17.初依頼達成

 ミール村に集落の殲滅を報告すると、村人たちに過剰ではないかと思ってしまうくらい喜ばれた。

 村全体がまるで祭のようになり夜の宴にも誘われたが、街に戻らないといけないことを伝え、何とか解放された。


(正直こちらが戸惑うくらいの反応だったな。)


 ギリギリまで残っていかないかと言われていたが、俺たちの街へ戻るという意志が固いとわかると、せめてもと村で育てていた野菜などの農作物を大量に受け取ることになった。

 初めてのことだし、村に残りたい気持ちもあったが、初回依頼であることと、明日の作戦に向かうレッドディストラクションの4人を見送りたいという気持ちがある。


 ちなみに農作物はいったんアイテムバッグに入れ、今は愛車のアイテムボックスや冷蔵庫の中に保存してある。


 今は街へと戻る車内の中だ。


『それにしても喜ばれて良かったですね~!マスターもノーマンさんも、まるで英雄でした!』

「まぁ、悪い気はしなかったけど・・・。ノーマンさん、あれが普通なんですか?もらった農作物も大量でしたけど、大丈夫なんですかね?」

「あぁ、あれが普通だな。彼らには対抗手段がないから、本当の意味で命を救ったわけだ。農作物も本来はコボルトどもに根こそぎ奪われたかもしれないものだからな。」


 なるほど。リーダーにも思ったより苦戦しなかったし、日本での感覚も残っているため、こういうことを思ってしまうのだろう。

 村人たちからすると当然のことをしたという感じかな。


 続けて車内ではコボルト戦を振り返り反省会をする。


「コボルト戦は総じて見事だったと思うぞ。しかし、剣術がまだまだなことと、リーダーの出現に自分で気付けなかったことは、これからの課題だな。」

「リーダーの出現ですか?」

『コボルトリーダーが現れたことは私がお伝えしましたが、マスターの位置からですと、もっと前から見えていたはずなのです。』


 そうなのか。リーダーの存在は確かにアイの声で気付くことが出来ていた。

 アイのサポートは出来るだけ受けられるような位置にいたいが、もし戦闘時に愛車を出しっぱなしで一定距離から離れてしまった場合には、自分の力だけで戦う必要が出てくる。


『私ではマスターが気付いているかどうかの判断ができないので、そこが難しいところではありますね。』

「その辺も戦闘をこなすうちに慣れる必要がある。それに後ろから見ていた俺からすると、かなりひやひやするような相手の攻撃もあった。一見苦戦してないようには見えたが、魔物のランクが少しでも上がると、ちょっと苦労しそうだ。」


 剣術LV.4を持ち、戦闘に慣れたノーマンさんがそう言うなら、正しいのだろう。

 言われてから考えてみると、落ち着いていたように見えて、目の前のことでいっぱいいっぱいで周りまで確認する余裕はなかった。


 そのために、魔物の存在や戦闘時に強い魔物の出現を察知する気配察知、戦闘時に自分の危機となる攻撃を察知する危機察知の2つは早いうちに習得しなければいけなさそうだ。


 もちろんレベルが上がり、ポイントも獲得できている今なら、ポイントで手に入れることもできるといえばできるのだが、自力で戦闘時に習得できるスキルをポイントで、というのはもったいなさすぎる。

 それに今の段階では、色々なスキルに自由にポイントを使えるわけではないので、いざというときに取っておきたいという気持ちが強い。


 新たな目標としてこの何日かで2つのスキルを最低でも習得しLV.1にすることを決める。


「ところでノーマンさんのエクストラスキルはどうでしたか?」

「全く反応がない。戦闘時に唱えたりもして試したが無理そうだな。長年眠らせていたスキルだから、長い目で見る必要があるかもしれない。」


 体力や戦闘時間など、色々な仮説を立てることは出来るが、確証はないし、どれもが簡単に試せることではない。

 ノーマンさんの言う通り、長い目で見て、いつか発動してくれるのを待つしかないのかもしれない。


 その後も色々な話を続けているとアンヴァルへと近づいてくる。

 行きにも通った見覚えのある道に少し安心する。


 帰り道はマップに映った、常時依頼となっているホワイトスライムをノーマンさんが数体狩り、回復薬の原料となる核を数個手に入れた。

 これで得られる報酬についても俺がもらっていいとのことだ。金には困っていないく、新しいスキルの存在も教えてもらったからだというが、いつか必ず恩返しをすると誓う。


 回復薬やポーションの作り方についてはノーマンさんよりもアイの方が詳しく、それらを作ることが出来るようになる調合のスキルを持つ人に師事し、スキルを習得することによって技術を継承していくようだ。

