第50話 お前達、嘆いていたのかい?

“それで、嘘だと分かってしまうだろうが。”オズワルドは、心の中で哀れに思った。母、貴妃には、ことの仔細は連絡している。間違っても、嘆くはずはない。もし疑うなら、自ら成敗しに来る、そういう人だ、と思っていた。“王妃への対抗心、野心、プライド、保身、子供達への愛情等色々あっても、国のことを最優先する人だ。でも…。”その彼女が、ゲームの、オズワルドの破滅パターンでは、悪女、いや大悪党そのものだった。この差は何だろうか?ゲームでは出てこない、解説書の類いでも出てこないが、あれだけの悪党ぶりが可能になるためには、それを可能にするいっぱいの何かがないとダメなのだ。その才というか能力が正負の関係になっているのは、やはりオズワルドがダメ男か否かがキーワードなのかと、あらためて思った。最低のダメ男のオズワルドにも、言い分があるようにも思えてくるが。“あいつらも、俺のせい、犠牲者だったのかな?”

 オズワルドは、少し顔を後ろに向け、

「お前達、そんなに私のことを嘆いていたのかい?」

 彼の後ろの隠し扉が開き、美少女を卒業したばかりの2人が出てきた。オズワルドの双子の妹達だった。しばし状況が分からない両妃一行は、声も出なかった。

「嘆いていましたわよ。即、処刑しない愚兄様に。」

「甘過ぎですわ。」

 真っ青になり、震える両妃は声を出せる状態ではなかったが、ようやく1人が、呻くように声を出した。

「如何して?」

 2人は、不敵な笑顔を見せて、

「あら、あれはあなた方の刺客でしたの?」

「皆殺し。…ではなく、1人捕虜にした。」

「武門の、我が家の一族、家臣達を侮り過ぎたのではないか?」

 オズワルドが静かに言うと、メリーウェザーが、高笑いをあげて、

「それにエバンズ家の力を、侮り過ぎましてよ。それに、アート家も。ここまでの手配も、万全ですわよ。お付き合いは広いのですわよ。貧乏貴族出身の妃様方には到底お分かりにならないのですわよね。」

 いつの間にか、オズワルドの妹達の後ろに、プラトンが立っていた。

 怯えて震えながらも、両妃は怒りに顔が真っ赤になっていた。

「く、…。謀反人を殺せ!」

 両妃は、怯えた表情だったが、しっかり幼い我が子を抱きしめ、きっとした視線をオズワルド達に向けた。

“そんなに、子供が、可愛かったら…、誰も惨いことなどしなかったのに。”メリーウェザーは、2人の魔道士の光の回転刃を無効化しながら思った。オズワルドは、剣を抜き、火球を連発しながら、彼らを迎え撃っていた。メリーウェザーも加わる。彼らの手兵も乱入してきた。プラトンは、オズワルドの双子の妹達を守った。2人とも、鎖帷子を服の下に着込んでいるし、剣を抜いていた。それなりに広い部屋だが、かなりの人数の乱戦となっているので、自分と、せいぜいオズワルドにしか、無効化で守れなかった。自分達のことは自分達でやってもらうしかなかった。侍女達のことも気になった。

 別室に待たされていた両妃一行の残りの者達は、広間での戦いが始まる前に部屋から飛び出していた。館内を占拠するためである。待機していた警備兵とすぐに衝突した。その戦闘をかいくぐるように、侍女や他の使用人達にも襲いかかった。ただ、その大半が女や少年少女であり、その上、戦闘経験が殆どない者達であった。侍女達の半ば、エバンズ家から来ている侍女達、オズワルドが幼い頃からの侍女達の大半は、いざというときには戦える者達だった。新しい侍女や使用人の中にも、魔族の元兵や元騎士がいた。大半の者達は、たちまちオズワルド夫妻側の侍女達に制圧されたが、数人の男女が兵士で、さらにその中に、魔族も含まれていたため、彼らにだけは手を焼いた。すぐに、魔族の女騎士などが加勢に入ったので、広間での戦闘が終わる頃には、こちらも終わった。侍女達の数人が重傷を受けた。

「もう、めったやたらに火球を連発するから。」

 広間では戦闘が終わると、まずは慌てて、火消しに半ばが動いていた。

「仕方がないないじゃないか。まず、相手を倒さないといけなかったんだから。」

 オズワルドが弁解した。両妃は、赤ん坊を抱いて震えながら立っていた。死体を並べる、生きている者は、牢に入れて、必要な治療をしろ、味方の負傷はすぐに手当てを、死者は丁重に安置しろ等々とオズワルドが指示を出している中で、不安そうにオズワルドを見た。“如何したらよろしいでしょうか?”と視線を向ける部下達に、

「丁重に、保護するように。」

と連れて行く部屋も指示した。

「子供だけは助けて!」

「私は、どうなってもいいのよ!」

「慈悲というものがないの?」

「幼い弟を、殺す気でしょう!」

 引き摺られるようにして連れて行かれながら、叫んだ、オズワルド達に向かって。

「何が弟よ。くそ女とその汚れた子供よ。」

「いらない。」

 妹達が罵るように呟いたのを見て溜息をつきながらも、

「お前達、怪我はないか?」

 返り血は浴びていたが、大丈夫のようだった。

「侍女達にも死者が出たようよ。」

 様子を見に行かせたプラトンが帰って報告した内容を、メリーウェザーはオズワルドに伝えた。

「そちらの方にも、すぐに見舞いに行かないとな。外はどうだ?」

 市街地での破壊活動の方は、数は多くなかったが、はるかに精鋭といえる連中からなっていた。両妃達の方が囮ではないかと思われるほどだった。しかし、事前に配置してあった将兵に、急ぎもどってきたグリコ、グロリアに加えて、ナターシャとソフィアとともに来た精鋭達が加勢したため、こちらもさほど時間をかけずに制圧が出来た。領民たちも、戦時下の態勢であったため、混乱は殆どなかった。

 後始末と留守の体制を整えた後、オズワルドとメリーウェザーは両妃を連れて、久しぶりの母国の王都に向けて出発した。

 彼の双子の妹達は、嫌嫌ながら、報告のため一足先に出発していた。

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