10.冒険者ギルド
行きと同様に進んで曲がってを繰り返し、冒険者ギルドへと辿り着く。
さっきはギルドの前に冒険者たちが扉を覆うようにして待ち構えていたため見えなかったが、正面の入り口には石でできた立派な両開きの扉があった。
扉は完全に開けられたまま固く固定されているようで、一日中開けっ放しであることがうかがえる。
夜ともいえる時間となり薄暗くなっているからか中にいる人はそれほど多くはないが、それでも数個ある受付には列ができていた。
一階部分には受付と依頼が貼られた大きな掲示板が左側に、その奥にはドアがあり、『解体及び魔物買取』と書かれている。
右側には『総合買取』と書かれたカウンターがあり、疲れた表情をした若い4人組パーティーが薬草を買い取ってもらっていた。
カウンターの奥には2階へと続く階段が見えるが、上り下りをしている様子はない。
そういえば、いまさら気付いたのだが文字が読めている。日本語ではないのだが、全くもって違和感はない。
これは話す言葉と同様女神によるものなのだろう。
「エレナ君、君たちを待っていたよ。」
「副支部長。待っていただいていたみたいで恐縮です。」
「硬い口調は止めてくれとこの前言ったばかりなのに。それに素っ気ないからマーガレット、って名前で呼んでくれとも。」
受付の辺りから黒髪の女性が駆け寄ってくる。美人なお姉さん、といった感じだ。
それにしても、この世界には美少女、美女しかいないのだろうか。
「まぁ、今日のところは勘弁してあげる。クレイグ様がバーナード様のところに行っちゃったから、代わりに私が話を聞くわ。ところで、そちらの方は?」
「冬樹だ。危ないところを助けてもらったのだが、登録していない遺物を持っていて、遠くからきて冒険者登録もしていないようだから連れてきた。レッドディストラクションの推薦ということにしておいてくれ。」
「あらあら。推薦!そういうことなら・・・」
話を聞いたマーガレットさんは、後ろに控えていた女性に声をかける。
「パメラ、この方の担当をお願いするわ。話は聞いていたでしょ?」
「はい、マーガレットさん。では冬樹さん、こちらへどうぞ。」
どうやらここでいったん別れるようだ。
「冬樹、おそらく私たちの方が時間がかかるだろう。登録が終わったらギルドの中で待っていてくれ。」
「分かった。掲示板でも見ておくことにするよ。」
「寂しがらなくても、ちゃんと戻ってくるから!」
ニヤニヤと笑い、メリッサがからかってくる。
ここで反論すると更にからかわれそうなので、軽く返事だけしてパメラさんの後を追う。
パメラさんは、受付の中に入り、無人となっている窓口の方へと回った。
続いて俺も窓口に向かうと早速手続きが開始される。
「まずは冒険者登録を行いましょう。こちらの用紙に必要事項を記入してください。」
「分かりました。」
話せる、読める、と同様に字を書くこともできるみたいだ。
記入したのは名前や年齢、本拠地。そして規約のようなものが長々と書かれており、それに同意する旨のサインが必要だった。
日本では、諸々の契約の際や規約への同意の際には、内容を読むことなくサインしていた俺だったが、さすがにしっかりと読んだ。
規約には、冒険者のランクは『ランク』、パーティーは『級』で階級分けされる、罪のない人を殺めない、緊急時にはギルドの招集に応じる、他人の権利や所有権を尊重する、などの事項から、依頼の仲介料や買取の手数料まで幅広いことが書かれてあった。
「・・・その、周りからの視線を感じるのですが。」
「レッドディストラクションの推薦、というのは初めてですから、皆、気になっているのでしょう。気にすることはないですよ。・・・よし、どうやら書いていただけたようですね。」
パメラさんが用紙の内容を確認し、登録手続きを続ける。
用紙を機械のようなものに上から入れると、しばらくして下から見慣れたサイズのカードが出てくる。
その間も、隣の受付にいる人や通りがかる人全員から、ちらちらと見られている感覚があったが言われた通り、気にしないことにする。
「登録手続きが完了しました。こちらが冬樹さんのギルドカードです。登録と初回発行にお金はかかりませんが、再発行には銀貨2枚かかりますので、失くさないようにしてください。」
『お金は大陸共通で使われていて、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚、金貨100枚で大金貨1枚ですね。大金貨はめったに見かけないようですが。』
周りに聞こえないよう、相変わらずの小声でアイが教えてくれる。
銀貨2枚は銅貨200枚ということになるが、物価が分からないため、高いのか安いのかもわからない。
日本では298や398など、キリの良い数字から少し減らした価格でモノを売ることが多くあったが、それをこの世界でやると、場合によってはすごい数の硬貨を用意しなければならないのか、なんてことを考える。
受け取ったギルドカードを見てみると、さっき用紙に記入した事項に加え、現在のランクやレベル、所属パーティー名、ステータスが書かれていた。
当然のことながら、レベルは1、所属パーティーの欄は空欄となっていたが、Fランクから始まるはずのランクはEと表示されていた。
「ランクがEとなっているのですが・・・。」
