一緒に

「ん…ああ、寝ちゃってしまったか。」


どうやら雫さんが起きたようですね。


「うわー。いつの間にこんなに準備したのよ。」


テントの設営や焚き木の準備は終わりましたが、食事の準備にはまだ手をつけておりません。


もう少しお休みされてても良かったのですが…


「おはようございます。いえ、こんにちはですね。」


「んー…おはよ…あ、テントできてるー!」


昴くんも目を覚ましたようです。


設営したテントの中ではしゃいでいるようですね。


「起こしてくれれば良かったのに。んじゃ私達も今から手伝いますか。」


「作業はイリスが行いますから大丈夫ですよ。」


「ダメダメ!こういうのはさ、一緒にやるから楽しいんだよ。」


「一緒に…ですか。」


「そうそう。一緒に、だよ。ほら、昴も遊んでないで手伝いな!」


「はーい!」


「で、イリス。私達は何から手伝えばいい?」


「そうですね…あそこにお水のタンクを置いてますから、それを使ってお米を研いで頂けますか?」


「よっしゃ、任されました!ボウルはこれと…研いだらこの飯盒に入れればいいんだよね?」


「ええ。お願いします。」


二人が慣れない手付きでお米を研いでいます。


〈警告〉人体に有害な物質が混入される恐れがあります。

速やかに当該行動を静止させ適切な処置を施してください。


洗剤を押し出そうとした雫さんの手をすかさず掴み静止させました。


「なっ何?イリス?」


「お米は水だけで研ぐものです。洗剤は必要ありません。」


「え?…はっはっはっ、わかってる、わかっているともさ!洗剤は必要無いよねー…」


「お二人は休んでいても良いのですよ?」


「さっきも言ったでしょ。一緒にやろうって。」


雫さんが溜息を吐きながら此方を見ています。イリスは何かミスをしてしまったのでしょうかっ!?


「いい?私が出来ない事をやってもらえるのは助かるけどさ、私に出来る事なら任せてくれたり、教えあったり、一緒にやったりした方がお互いの信頼が強くなるの。何でも一人でやっちゃダメだよ。」


「一緒にやると信頼が強くなる。ですか…べっ勉強になりますっ!」


「一緒が一番なんだよー!」


「という事でイリス、私達は家事全般がレベル1だから手取り足取り教えてね。」


「が、頑張りますっ!」


其れからは野菜の皮剥きや切り方を教えながら作業を進めました。


包丁を扱う際に何度も警告が出たので驚きましたが、手を切る事なく野菜を切り分けられました。一安心です。


キャンプの定番といえばバーベキューと検索結果に引っかかったので備をしていたのですが、二人の提案で急遽カレーを作る事になりました。


ルーはお二人が持ってきていましたし、大釜も持ってきていたので問題なく作成可能でしょう。


やはり事前準備は大切ですね。


「後は中火で暫く待つだけです。」


「フッフッフ…イリスちゃん、甘い、甘いよ…」


「そうだね…イリス、アンタは大事なものを忘れている。」


「わ、忘れている!?一体何を…」


「フッフッフ…イリスの忘れ物、それは此れだーっ!!」


二人は銀紙に包まれた幾つもの板チョコレートをこれでもかと言わんばかりに両手で抱えていました。


「私達も馬鹿じゃ無いんだよ!山で遭難に遭った時の為にチョコとマヨネーズはしこたま持ってきたのさ!」


「確かに遭難時にはカロリーの高いチョコレートやマヨネーズで命を繋いだという話は有名ですね。ですが忘れ物とは?」


「ワタシもネット知識なんだけど隠し味になるんだって。ばぁちゃんのカレーにも入ってるって聞いたよ。」


「検索結果出ました。チョコレートを入れる場合はルーを混入する際に一緒に入れると良いそうですよ。」


「そんなかったいこと言わないの!混ぜちゃえばみんな同じだよ。チョコっとちょこちょこチョコを入れれちゃえっ!」


二人が板チョコレートを頬張りながらカケラを鍋の中に放り込んでいます。此れは…果たして良いのでしょうか?不安です。


「んー…こんなもんなんじゃない?ばぁちゃんや母さんには負けるかもだけど、此れはこれで美味しい。」


「できたできたー!!」


「では、早速お皿に盛りますね。」


簡易テーブルに並べられた料理はカツカレーにサラダ、フルーツの盛り合わせです。


かなりカロリー高めのお食事ですが患者さんではなく育ち盛りの少年少女なので問題は無いでしょう。


こういった料理を作るのは中々ありませんから良い情報を得る事が出来ました。


「殆どイリスが作ったけど、ウチらも中々頑張ったよね。」


「ほら!この人参!僕が星に切ったやつ!」


此れは昴くんが一生懸命形を整えていたものですね。とても可愛らしいです。


「あれ?カレーがふたつしかないよ?」


「イリスはロボットだよ?流石に一緒には食べられないよ。」


「えーっ!!一緒に食べたいーっ!!」


「食べられない事はありませんが…」


「え?食べれるの?ロボットなのに?」


「食べるというと語弊がありますね。イリスの機能には咀嚼したものを保存食として一時保存する事が可能です。」


「保存しちゃうんだ…でも凄いね。そんな機能までついてるなんて。」


「一度も使用した事はありませんので何故この様な機能があるか理由は分かりませんが…」


「イリスってさ、より人の心を理解する為に作られたロボットなんでしょ?ワタシがAI を開発するなら色んな機能を付けてより多くの事が学べるようにしたいもん。要はそういう事なんじゃないかな。」


「そういう事とは?」


「だから、イリスにはまだイリス自身も知らない出来る事が沢山あるから、もっと色んな人に関わって欲しい!ってイリスを作った人達は思ってるんじゃないかな?」


「成る程。」


「違う理由かもしれないけどさ、そう考えてたほうがヤル気出てくるでしょ。」


「そうですね。皆さんの期待に応えたい。そう思います。」


「それじゃあ早速イリスの分も準備しようか!ワタシがよそいであげるよ。」


この日、イリスは初めて皆さんと一緒に「食事」を行いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る