6.アースランド人との接触

 魔導砲を手に入れてから5日が経った。


 道中の魔物を倒していったお陰で、愛車であるキャンピングカーのレベルは4上がり7となった。

 最初に比べると次第にレベルも上がりにくくなっている。


 ちなみにステータスはこうだ。


【アイテム名】愛車(キャンピングカー)

【レアリティ】unknown

【レベル】7

【体力】1300000/1300000

【魔力】1300/1300

【攻撃力】1300

【防御力】1300000

【器用さ】-

【知力】1300

【素早さ】-

【スキル】

戦闘支援LV.1、範囲回復LV.1、範囲索敵LV.1

(New)魔導砲LV.1(車前方の砲台から魔力の塊が放たれる。ハンドルに付いているボタンを押すことで発射。なお、車が動いていると命中率が下がる。(一発当たりのダメージ40/消費魔力10))

(New)食料定期便LV.1(週に一度指定された3項目の食料が一定量アイテムボックス内に届けられる。なお指定する食料は一週間ごとに変更可能。)[指定中:米、野菜、魚]

【機能】

AI、マップ、アイテムボックス、保存

(New)後方カメラ(車の後方に取り付けられたカメラの映像を車内モニターで確認することができる。)

【残りスキルポイント】5


 見てもらったら分かる通り、新たにスキルと機能を一つずつ獲得した。

 どちらもスキルポイント3を消費し、残りのスキルポイントは5である。


 食料定期便は、異世界でキャンピングカー生活をしていると、食事が一日の中の大事なイベントであることに気付き、獲得を決めたスキルだ。

 一昨日獲得したのだが、すぐにアイテムボックスとなっている棚を確認すると、玉ねぎやレタス、じゃがいもといった野菜、生魚少々と干物、そして米が並べられていた。


 キャンプの肉もまだ少し冷蔵庫の中に残っている。腐ってしまうことを心配していたが、アイによると冷蔵庫やアイテムボックスの中は時間経過が遅く、通常より長持ちするみたいだ。


 半ば勢いで決めたスキルではあったが、食事がより楽しみになったので結果オーライであると考えることにしている。


 後方カメラは、アイのアドバイスを受けて獲得した機能だ。

 マップではどの辺りに魔物が居るかが分かるのだが、ゴブリンの群れと戦った際に、前からも後ろからも攻められ戸惑ってしまったため、後ろにカメラがあって実際に目で確認することができた方が良いのではないか、ということだった。

 戦闘で使ってみると、かなり便利でより落ち着いて戦闘に臨めるようになった。


 残りのポイントは何かあった時のために、取っておくことにした。

 この間に気付いたことだが、戦闘支援と範囲回復、範囲索敵はポイントによるレベルアップができず、アイに聞いたところ何か条件があるのではないか、ということだった。



 一方、俺のレベルはというと相も変わらず1のままだ。

 一度包丁で1体で居たはぐれゴブリンを倒そうとしてみたが、あまりにもリーチが短くて攻撃を食らう一方だったので、相手の体力を少しずつ削ることは出来ていたのだが諦めてしまった、ということがあった。

 こちらの方は焦らず行きたいと思っている。


 食料定期便のおかげで生活に関しては何も心配することがなくなったのだが、焦らず行きたいとはいったものの、何かきっかけがないと変わらないような気がしていて、そろそろ街に行ってみようかと思っている。


