晴らしいものでしたわ!ありがとうございます。」


 シャーロットが語気を強めているだけでなく顔を少し赤らめているところを見るに、どうやら二度や三度はなく、何度も呼び掛けていたらしい。


 さぁ、ノーマンさんが帰ってくる前にササっとシャワーを浴びてしまおう。



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