第一章アンヴァル編

8.アンヴァル

『マスター、あと10分ほどでアンヴァルに到着します。』


 時刻は16時前。


 俺はレッドディストラクションの5人を愛車であるキャンピングカーに乗せて、リワード王国の大森林を運転しているところだ。

 どうやら予定通りの時間に到着することが出来そうだ。


 もちろん道中、魔物と遭遇することはあったが、いつも通り魔導砲を使って難なく倒すことが出来た。

 魔導砲も珍しくはあるようだが、大都市には防衛機能として設置してあるらしく、他のものほど驚かれはしなかった。


 運転していると、時々メリッサが助手席に座ってきて俺やアイに愛車のことを聞いてきた。

 見た目はアリシアが子供っぽいが、言動はメリッサの方が子供っぽいと感じる。

 好奇心が強いだけとも言えるかもしれないが。


 そんなこともあって、いつもより楽しく運転することができた。


 今は他の5人はリビングで話をしていて、運転席には俺とアイの二人だ。


『マスター、やっぱり車庫の獲得は失敗だったかもしれません。』

「まぁ、もう終わった話だ。あった方が良かったのは間違いないし、現時点で他に使い道が見当たらなかったんだから問題ないよ。」

『ですが・・・』


 アイが言っているのは、さっき獲得した新たなスキルのことだ。

 車を見て想像していた以上に驚いていたレッドディストラクションの姿を見て、アイと話をして、愛車を空間にしまうことができるという『車庫』というスキルを手に入れたのだが。


 俺の今のステータスを見てほしい。


【名前】大内冬樹

おおうちふゆき

【種族】人

【レベル】1

【体力】54/54

【魔力】1/1

【攻撃力】8

【防御力】12

【器用さ】20

【知力】(魔法の適正)1

【素早さ】10

【スキル】

(New)車庫(キャンピングカーを別空間にしまうことができる。好きなタイミングで出し入れができ、魔力の消費は必要ない。)

【残りスキルポイント】0


 レベルが上がっていないので残っていたスキルポイントは5。

 そう。残るポイントの全てを利用して獲得したスキルなのだ。


 話を聞くところによると、愛車とは違って人間である俺は、ポイントを使うだけではなく、練習や鍛錬、実戦などでスキルを獲得することが可能らしい。

 そもそも、ポイントというのは女神様によるものであり、通常は自然とスキルを身に付けていくものなのです、というのはアイによる話だ。


『もし街の中でマスターに何かあったらと思うと・・・。』

「車庫にしまってもアイとは会話できるんだろ?」

『そうですけど・・・。』

「そんなに心配しなくても大丈夫さ。エレナ達が居るからこそのことだし、もし何かあったらたとえ街中でもその場で愛車を出して逃げるさ。」


 会話が平行線になりそうだったので会話を切り上げようかなと考えていると、ちょうどパーティーリーダーであるエレナが運転席に近づいてきて話しかけてくる。


「見覚えのある道だ。もうすぐアンヴァルに着くのだな。」

「あぁ、あと数分で。」


 俺からすると、同じような木々に囲まれているだけで全く見分けが付かないのだが、どこかに特徴があるのだろう。


「ところで、この乗り物のまま街に入るのか?街の住民や衛兵は何も知らないから相当混乱すると思うぞ。」

「いや、これは仕舞って徒歩で向かいたい。」

「仕舞えるのか。それは便利だな。他のメンバーにも準備するように伝えるよ。」


 エレナが再びリビングへと戻っていく。

 アイは、エレナが愛車の存在を気にかけたことで、渋々だが先ほどの話を続けることは止めたらしい。



 不自然な沈黙が続いていると、5キロ先までを細かく映しているマップに、大森林の終わりが見えてきた。


「いよいよ森を抜けるのか。」

『森を抜けたら3キロほどでアンヴァルです。一気に見通しが良くなるため、森を抜ける直前で車を仕舞い、徒歩に切り替えましょう。』


 気持ちを切り替えたのか、街が楽しみなのか、アイの声が先程とはうって変わって弾んでいる。

 そういう俺も不安はあるが、初めての異世界の街ということで楽しみが占める部分の方が大きい。



 しばらく車を進めると目視でも森の終わりが見えてきたため、車を止め、リビングに居るエレナ達のもとへと向かう。


「もう少しで森を出るところまで着いた。エレナから聞いたとは思うが、街の混乱を避けるためにも、ここからは徒歩で向かいたい。」

「冬樹!あとちょっとだけ乗ってることは出来ないかなぁ。乗り物とは思えない乗り心地、貴族の家のような過ごしやすさ、温水が出てくるシャワーと呼ばれるもの。すっかり虜になっちゃた。」