 習得は良い師匠に師事できても数年単位で時間がかかるようなので、調合のスキルはポイントでの獲得候補の一つである。


「もう着いたか。さすがに早いな。」

「街が混乱してなければいいですけど。」


 門の前に愛車を止めると、アイテムバッグに必要なものを移し、交互にシャワーを浴びてから車を降り、車庫を発動させる。

 俺が心配しているのは、行きに門で初めて一般の人に愛車を見られたことで騒ぎになっていないか、ということだ。

 今のところ珍し気にこちらを見る視線は感じるが、どうということはない。


「大丈夫だろう。危険が迫っても、俺が守るさ。さぁ、ギルドに行って依頼の達成を報告するぞ。」


 ノーマンさんの言う通り、街に起きても何か問題が発生することはなかった。

 相変わらずたまに視線を感じるが、ノーマンさんといるところを嫉妬されていた朝と比べると、悪い感情を持った視線はむしろ減っている気がする。


 しばらく歩き冒険者ギルドの中に入っても同じような感じだ。

 例のごとく、閉まっている窓口へと赴き、パメラさんを呼ぶ。


「ノーマンさんに、冬樹さん。早かったですね。まさか今日中に帰ってくるとは思っていませんでした。」

「ちゃんと依頼は終わらせているから心配するな。」


 そうノーマンさんが言うと、パメラさんが驚いた顔をするがしばらく考えて合点がいったのだろう。


「そうだ。乗り物ですね。お二人が出かけた後は、大変だったんですから。」

「大変だったとは、どういうことです?」

「見たことのない金属の大きな塊が、ノーマンさんと男を乗せてすごいスピードで平原へと飛び出していったと、門の方で大騒ぎだったんですよ。その中に冒険者もいたので、ギルドも大騒ぎだったのですが、噂を聞いたバーナード様がギルドを通して声明を出して、古代遺跡の遺物で所有者登録もされていることがだいぶ落ち着きましたね。」


 そんなことがあったのか。びっくりはしたが、同時に納得もする。

 バーナード様が声明を出したのなら、視線は向けつつも利用しようと声はかけづらいだろうし、嫉妬の目線が少なくなったのも遺物があるから一緒にいると捉えられたのだろう。

 遺物の獲得は運が良いと考えられるらしいし、言われた通りに所有者登録をしておいて良かったと思う。


「これでこれからアンヴァルでは周りの目を気にせず乗り物を使えそうだな。」

「そうですね。」

「では依頼の話に移りましょうか。ギルドカードを提出してください。」


 パメラさんに言われて、俺とノーマンさんはカウンターにカードを提出する。

 慣れた手つきで処理をするが、再び驚く顔を見せる。


「冬樹さんがリーダーを討伐したんですね!講習会を受けたばかりなのに、すごいです。」

「ノーマンさんにかなり助けられて、ですけどね。どうして分かったんです?」

「この魔道具に討伐数や討伐アシスト数が表示されるんです。だから不正はするだけ無駄なんですよ。」


 そんな便利な魔道具なのかと驚いていると、神々によって与えられた魔道具なのだとアイが小声で教えてくれた。


「よし、終わりました。ギルドカードはお返しします。今回の報酬はEランクキラーラビット10体討伐の達成で銀貨10枚、Dランクコボルト集落殲滅の達成で銀貨30枚、コボルトリーダー討伐で銀貨15枚、それに提出していただいたホワイトスライムの核5個で銀貨10枚、合わせて銀貨65枚となります。キラーラビットについては、奥の魔物の買取カウンターに持って行ってくださいね。」

「ありがとうございます。」


 俺は事前の約束通り全額をパメラさんから受け取る。


 続いてキラーラビットを奥の魔物買取カウンターで売ると10体で銀貨10枚だった。

 今回のキラーラビットを倒すという依頼とは別になっているので、倒したものを放っておかず持って帰って売ることで、更にお金を得ることが出来るのだ。


 今日の稼ぎは全部で銀貨75枚。重いが、・・・軽い。果たして多いのか少ないのか。

 装備の手入れや食費、宿代、回復薬などの必要経費、その他雑費、装備を買うための積み立て。

 考えてみると結構金がかかるものだ。


 5人メンバーがいる普通の初級パーティーが今回の依頼を2日で達成するとして、一人当たり銀貨15枚で、日当としては銀貨7枚と銅貨50枚といったところだ。


 計算すると初心者のうちは、かなり厳しいように思える。


「どう思う、冬樹。」

「正直厳しいと思いましたね。初心者パーティーならコボルトリーダーと戦えば負傷者も出るでしょうし、考えれば考えるほどお金が足りないように思えます。」

「そうだ。そして賢くないものは装備の手入れや回復薬といったところに金を使うのをケチり、結局それがもとで死んでいく。初心者パーティーではよくあることで、帰還率は初心者がもっとも低い。引き際も分かっていないからな。」


 ノーマンさんの言葉が重く響く。俺は愛車もありノーマンさんもいて運が良かったが、一緒に初心者講習会を受けたうちの何人かは、もうすでに死んでいるかもしれないのだ。

 未だに自分の中で、日本にいた頃の平和、安全であるという常識が抜け切れていない。


 隣の宿に戻ると、すでに時間は夕食どきで、部屋に戻るとすぐに1階に呼ばれた。


 俺はレッドディストラクションの他の4人にも今日あったことや、初心者が死んでいく現状について考えること、覚悟ができていないのかもしれないと思ったことなどを話していく。


 メリッサには馬鹿にされるかとも思ったが、想像に反してメリッサも含め全員が真面目に話を聞いてくれた。


「冬樹、覚悟なんてものは冒険者を何年も続けてきた私たちもあるかと問われれば、言葉に詰まってしまうものだ。覚悟を感じるような時が来ないように必死になり、足掻く。この世界は不平等で、危険に満ち溢れた、この道しかないというものが大勢いるんだ。」


 ついこの間、その覚悟を感じたであろうエレナの言葉が重く響いてくる。


 いよいよ明日、4人は作戦へと向かうのだ。


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