15.キラーラビット

(スキル:車庫を解除!)


 門から少し離れたところで愛車を取り出す。

 この平原の道は、開拓しやすいこともあってか、大森林の道よりも広めだ。


 いきなり見たことのない乗り物が登場したことに、門にいる衛兵や馬車の御者が驚いた顔をしているのが遠くからも確認できる。

 ちなみに、大森林の方と比べると、馬車の量も人の量も比べ物にならないくらい多くなっている。

 おそらく物流などがこちら側に限定されていることが原因なのだろうが。


「じゃあ、ノーマンさん入りましょう!」

「あぁ、失礼するぞ。」


 ノーマンさんは大勢でいるときは全くといっていいほど話さないが、少数だと意外としゃべらないこともない。


 昨日もバーナード様にお見せするときに乗りはしたが、大勢で偉い人もいたことから緊張していたし、シャワーを浴びていた時も急いでいて心に余裕がなかった。

 それでも1日ぶり、2日ぶりくらいなものだが、そもそもこのところ一日一日が非常に濃く長く感じているので、かなり久しぶり、といった印象を受けてしまう。


『やっぱり、安心しますね!!』


 アイも久しぶりにカーナビやテレビの中を自由に動き回って楽しそうだ。


 いきなり戦いに行くことはせず、まずは軽くリビングでくつろぎがてら、軽く作戦会議をすることになった。

 ゆっくりとできるのも、この愛車の良いところだ。


「冬樹、今回の目的はレベル上げと言っていたが具体的に何レベルまで上げたい?」

「10レベルですね。まずはノーマンさんにも確認してほしいものがあります。」


【名前】大内冬樹(おおうちふゆき)

【種族】人

【レベル】1

【体力】54/54

【魔力】1/1

【攻撃力】8

【防御力】12

【器用さ】20

【知力】(魔法の適正)1

【素早さ】10

【スキル】車庫、剣術LV.1

【残りスキルポイント】0


【名前】ノーマン・バートン

【種族】人

【レベル】65

【体力】530/722

【魔力】105/105

【攻撃力】172

【防御力】482

【器用さ】123

【知力】(魔法の適正)90

【素早さ】115

【スキル】盾術LV.7、剣術LV.4、格闘術LV.3、身体強化LV.5、耐性強化LV.5、回避LV.3

 ディフェンシングオーラ《エクストラスキル》(一定時間、味方の防御力をかなり上昇させる)


 ステータスが見られることや、スキルポイントを得られること、戦闘支援で50%ステータスがアップすること、マップで索敵できることなど、愛車に関する全ての事柄をノーマンさんに明かしていく。

 よく分かっていないバーナード様相手には、躊躇して情報を制限して伝えたが、ノーマンさんは確実に信頼できる相手だと思っているからこそのことだ。


「すごいな。思っているところの数段上、どころではない。それに、ステータス。ギルドカードでもここまで詳しくは分からないからな。」


 珍しくノーマンさんが、まくしたてるように言葉を発する。

 ちなみにギルドカードで分かるのは、現在のレベルと習得したスキルの名前ぐらいだ。


「勝手にステータスを見てしまったのは申し訳ないです。」

「冬樹に見られるのは構わん。それよりもエクストラスキルが気になる。ギルドカードにはないスキルだ。」


 他人にステータスを見られることが嫌だったかもしれないと思い謝ったが、そんなことよりもノーマンさんはエクストラスキルが気になっているようだ。


 知らなかったうえに、今まで一度も発動したことがないらしい。

 まぁ、当然知らないから発動させようと思いもしなかった、というのが正しいのかもしれないが。


「ここに来てレベルもスキルレベルも、かなり上がりづらくなっている。エクストラスキルを習得すれば今より強くなれる。」


 愛車のレベルも10に行かないうちから上がりづらさを感じているので、65ともなればほとんど上がらなくなっているのだろう。


『う~ん、エクストラスキルについての情報は少ないです。特定の条件で習得し、特定の条件で発動するとしか。』

「ノーマンさん、ここから数日間、俺のレベル上げと合わせて発動できないか色々と試してみましょう。」

「そうだな。今回は教官役に徹しようと思っていたのだが、すまない。」


 アイでも分からないなら、実際に試していくしかないだろう。

 ノーマンさんは謝っているが、一方的に俺のレベル上げに付き合ってもらうことを申し訳なくも思っていたので、俺からするとこれでお互いにとってやるべきことが出来て良かったと言える。


「となれば、早速依頼をこなしていこう。まずは、キラーラビットからだ。」


 ノーマンさんは俄然やる気が出たようで、すぐに出発することになった。


 俺は運転席、アイはカーナビという定位置に付き、ノーマンさんは助手席に座る。

 他に誰もいないのに、わざわざ別れて座る必要もない。

 豪華なキャンピングカーで運転席と助手席に2人というのは、もったいない使い方だとは思うがこれはこれで良いものだ。


『移動とは言っても、キラーラビットはそこら中にいますので、一応一番密集しているところに向かいましょう。』

「そうだろうな。キラーラビットは数が多いから見つけるのは簡単だが、逃げることもあるから倒すのは簡単ではない。」


 キラーラビットは、初心者講習会の時に解体した魔物だ。

 この平原に多くいる魔物で、体長は平均で60センチほど、すばっしっこいが攻撃力は高くない。

 剣術を試すにはうってつけだ。


『マスター、この辺でいいでしょう。』

「マップと索敵もすごい機能だな・・・。冬樹、まずは一人で倒してみてくれ。乗り物はどうする?」

「後ろにあるのとないのとでは安心感が違うのですが、今回は戦うときは出来るだけ仕舞っておこうと思います。」


 街の中、狭い場所など愛車を出したまま戦えないことも多くあるだろうから、その練習だ。

 仕舞う仕舞わないでどちらもメリットがあり、仕舞うメリットは端末を持つ自分を中心にスキルが発動されるため、激しく動いてもスキルが発動し続けること。仕舞わないメリットは、一時的に車の中に戻って退避したり、まずいと思ったらすぐに逃げられたりすることだ。