「階級が高いパーティーから推薦されると、討伐依頼の受けることができるEランクからのスタートとなります。もちろんFランクの依頼を受けられない、ということはありませんのでご安心ください。」
なるほど。
規約によると、ランクが上がるごとに受けることのできる依頼が増え、手数料や仲介料のパーセンテージも下がるとのことだったので、ありがたい話だ。
「続いて遺物の所有者登録を行いましょう。こちらの方は記入していただき、提出いただくことで完了するので、すぐに終わります。一応、確認を行いたいのですが現物はお持ちですか?」
パメラさんが、今度は所有者登録の用紙を差し出してくる。
現物・・・。
持ってはいるのだが、ここで愛車を取り出したらギルドが大変なことになってしまうので、今は持っていないことにしよう。
「申し訳ないですが、今は持ってないです。その・・・、大きな乗り物なんです。」
「なるほど。ではレッドディストラクションの推薦ですし、現物の確認はなくてもいいでしょう。それにしても乗り物とは・・・。珍しいですね。」
ここでもエレナ達、レッドディストラクションの名前が発揮される。彼女らへの信頼は厚いのだろう。
登録名のところに「愛車」と書き、種類のところには、装備、ゴーレム、機械などがあり、どれも適さなそうだったので、その他のところに印をつけ、「乗り物」と記入した。
全て書き終わり提出すると、本当にそれだけ、ということで拍子抜けしてしまう。
「続けて、ギルドに登録された方全員にする説明をしていきます。」
パーティーの組み方、依頼の受け方、報告の仕方、ギルドカードの使い方、はじめにするべきこと、などを10分ほどで教えてもらう。
「以上です。何か聞きたいことはありますか?」
「さっき登録した遺物は戦闘にも使えるのですが、自身も鍛えておきたいので、先ほどおっしゃっていた初心者講習会というものを受けたいのですが。」
「了解しました。日程を確認するので、しばらくお待ちください。」
はじめにするべきことの話の中で、冒険者ギルドが定期的に初心者向けの講習会を開いているようなので、参加を申請する。
どうやら、武器の使い方や簡単な解体の仕方を教えてくれ、模擬戦闘まで行うらしい。
自身の戦闘について悩んでいた俺が一番欲していたものだ。
「お待たせいたしました。ちょうど明日の13時からありますね。ご予定はいかがでしょうか?」
「大丈夫です。」
「では、明日ここの奥にある修練所でお待ちしております。」
明日はバーナード様を愛車に乗せるということだったが、午前中といっていたので13時なら大丈夫だろう。
「ご質問がなさそうなら、以上となりますが。」
「今のところ大丈夫そうです。色々とありがとうございました。」
「いえいえ。では冬樹さんの冒険者生活に幸があらんことを!」
パメラさんにお礼を言い、受付を離れる。
特にすることもないため依頼の貼られた掲示板でも見に行くことにしよう。
大きい掲示板ではあるが、貼られている依頼はそこまで多くはない。
大森林関連の依頼が止まっているからだろうか。
詳しく見てみると、薬草の採取、魔物の討伐といった定番のものから、警護や配達といったものまで、依頼内容は多岐に渡っている。
中には、愛車のアイテムボックスとなっている棚の中に放置してあるものを納品することで完了できる依頼もあった。
「いくつか持ってくればよかったな。」
『いまさらですし、結構な量でしたから、持ち運びできませんでしたよ。』
確かにアイの言う通りではあるが、一銭も持っていない俺にとっては、1個でも持ってきていれば、という思いがあった。
「依頼を見ているのか。」
低い声とともに肩を叩かれ、びっくりして振り向くと、レッドディストラクションのメンバーの一人、ノーマンさんが立っていた。
「はい。ノーマンさんの方は終わったんですか?」
「いや。抜け出してきた。」
どうして抜け出してきたのかなど色々な説明が省かれているが、口数が少なくほぼ話をしてこなかったノーマンさんとの会話に、自然とテンションが上がる。
「依頼が少ないのは、大森林のせいもあるが、夜、だからだ。」
「なるほど。朝が一番多くて、そこからは減っていく一方なんですね。」
「そうだ。冬樹、何か聞きたいことはあるか?」
そこからしばらくの間、ノーマンさんに魔物のことや依頼について質問する。
簡単ではあるが的確に答えてくれ、説明も分かりやすい。
本人は呼び捨てで構わないというが、自然とさん付けで呼びたくなってしまうのだ。
「さぁ、時間だ。4人が戻ってきたぞ。」
「こら、ノーマン!あんた途中で抜け出したわね!」
怒ったように言うのはメリッサ。そんなメリッサをアリシアが懸命になだめている。
「待たせてしまってすまないな。用も終わったし、我々がいつも使っている宿へと戻ろう。」
俺たちが向かったのはギルドの隣にある『星空亭』という宿屋だった。
想像していたものより立派で、どうやらランクが高い冒険者が利用している宿のようだった。
「ここは部屋もそれなりに広いし、食事も美味しいんだ。」
「実はお金を持っていなくて・・・。」
恥ずかしくて切り出せずにいたが、ようやくのこと所持金のことを話す。
「そうなのか。心配するな。最初から冬樹に払わせるつもりはない。」
・・・良かった。
こうして俺は初めて愛車以外で一夜を過ごすことになる。
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