16.コボルト

 再び車に乗って平原を走る。時間はまだお昼前だ。


「今回はミール村という村からの依頼だ。まずは村に向かおう。」

『ではミール村に向けてルート案内を開始します、マスター。』


 このコボルト集落殲滅の依頼は、村の近くの森の中にコボルトの集落ができたので殲滅してほしい、という村からの依頼で、冒険者ギルドは仲介の役割を担っている。


 アンヴァルからは20キロほどで歩くと4時間以上かかるが、愛車での移動なので30分もかからない。

 冒険者は馬車での定期便がある場所や、運良く商人の馬車に同乗させてもらえる時以外は徒歩で移動するのだという。


 そのため今回のような依頼は、最低でも1泊して挑むのが普通だという。

 移動だけでも往復8時間かかるということだからね。


 ちなみにキラーラビット10体は血抜きして、アイテムボックスである棚の中に入れてある。

 アイテムバッグの中でもいいのだが、愛車のアイテムボックスは時間経過が遅くなっているので、より鮮度を保つことが出来る。


 そういうことを踏まえると、思った通り愛車は冒険者生活でも最強の相棒だ。


『コボルト、人面犬ならぬ犬面人といったところでしょうか。単体だとEランクの魔物ですが、今回のように集落の殲滅となると一つランクが上がり、Dランクとなります。』

「イメージとしてはゴブリンより少し速いかわりに、少し力が弱いといった感じだろうか。速いと言ってもキラーラビットほどではないから、あれの攻撃を避けていた冬樹なら大丈夫だろう。」


 移動中はノーマンさんとアイからコボルトについて教えてもらう。


「注意するべき点はありますか?」

「一番は連携だ。コボルトはそれなりに連携してくる。数が増えれば増えるほど厄介になってくるだろう。」

『それに集落にコボルトリーダーがいる場合には注意が必要です。単体でDランクの魔物。マスター一人で戦えば、少々てこずる可能性はあります。』


 なるほど。集落を作るぐらいの知能があるわけだし、今回は相手のホームに突っ込んでいくことになる。

 武器を持っているコボルトもいるという話だし、油断は禁物だ。


「俺はノーマンさんがいっぱい話してくれて嬉しいです。」

「冬樹のことは信頼しているし、命の恩人だ。だが、俺は話すことが得意ではない。大勢になると余計に無言になる。」


 ノーマンさんが苦笑して言う。


 話をしているうちに、もうすぐ村に着くようだ。



 村まであと少しのところで愛車を降り、車庫を発動する。

 愛車で村に乗り入れると、刺激してしまうかもしれないという判断によるものだ。


 柵で囲まれたミール村に入ると、俺たちに気付いた村人が話しかけてくる。


「冒険者の方ですね。今、村長を呼んでくるのでお待ちください!」


 村人が呼びに行った村長が来ると、依頼内容の確認をする。

 ここ最近村の近くでコボルトをよく見かけていたのだが、10日前に村の狩人が南に2キロほど先の森の中に集落が作られているのを見つけたらしい。

 同席していた狩人が補足する。


「それなりに集落は発展していて、目視できただけでも15体はいました。リーダーの存在は分かりませんが、あの集落の大きさならいてもおかしかはないかと思います。場所の案内は必要ですか?」

「いや、案内は必要ない。安心しろ、俺はAランクだ。」

「おぉ、それは助かりました!村のものもコボルトを見かけて、おびえていたところなのです。どうかよろしく頼みます。」


 今回は初回ということで、村長と話しているのはノーマンさんだ。

 普段はエレナに任せっきりのようだが、ノーマンさんの言葉は村長を含めた村に人たちを安心させたようだ。


「では、行ってくる。」


 村に人たちに見送られながら、集落へと向かう。


「村から2キロとはずいぶんと近いですね。そんなに気付かないものなのでしょうか?」

「森の中に食べ物があるうちはコボルトも森を出ようとしない。恐らく数が増えて食料が不足気味になり、森から出始めたのだろう。」

「そういうことですか。ということは、ギリギリのタイミングでしたね。」


 もう少し遅ければ、コボルトが食料を求めて村の農作物を狙ったり、村の中に食料を求めてやってきたことだろう。


 2キロの距離なのでしばらく歩いていると、集落が見えるようになってきた。

 アイの言う通り犬面人だ。犬は大好きだが、コボルトは非常に不気味だ。


 最初は俺が一人で対応し、もしコボルトリーダーがいたらノーマンさんも参戦してくれることになっていた。


「俺は集落の入り口で討ち漏らしがいたら倒すことにする。」

「じゃあ、俺は向かいます。」

「油断だけはするなよ。」


 入り口まであと100メートルというところで、ノーマンさんと別れ、端末の中のアイとともに集落へと進む。

 簡易的ではあるが柵のようなもので集落全体が囲まれているため、入り口からしか入ることが出来なそうだ。

 不意打ちは無理そうなので、正面から堂々と向かうことにした。


 近付いていくにつれ、存在に気付かれたらしく、集落の中が騒がしくなっている。

 敵だということは分かっているようで、すでに入り口付近の数体は臨戦態勢だ。


『マップによるとコボルトは全部で36体。確実とは言えませんが、その中の1体は反応が大きく、コボルトリーダーだと思われます。』


 アイの言葉に警戒を高める。緊張はせず、平常心でいられている。


(さぁ、そろそろ行こう。)


 すでに気付かれているためここまではゆっくりと移動したが、ここからは戦闘モードだ。


 抜いていた剣を構え、コボルトに向けて勢いよく走り出す。


(よしっ、まず1体!)