 今は朝の10時。

 最近はここ大森林の道路を街に近づき過ぎないように行き来し、マップで魔物を見つけたら魔導砲で狩る、というスタイルだ。


 今日もいつも通りに車をゆっくり走らせていると、アイが慌てて声を発した。


『マスター、ちょうど5キロ先の道に5人の人間の反応があります!』


 思わず車を止める。


「人間!?」

『そうです。人間、ヒトです!』


 この数日間、大森林の中を広範囲で移動したが、冒険者はおろか、商人などの馬車をも見かけなかった。

 そのため、昨日の夜には、この道を使っている人はいないのではないかと、アイとも話したばっかりだ。


「こっちに向かってきているのか?」

『いいえ、どうやらあちらも止まっているようです。休憩中なのでしょうか、動く様子はありません。』

「マップを確認しても馬車も馬も見当たらないし、冒険者か、盗賊や山賊の可能性も考えられるな。」

『どちらにしても目視しないことには分かりませんね。行ってみますか?』

「いや、とりあえずは待ってみよう。」


 マップでは人となりが全く分からないため、5人が善人か悪人かも分からない。

 まずはここから動かず、状況を見守るという選択肢を取ることにした。


 目視できる距離に移動するということは、相手からも愛車が目視できるということだ。

 もし悪人でも逃げられるだろうが、魔法があるこの世界だから何があるか分からない。



 それからというもの、一時間ほど見守っているが、相変わらず動きがない。


『5人のうち2人はちょこちょこ動いているのが確認できますが、残りの3人は全く動きませんね。』

「3人が寝ていて、2人が周りを警戒しているという感じかな?」


『お、魔物が3体、森の中から近づいて行っているようです。交戦するかもしれませんよ。』

「確かにそのようだな。魔物は・・・ウルフか。」

『ウルフ3体なら遅れを取ることもないでしょう。』


 ウルフ。大き目の狼だ。2度ほど戦ったが、かなりすばしっこく厄介な魔物だった。

 皮が防寒具として人気で、肉もビッグボアほどではないが食べられているらしい。

 見た目がとても美しくてかっこよく、最初見たときには見とれてしまい魔導砲の発射が遅れてしまったのも、良い思い出だ。


 今は一番近くの街アンヴァルまで120キロほどの地点。

 道で人は見かけなかったので5人は森の中を進んできたことになる。5人が冒険者で、もしアンヴァルから出発していたとしても、1日じゃ済まないだろう。

 見通しが悪く魔物の多い森の中を進んできたのだ、きっとあっという間に倒してしまう、そう思っていた。


「なかなか魔物の反応が消えないな。それに3人は相変わらず動かないままだ。止まったまま魔法でも使っているのか?」

『どうでしょう。あくまで推測ですが、動いている2人は、動いていない3人を守るようにして動いているように見えますし、ウルフが息を整えるためか少し離れても攻撃を仕掛けようとしていません。もしかすると3人には動けない理由があるのかもしれません。』


 うん。それは納得できる話だ。このような時のアイの推測はいつも助かっている。


「ということは、好ましい状況ではないということだな。」

『そうなりますね。1人が怪我でもしてしまったら大崩れしてしまいそうです。相手がウルフというのも、運が悪かったですね。』

「とりあえず、近付いて確認しよう。相手側に余裕がない今なら、気付かれずに近付けるだろう。」

『了解です、マスター。』


 いつもなら魔物と戦うときは少し興奮する様子を見せるアイも、今回ばかりは声からも緊張が感じられる。


 言葉を交わすことなく、止めていたエンジンを動かし、戦いの現場へと向かう。


「見えた。」


 5分ほど運転していると、遠目から5人とウルフ3体の姿が見えてきた。


 5人は格好からして冒険者のようだ。女性3人、男性2人のパーティー。

 アイの推測通り女性1人と男性2人の3人は怪我をしているのか木にもたれかかったまま動いておらず、残りの2人がカバーし合うようにし、剣を振ってウルフの攻撃から守っている。

 ウルフもそのことが分かっているようで、動かない3人の方を狙っていた。


「まずい状況のようだ。2人とも軽いが傷を負っている。助太刀をしたいが問題なさそうか?」

『はい、マスター。依頼の横取りは厳禁とされていますが、この状況であれば感謝されることはあれど、恨まれるようなことはないでしょう。』

「ちょうどウルフが離れて休んでる、行くぞ!」


 冒険者の方に当ててしまうことが怖いので魔導砲は使わず、ウルフに向かって一直線に車を進める。

 アクセル全開だ。


 ドゴォォォォン


 スピードを出したままぶつかったため強い衝撃が体を襲う。

 ウルフも途中で向かってくる愛車に気付いたようだが、予想もしていなかった方向からの攻撃に一歩も動くことができていないかった。


『2体は倒すことができました!もう1体は逃げていきます。追いますか?』

「いや、もう戻ってこないだろう。今は怪我をしている3人の方が気になる。」


 アイの言葉で衝撃で一瞬どこかに行きかけていた意識を戻すと、前方に2体の死体が転がり、もう1体が全速力で逃げていく姿が見えた。


 今度は冒険者の方に目を向ける。

 木にもたれかかっていた3人は酷い怪我をしているのが分かる。


 俺は運転席から離れドアへと向かい外に出た。


「ッ、助太刀感謝します。」


 赤い鎧を全身にまとったスタイルの良い赤髪の美少女が大剣を抱えたまま、話しかけてくる。眼の色も赤色で燃え上がるようだ。

 もう一人の軽装で短剣を持った金髪の美少女も剣を仕舞わず抜いたままだ。こちらは高身長でスレンダー体型だ。


『マスター、車にすぐに戻れる位置に居てください!』

「分かった。」


 言葉が通じそうで良かったが、こちらをかなり警戒しているようだ。


 見たこともない物体が速いスピードで魔物にぶつかっていき無傷で魔物を倒した。

 なおかつ怪我人を抱え、自身も満身創痍とあれば警戒されるのも仕方がないことだ。


「安心してください。危害を加える気はありません。怪我人がいて、苦戦しているようだったから助太刀しただけですので。」

「・・・ありがとう。見ての通りギリギリの戦いだったので助かりました。」



 いくつか言葉を交わすと、俺が害意を持ったものではないと思ってくれたようだ。

 赤髪の美少女の名前はエレナというらしい。敬語もいらないと言われたので、とることにする。

 対応をエレナに任せて、もう一人の方は怪我をしている仲間の方へと向かった。


 待ちきれないといった感じでエレナが話を切り出す。


「助けてもらった上で厚かましいお願いだというのは分かっているのだが、回復薬が切れてしまっている。もし回復薬があるのなら金には色を付けるから分けてほしいのだ。」


『マスター、この車のスキル、範囲回復なら助けることができると思われます。』



 その瞬間、例の中性的な声が、愛車から聞こえてきた。


 [冒険者パーティー【レッドデストラクション】を味方と認識しますか?]


 なるほど。こういう感じなのか。

 もし味方と認識したら、愛車に立ち入ることができるようになる。

 初めてのことだから、何ができて何ができないのかも分からない状態だ。


 果たしてこのパーティーは信頼できるのか。


 ・・・今後を占う、非常に難しい選択だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る