25.ワイバーン②
会議はまず自分が考えたことの共有からだ。
ノーマンさん、シャーロット、俺の順番に昨日から考えてきた作戦やシミュレートした内容を話していく。
シャーロットに関しては、愛車の情報を知っていなかったため、考えていたのは一般的な作戦だ。
「普通は、飛んでいるところを魔法で攻撃し、我々を攻撃しようと降りてきたところに剣などで近接攻撃を仕掛けるものです。わたくしが以前ワイバーンを倒した時には、15人ほどで挑みましたが、魔法を使う後衛の方の人数を通常より増やして挑みましたわ。」
騎士団が15人とは・・・。それほど強い魔物だということなのだろう。
少し不安になるが、続けざまにノーマンさんが話す。
「しかし今回は、ワイバーンが怪我をしているうえに、この乗り物には様々なスキルがあり、色々な役割をこなすことが出来る。普通に考えれば、その時よりも戦いやすいとは思うがな。」
「ただ気を付けなければいけないことは、愛車からの距離ですね。戦闘支援と範囲回復は、この車から半径10メートル以内にいないと発動しません。」
怪我をしているとはいえ良く動くであろう相手と戦うというのに、場所が制限されるというのは良くないだろう。
「ということは、わたくしは乗り物の近くから離れないように魔法で攻撃するのがよろしいですかね?」
「いや、シャーロットは剣での近接をメインで考えてもらいたい。冬樹は、乗り物から魔導砲で支援をしてくれる。俺はワイバーンの攻撃を受け止めることだけに集中することになるだろうから、そうなると近接攻撃の手数が少なくなりすぎる。」
「俺もそれが良いと思います。怪我の影響で近接の重要性は増しているでしょうからね。俺もワイバーンの位置を確認しながら、出来るだけ10-メートルの範囲内に2人を入れることが出来るように、車を動かしたいと思います。」
戦いながらスキルの範囲を意識して車を動かすというのは初めてのことだが、そもそも今回は色々なことが初めて尽くしだ。
最初からできないと決めつけるのは可能性を狭めてしまうことになる。
今更ではあるが、味方と認識したことで確認できるようになったシャーロット様のステータスは、こんな感じだ。
【名前】シャーロット・アンヴァル
【種族】人
【レベル】51
【体力】575/575
【魔力】186/186
【攻撃力】226
【防御力】198
【器用さ】92
【知力】(魔法の適正)212
【素早さ】167
【スキル】剣術LV.5、火炎術LV.3、氷結術LV.2、風刃術LV.2、身体強化LV.2、耐性強化LV.2、回避LV.2、気配察知LV.1、危機察知LV.2
オールラウンダーなので、剣術と魔法の術については高水準ではあるが、特化型と比べるとレベルがそれぞれ2つくらいずつ低いようだ。
本人によると訓練は積んでレベルも高いのだが、やはりというか実戦経験は少ないらしい。
それと気になったのは、エクストラスキルの項目がないことだ。
条件が分からず、ノーマンさんも戦いの中で色々と試してはいるが、未だ発動に至っていないため、何も分からずのままだ。
大まかな作戦が決まったところで、細かいところを詰めていく。
「わたくしは魔力回復薬とステータスを上げるポーションを何本か持参してきました。」
「俺もポーション類に、一応回復薬も少しは持ってきた。」
「それにも関わることですが、もし毒を喰らってしまったり、予想外のことが起こった場合は、いったんこの中に戻ってきましょう。防御力が高いので、安心して休憩することが出来るので。」
2人が驚いた顔を見せる。
どうやら、俺が言ったことは戦いの概念を変えるほどのことらしい。
「冬樹様が、討伐に自信のある理由が分かりましたわ。この車という乗り物は規格外です。」
「俺も色々知っているつもりではいるが、そんな戦い方もできるようになるのだな・・・。」
驚きとともに受け止められ、俺のこの提案によって、作戦は急激に固まっていった。