 5分ほどの移動とのことだったので、俺は防具をまとったままだ。

 頭の中でシミュレーションをしながら、ノーマンさんが防具を着けるのを待つ。


「待たせたな。じゃあ、行こうか。」


 2分ほどでノーマンさんから声がかかった。さすがに手慣れたものだろう。

 愛車から降り、車庫を発動し、端末を防具の下のポケットにしまう。

 端末をいちいち取り出して確認するのは油断を生むし、面倒だということで、敵の位置などはアイが知らせてくれることになっている。


『マップによると50メートル先の正面に1体、いるはずですね。』

「俺はここで見守る。冬樹、気を付けて行ってくるんだ。」


 ノーマンさんに返事をしてから、剣を抜いてゆっくりと歩き始める。

 そこまで暑くないはずだが汗が出始め、自分の心臓の鼓動が大きくなっているのが分かる。


(いた!)


 30メートル先。草を食べている50センチほどのキラーラビット。少し小さめだ。


(まだこちらに気付いていない。)


 食事に夢中になっていて、周りを確認する様子もない。


 足音を立てないようにそろりと歩き、あと5メートルのところまで近づく。

 理想はここから一気に近付いて、一振りで終わらせることだ。


(よし、行くぞ。)


 講習会で何回も練習した型や繰り返した素振りの成果を出す時だ。


 俺は剣を頭上に上げると、一気に敵に向かって走り出す。


(行ける!このまま届け!)


 イメージ通り、剣を振り下ろし始める。

 その時だった。キラーラビットが俺を超えるようにして高くジャンプする。

 もちろん俺の一撃は空振りに終わる。


(気付かれていたか。)


 事前情報として高い跳躍力があることも聞いていたが、なるほど、これは高い。

 一撃で仕留めることはできなかったが、すぐに次の手を。


 後ろを振り返ろうとすると、足の方に衝撃を受ける。

 キラーラビットが突進を仕掛けてきていた。そのまま噛みつこうとしてきたが、俺の防御力が勝っていたためか、諦め再び距離を取られた。

 痛くはなかったが、びっくりはした。


(相手はこちらを待ってくれないんだ。)


 当たり前のことを考える。少し油断したかもしれない。

 キラーラビットは、牙をむいて俺を警戒している。


 防御力が上回っているのか、それともスキルの回復力が上回っているのかは分からないが、俺にダメージは全くない。


 次の動き出しは同時だった。

 俺は再び構えを取り、走って近づいてから剣を振り下ろし始める。


 キラーラビットは、同じように突進してくると思いきや、近付いたところで少し横に・・・。


(フェイント!予想通り!)


 もしかしたらフェイントがあるかもしれないと思っていた俺は、振り下ろし始めていた剣を斜めに切り下げる。

 もしものために振り下ろしに勢いをつけ過ぎないようにしていた。


(勝負あり!)


 グサッという手ごたえを感じ、連続して攻撃しようと構えていた姿勢を元に戻す。


 キラーラビットは地面に横たわっている。

 初めて自分の手で魔物を倒したが、解体を経験したからなのか、嫌な気持ちはそこまでなかった。

 ノーマンさんが走って近づいてきている気配を感じる。


「冬樹、初討伐おめでとう。」

『おめでとうございます、マスター!』

「あ、あぁ。ありがとうございます。」


 一撃で仕留められなかったところ、油断して一発受けてしまったところなど、反省するべき点はあるが、思ったよりは落ち着いて戦うことが出来た。

 そのことをアイやノーマンさんにも伝える。


「確かに直すべきところはあるが、初めてにしては上出来だ。早い魔物を相手に二撃目で。しかもフェイントも読んでいた。」

『マスター、かっこよかったです。』


 二人に褒められ、照れてしまう。


「ありがとう。さぁ、次に行こう。まだ一体目だ。」


 照れを隠すようにして、次の獲物を探して歩き出す。


「待て、冬樹。まずは血抜きだ。」


 そうだった。なんとも締まらない初討伐だ。



 ---



 その後、5体目までを一人で、10体目までをノーマンさんとの連携を確認しながら倒していった。


 最後は3体同時に戦ったが、ノーマンさんの盾は非常に安定感があり、相手からの攻撃を気にすることなく、こちらから一方的に攻撃することが出来た。


「だいぶ動きもよくなってきたし、一つ一つの動作に戸惑いや迷いがなくなってきたな。」

「そうですね。早さにも慣れましたし、自分が戦闘支援の効果を受けて、どれくらい動けるのかもわかってきました。それに剣も少し上達したような気がします。」

「うむ。剣術本来の動きができて、ちぐはぐさが無くなったな。」


 最初は倒すところにばかり気が向いていたが、3体目くらいから自分の動きや剣の振り方を意識して戦うことが出来るようになった。

 レベルは2上がり3。ステータスも少しずつだが上がっている。


『マスターの姿、一人前の冒険者って感じです。』

「そうだな。では、次の依頼に向かうことにしよう。」


 ノルマの10体を倒したので、次の依頼、コボルト集落殲滅に向かうことにする。


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