 メリッサが駄々をこねるようにして言う。

 細部までこだわった俺の愛車を褒めてもらえて正直悪い気はしない。


「メリッサ。我々にはやるべきことがあるんだ。文句を言ってないで降りるぞ。」

「まぁまぁエレナ。今回ばかりはメリッサの言うことに賛同したくなる。私でも素直に素晴らしい、と感じるからな。」

「クリスまでそんなことを・・・。」


 エレナが呆れるようにして言う。

 その間、アリシアはあわあわとし、ノーマンは相も変わらず無口のまま微笑んでいるだけだった。


「急いでいるようだし、今はエレナの言う通りにしよう。もしそんなに気に入ってくれたなら、今度また乗りに来てくれればいいさ。」


「アイちゃん、私また来ても良いかな?」

『メリッサさんなら大歓迎ですよ!』


 ちょこちょことリビングの方に行っていたアイは、すっかりメリッサと仲良くなったようだ。



 駄々をこねたメリッサだったが、彼女も含めて全員が降りる準備を完璧に整えていた。

 5人を先に降ろすと少し待ってもらうよう伝え、俺も事前に準備していたものを棚から取り出す。


 持っていくものは、気持ち程度の護身用ナイフと水、非常食、懐中電灯、ハンカチを小さなリュックサックに詰めたものだ。

 随分と少ないとも思うが、こんなものだろう。


「じゃあ俺も行こう。」

『マスター、いったんお別れですね。』


 アイに別れを告げ車を降りると、急に寂しさが押し寄せてきた。

 この数日間はずっとアイと2人で心細い中過ごしてきたのだ。


 後ろでは5人が立ったまま俺が来るのを待っている。


 あ、あれ?スキルの発動方法が分からないぞ?

 今までの愛車のスキルであれば、画面に表示されたりアイが発動してくれたりしていたので、実質自分だけで発動させるのは初めてだ。


 口で唱えるのは恥ずかしい気がするので、心の中で唱えることで発動してくれることを願う。


(スキル:車庫を発動!)


 心の中でそう唱えると、愛車が光に包まれ小さくなっていく。

 おぉ、無事発動してくれてよかった・・・。


 光が収まると、愛車があった場所にはスマホのようなものが落ちていた。

 操作してみると、これもナビと同じようにマップ等の機能が使えるようだった。


『ただいまです、マスター!』

「うおっ!」


 しばらく色々操作していると、画面にいきなりアイが現れる。


「いきなり現れるなって言ったじゃないか!」

『ごめんなさい、嬉しくて!しかし、こんな感じになるとは、便利ですね。』


 アイと会話ができることは知っていたが、実際に話して安心することができた。

 しかし、こんなにすぐにまた会えるとは。


「じゃあアンヴァルへと向かおう。」


 俺の驚く声も5人には聞かれていたわけで、俺は恥ずかしさを隠すようにして歩き出したのだった。



 ---



 1時間ほど歩いて、アンヴァルの立派な門の前まで来た。

 街を取り囲むようにして立派な防壁があり、その上には数門の魔導砲が設置されている。


 門の前には数人の完全武装した衛兵が立っている。


 大森林を封鎖していることもあってか、門を通ろうとしているのは俺たちだけだ。


「アンヴァルではまずどうするんだ?」

「依頼主である領主のところへと報告に行ってから、冒険者ギルドに行って依頼の達成を報告する。是非冬樹にもついてきてもらいたいのだが。」

「俺も?」

「そうだ。助けてもらったことを言いたいし、あの乗り物について話せばどうにかしてくれることだろう。貴族っぽくない方だから、何も心配はいらない。」


『メリッサさんに聞いたのですが、古代遺跡など自分で手に入れたものについては、獲得したものに所有権があり、ギルドで所有者登録をすることができるみたいですよ。貴族には対面もあるでしょうし、奪おうとする、なんてこともないでしょう。』


 胸ポケットにしまってるスマホから、他の5人に聞こえないようにアイが小声で補足する。

 アイもこう言っていることだし大丈夫だろう。


 ・・・ということは、車庫のスキルの意味が薄れたか?

 いや、どの道、街に車のまま入ることなど出来ないはずだし、所有権があるだけで奪われない保証はないのかな。


「そういうことなら同行させてもらうことにしよう。」

「それは良かった。」


 俺の緊張している表情を気に留めることもなく、エレナ達は慣れたような足取りで門へと進む。

 いや、実際に慣れているのだろう。


「エレナさん、お帰りなさい。大森林の様子はどうでしたか?」

「いや、もう散々だったよ。あとでバーナード様からも知らされると思うが。」


 衛兵からも敬語を使われているところを見ると、街で一番の冒険者パーティーというのは事実で、尊敬されているのだということが分かる。


「この方はどなたです?」


 エレナと話していた衛兵が俺の方を向いて言う。


「冬樹、だ。危ないところを助けてもらった。東の方から来たみたいなんだが、入れてもらうことは出来るよな?」

「もちろんです。」


 矛先がこっちに向いたことで一瞬ドキッとしたが大丈夫そうだ。

 やはりレッドディストラクションは相当信用されているようだな。


 いくつか言葉を交わし、開けられた門を通ってアンヴァルへと入る。


 まず見えたのは長く続く広い大通りと道の両側に立ち並ぶ店、ひしめき合う人。

 どの店にも多く客が居て、夕方だからなのか飲食店のような店には行列ができているところもあった。


 大通りの奥にはひと際大きな建物がある。

 剣と杖が交差する大きなマークが書かれているのが見えるので、恐らく冒険者ギルドだろう。


 その奥にはさらに大きな建物、城のような大きな館。領主の館だろうか。


 地球ではもっと人口の多い都市もあるが、何か違うのだ。すごい・・・。


 アイもどうやってかこの光景を見ているようで、『おぉ~』と感嘆する声が聞こえてくる。


 俺がボーっと見つめているとメリッサが声をかけてくる。


「すごいだろ!アンヴァルには10万人を超える人が住んでいるんだ。」


 これが異世界アースランドの街だ。



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