作戦が決まると、アイテムバッグにしまっているポーションなどをいったん出して確認し、それも終わるといよいよ出発だ。
「まずは連携を確認したい。いきなりワイバーンに挑むではなく、平原の他の魔物で確認することにしよう。」
「そうですね。わたくしもスキルの効果や、魔導砲の感覚を確認したいと思います。」
『近くにいる魔物はキラーラビットがほとんどですね。少し離れたところにはブラックタイガーであろう魔物もいます。』
ノーマンさんによって、まずはキラーラビット、次にブラックタイガーと段階的に戦っていくことが決められる。
この臨時パーティーのリーダーは、ランクもレベルも一番高いノーマンさんだ。
俺はアイとともに運転席に移動し、マップの赤い点に向かって愛車を走らす。
さすがのスピードで、すぐに辿り着き、準備運動もかねて戦闘を開始することになった。
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マップを元に次々と移動し、キラーラビット4体とブラックタイガー2体とのワイバーン戦に向けた模擬戦闘を終えた。
色々なことを想定し動いてみたが、今のところ上手くいき、作戦も機能しているように感じられる。
「少し休憩して、ワイバーンのもとに向かうとしよう。」
「「分かりました。」」
2人で揃って返事をする。
俺はもともとだが、シャーロットも戦い中の指示が適切なノーマンさんを頼れるリーダーと思っているようだ。
少しの間、リビングのソファーに腰掛けてくつろぐ。
テーブルの上には俺が入れたパックの紅茶が入ったカップが3人分。
この紅茶のパックは、食料定期便の米を飲み物に切り替えたことで手に入れたものだ。
残念なことにアルコールの類は一切なかったが、スポーツドリンクや炭酸もあったため、内容的にはかなり満足だ。
この世界にも紅茶はあるらしく、特に貴族令嬢であるシャーロットは飲みなれているようだが、今まで飲んだ中でもかなり美味しいと言ってくれた。
そこまで高そうなものではなかったが、そもそも日本で売られていたものとなれば、安くても洗練されたものだろう。
俺も日本で飲みなれたものを飲むと、心が落ち着く気がするのだ。
「そろそろ行くか。」
しばらく経って、落ち着いたところでノーマンさんが出発の合図をする。
ワイバーンはアンヴァルから南に10キロとのことだったので、愛車であればすぐに着いてしまうのだ。
出発する、イコール戦闘開始ということにもなる。
俺は運転席に移動し、目標地点へと向かってアクセルを踏む。
『マスター、マップにワイバーンらしき赤い点が映りました。』
マップ上では、平原はどこもかしこも赤い点が点在しているものだが、半径数キロ魔物が居ない中心にポツンと一つ、赤い点。
アイの言う通り、これがワイバーンだろう。
魔物が近づいていないのは、強者の気配を感じ取ってのことなのか。
リビングにいたノーマンさんとシャーロットも運転席の方に来る。
リビングのテレビに表示されていたマップにもワイバーンの姿が映ったのだろう。
所々木が生えているだけで、見通しも悪くないため、そこからしばらく走らせると、すぐにワイバーンの姿が見えてくる。
(でかいな・・・。)
サイズは事前に得られていた情報ではあるが、実際に見てみると思ってたよりも大きくびっくりする。
体長5メートルといえば2階建ての家くらいはあるので、大きいのは当たり前なのだが。
一瞬愛車が攻撃に耐えられるのかも心配になるが、何と言っても防御力は100万オーバーだ。
それを超えるような魔物だったら、最初から挑みもしないだろう。
もう少し近付いたところではっきり様子が確認でき、同時にワイバーンも俺たちに気付いたようだった。
聞いた通り、羽、というよりは翼かな、からは血がにじんでいて怪我をしている。
「こっちに向かってくる様子はないが、地面を見るに暴れたようだ。どうやら怒っていそうだな。」