 ゆっくり動いてたため、急に動き出した俺に不意を突かれた形になったコボルトを1体切り裂いた。

 更に向上しているステータスを生かし、左にステップ。さらに2体を倒す。


 すぐに3体を倒され、入り口にいた最後の1体が警戒を強めるが、もう遅い。

 俺は勢いのまま足を踏み出し、突きを繰り出す。


(これで4体。緒戦は上手くいった。)


 それからしばらく単体で次々と向かってくるコボルトを苦労することなく倒していく。


 合わせて15体ほど倒したところで、さすがに力量の差を理解したらしく、今度は剣を持ったコボルトが前面に出てきて、それ以外が隙を見て襲うという連携を取ってくる。


 対応が遅いのでは、と思うが知能が高いという訳ではないようなので、こんなものだろう。


 前に出てきたコボルトと剣を合わせる。

 力は当然俺の方が強く、すぐに弾き返すことができた。


 剣を合わせたタイミングで数体が後ろから襲ってきたが、すでに弾いていた俺は、剣を振り回し、それを撃退した。


(通用している。このまま行くぞ。)


 すぐさま俺は前へと飛び出し、次の攻撃を繰り出そうとしていたコボルトに剣を振り下ろす。

 コボルトも対応しようとするが、スピードも俺の方が勝っているらしく、間に合わない。


『マスター、コボルトリーダーが出てきます。』


 剣を持つコボルトを倒し、後ろに控えているコボルトを倒しに行こうとしたところで、アイが警告する。


(・・・でかいな!それに威圧感もある。)


 集落の奥の方から剣を持ったコボルトリーダが怒った表情で向かってきていた。


 普通のコボルトが体長150センチ程度なのに対して、コボルトリーダーは2メートルはあるだろう。

 剣に関しても、さっきのコボルトが錆びた剣を持っていたのに対して、リーダーはちゃんとしたものを持っている。


 まずはリーダーを倒すべきと考えた俺は、剣を構えなおしてコボルトリーダの方に駆けて行く。

 大きな相手ではあるが恐怖心は全くない。少しずつ自信もついてきているし、頭の中でシミュレーションもできている。


 向かってくる俺を見て剣を構えたリーダーと、初撃を交わす。


(重い・・・!が、無理ではない!)


 確かに一撃は重いが、重いだけで押されるほどではない。

 焦ることなく、そのまま2回、3回と剣を合わせる。


 力は互角、スピードは俺が勝っているようだ。

 力で押し切れなかったことに焦った表情を見せるリーダーが確認できて、俺の方はより落ち着くことができた。


「冬樹、援護する。相手の攻撃を引き受けるから、隙を見て攻撃するんだ!」


 ノーマンさんが応援に駆けつけてくれた。

 急いで俺は後方にいたノーマンさんと場所を入れ替わる。


 俺が重いと感じていたリーダーの攻撃を、ノーマンさんは平然と盾で受けていく。

 さすがノーマンさんだ。すごい・・・。


 それを何回か繰り返すと、ノーマンさんが攻撃してこないことに気付いたのか、敵が大きく剣を振りかぶる。


 次の瞬間、コボルトリーダーが勢いよく振り下ろした剣を、ノーマンさんがタイミングよくはじき、パリィを食らわせた。

 それを見た俺は素早く足元に滑り込み、足付近を集中的に数回剣で切る。


(よしっ!連携もうまくいった!)


 足をやられたコボルトリーダーは立てなくなり地面に崩れ落ちる。

 ここまで来たら、あとは剣を避けながら一方的に攻撃していくだけだ。


 リーダーが崩れ落ちたため、死に物狂いで襲ってくるコボルトを倒しつつ、少しずつリーダへのダメージを蓄積させていく。


 [ゴブリンリーダーを倒しました。大内冬樹のレベルが2アップし、スキルポイントを2獲得しました。]


 5回ほど切ったところで、コボルトリーダが息絶えたようだ。


 ふぅ~、と大きく息を吐く。危ない場面は一度もなかったが間違いなく今までで一番強い敵だった。

 結果的にノーマンさんの助けを借りたが、一人の時にそれほど苦戦はしなかったし、何よりも平常心で焦ることなく戦うことが出来た。


「冬樹、お疲れ様、良い戦いだった。助太刀は必要なかったかな?」

「いえ。助かりました。ノーマンさんもお疲れ様でした。」

『マスターが戦っている姿、迫力を感じましたよ!』



 その後、残っていたコボルトを倒し、討伐証明として耳を狩る。


(うっ!正直気持ち悪い。これだけは慣れることがなさそうだ。)


 戦っている時よりも今の方が動揺しているのが分かる。メリッサが居たら、からかわれていたことだろう。


 耳を狩り終わると、倒したコボルトを一か所に集め火で燃やす。

 アンデッドの発生を防ぐためだそうだ。


 一か所に集める際、俺はコボルトの体を引きずっていたのだが、ノーマンさんはいったんアイテムバッグに入れ、それから取り出していた。

 賢い・・・。苦労していた俺が馬鹿らしくなる。


 集落を確認しても金目のものは一切なかったが、ノーマンさんによると、コボルトリーダーを倒したので、ギルドから追加報酬がもらえる、とのことだった。


 やるべきことを終えた俺たちは、殲滅の報告をするために村に戻ることにした。


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