ノーマンさんの話では、基本的にはランクが高かったり上位個体であったりするほど知性が高いものの、人間と同じで個体によって差があり、短絡的だったり、慎重だったりということがあるらしい。
暴れたということは落ち着きがある個体ではないということだろう。
このまま近付いていけば、いずれ突っ込んでくる可能性が高い。
「準備も整っているし、このまま接敵しよう。俺とシャーロットは車から降りて歩いて向かう。冬樹はその後からついてきてくれ。」
「俺が先行するのはどうですか?ワイバーンが車を壊せないと分かるまでは、盾役になることが出来ます。」
「なるほど、それもそうだな。では冬樹の案で行こう。」
防具をまとい、各々の武器を持って2人が車の外に出る。
今までのように思考停止にならないように気を付けていて、提案も今とっさに考え付いたものだ。
俺自身は安全な愛車の中にいるため、考える続けることは非常に重要だ。
2人が車の後ろについたことを後方のカメラで確認し、愛車をゆっくりと前進させる。
徐々に近づいてくる異物に、ワイバーンも警戒しているのか威嚇を繰り返している。
少しずつ進め、残り50メートルくらいまで近づいたところで、ついにワイバーンが動きを見せる。
『来ましたね!』
急に動き出し、突っ込んでくる。やはり飛ぶことは避けたいのだろうか、翼は動かさずに、走っての移動。
それでも十分に速い。
ドゴォォォン
そのままワイバーンは体当たりを仕掛けてきて、ぶつかる鈍い音とともに車が少し揺れるが、全く問題はない。
エンジンは止めずに、少しずつワイバーンの方への移動は続けたままだ。
車の両側からは後ろに待機していたノーマンさんとシャーロットが現れ、正面で体当たりを続けるワイバーンを相手に剣技を発動させ、切り裂き続ける。
時々挑発もかねて、タイミングを見計らい、至近距離の魔導砲で刺激する。
そこから数分の間は、愛車に体当たりを続けるワイバーンにひたすら2人が剣で攻撃をしていった。
怒りで単純な体当たりを続けていたワイバーンもさすがにダメージを全く与えられていないことに気が付いたのか、目標を切り替え、より近くにいたノーマンさんへと向かって行く。
だが時すでに遅し。この数分で傷は増えていて、特に翼はダメージが酷く、飛ぶことはもう不可能だろう。
最初に突撃してきた時よりも、明らかにスピードが落ちていて、攻撃にキレもない。
ノーマンさんはいつもの涼しげな表情で攻撃を受け止め、シャーロットさんは隙を見て剣による攻撃を繰り返す。
俺も2人の動きに合わせて車を動かし、時おり魔導砲で攻撃を加える。
ワイバーンも何とかしようと、攻撃手段を変えたり、毒がある尾での攻撃を狙ったりしているが、ノーマンさん相手には全く通用しない。
このように攻撃を続け、10分もするとワイバーンは傷だらけでボロボロになっていた。
(あと少しだ!)
その時だった。
突然地面に大きな影が映る。
不思議に思い、慌てて身を乗り出し上を見上げると、そこには今戦うワイバーンと同じ姿をした魔物が飛んでいた。
俺は必死だったため当然気付いていなかったが、アイの驚く様子を見るに彼女も気付いていなかったらしい。
「つがいだったか!」
『ごめんなさい、マスター。マップの確認を怠っていました。ですが、見てください。新たに来たワイバーンも怪我をしているようです。恐らく無理をして飛んでいるのでしょう。』
ノーマンさんは直前で気付けたようだが、シャーロットは気付けず、新たなワイバーンの体当たりを喰らってしまう。
幸い直前でガードしたためダメージは少ないが2人が目を合わせ、続いて俺の方を見る。
俺が頷くと、2人も頷き、走って愛車の中に戻る。
予想外の出来事が起きたのだ。ここでいったん、休憩だ。
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