第49話 あら、反乱者呼ばわりされましたわ
魔界方面の情勢は急展開だった。各公国の話し合いが合意に達して、準備が本格的に始まった時には、魔界では反乱軍が、彼らは解放軍は称した、彼らの立場からはその通りだったが、進軍を始めたとの報がヨシツネから発せられた。兵を集め終わるまで待っているわけにはいかなかった。オズワルドは、出撃できる兵力を引き連れて出撃した。メリーウェザーも、当然な顔でついてきた。ヒカルも当然出撃していたし、中には身のまわりの護衛隊だけを連れただけの公国の主もいた。ヒカルの愛人達も自分が集められる、兵となり得る者を引き連れてきたのであるから、とにかく集められるだけ、急いで駆けつけたというのが一目瞭然であった。
各魔公国も動揺が大きく、兵力が集まらない、反乱軍側に兵力の半ばが脱走して加わってしまったというところまであった。ただ、ヨシツネの周辺だけは落ち着いていた。彼が滞在している魔公国は領内は落ち着き、軍は整然としていた。
すぐに行われた作戦会議でのヨシツネの情勢報告は、誰もが予想していた以上に進んでいた。ざわめく面々を落ち着いた態度で、会議を進めるヒカルの下で速やかに出撃が決まった。先頭をヨヒツネの軍が、というより先頭にヨシツネがいて、その後ろに女魔大公の軍、ヨヒツネ直属の兵、ついでに彼の周りに集まっている女達の手兵が続いた。攻防ともに彼は先頭になって、敵を破り続けた。そして、ヒカルの指揮が勝利を万全にした。一連のこと全ての黒幕がいたとしたら、その誤算はヨシツネだったし、ヒカルであったろう。2人がいなければ、魔族の反乱軍が敗れ、総崩れになるはずはなかったろうと思われた。それでも、戦いである。
“何で、私、1人になっているのよ~!”
“そう言えば”、悪女メリーウェザーは反乱を起こした挙げ句、最後は1人になり、惨めに兵士達に凌辱されて殺されるのである。もちろん、当初は高慢なことを言ったものの、最後は哀れな、情けない命乞いをして、冷たくはねつけられる、口汚く罵られて。“イヤー!”その記憶と映像が目に浮かんだ。“その前に”すがりついた愛人から、“侍女だったかしら?”も振り払われていた。愛人は、オズワルドではなかった。“オズワルドは?”さらにその前に、見切りをつけて置き去りにした?見切りをつけれて置き去りにされたかな?“そんな二パターンもあったかしら。”必死で無効化魔法を発動し、聖剣で反撃しながら、
「お兄ちゃん!」
と叫びかけた時、前に立って、相手の攻撃を受け止めてくれた者が現れた。素早く、無効化魔法を発動して援護する。
「お兄ちゃん!遅すぎるわよ!」
「気がついたら、俺も1人になっていたんだ。でも、見つけられて良かった。」
「見捨てられて、惨めに死んでいくパターンになったかと思ったわよ!」
涙目で文句を言った。彼の背中に身を寄せたが、すぐにそれどころではないと思い出し、彼と並んで戦い始めた。
“少なくとも、もう1人ではないわ。”と思った時、2人の護衛隊が駆けつけて来た。彼らのため、一気に無効化魔法を広げ、オズワルドはここぞとばかり火球を連射して、相手の動揺を図った。この援護で魔族兵を押し返した。何とか人心地ついて、しゃがみ込みたいところだったが、何とかしのいだ。
「王子様。奥方様。申し訳ないありません。」
護衛隊長が跪いて詫びた。
「いや、助かった。よくやってくれた。」
「そうです。感謝しておりますよ。しかし、今は、こうしている時ではありませんよ。」
何とか威厳を保って立つのがやっとだった。戦いは、この時点から、はっきりと自分達が優勢だと感じられるものになっていた。ヨシツネの部隊が相手の本隊を撃破したので、相手側は総崩れとなったのである。もう追撃戦である。その追撃戦の中、反撃しようと横合いに現れた一隊は事前に予想していたヨシツネが、自ら手兵を引き連れ急襲、撃破した。結果としては完勝。この後しばらくして、解放軍こと反乱軍は壊滅、完全に鎮圧、平定、その後安定のための施策も終わり、各軍は引き上げることとなった。何時しか、魔界にも春が訪れた直後だった。ヨシツネは、他の魔公国の王女に恋をされ、帰順した反乱軍幹部の魔王族の血筋に連なる女魔騎士に好意をもたれ、
「奴隷でも、お側に仕えさせて下さい。」
という熱烈な願いに負けて、側近の戦士としたりと、ますます魔界から離れられなくなっていた。前から彼の周囲にいた女性達も合わせて益々彼の周囲はかしましく、熱くなっていた。ところで、その魔騎士は自分が恋していることが理解できず、戸惑うように、もじもじするような態度で、彼との関係は遅々として進められないので、他の女性達は嘲笑しつつも、可愛らしさを感じて、からかいつつも、応援さえしていた。それを知ってか知らずか、彼は日々飄々と、色々な意味でも勤めを果たしていた。ヒカルは、彼を心配していたが、いつの間にか、周囲にいる女性が1人増えていた。ヨシツネのことを心配するどころではないのだが。
簡単な戦勝会の後、帰還したオズワルドとメリーウェザーを待っていたのは、招かざる客達であった。
何と、ブレダ妃とマララ妃が数百数十名の貴族とその家臣、兵とともにやって来ていたのである。彼女らが来着したのは、2人が帰還する2日前だった。何とか、2人の館以外の場所に宿泊させていたが、
「お義母様方。遠路、このような時期にわざわざ、このような辺境に足を運ばれて、どのようなご用件でしょうか?」
オズワルドとメリーウェザーは、2妃と同行者の幹部数人を上座に座らせて、目的を尋ねた。すると、予想外だったが、二妃自らが立ち上がって、
「オズワルド。あなたは、私達と弟に当たる私達の幼い子供達を亡き者にしようとしただけでなく、父に当たる国王様まで亡き者にし、この地を乗っ取ろうとした。この反乱行為は明らか。大人しく自害するか、捕縛されなさい。妻のメリーウェザーは、エバンズ公爵家を乗っ取ろうとしました。その罪により捕縛いたします。もはや、この館は我々が占拠しています。抵抗しようとしても無駄です。貴妃も、妹君もあなたのような子を、兄を持ったことを嘆いている。」
と声を合わせて、一気にまくしたてた。しばし沈黙が流れたあと、
「はて?なんのお話しでしょうか?」
オズワルドが、静かに訊ねた。
「証拠は明らかです!」
「両妃が来られたのだ。諦めるがよい。」
脇から、トワイライト侯爵が割って入った。“それがおかしいんだよ。”
「あら、反乱者呼ばわりされましたわ。」
メリーウェザーは、不敵な微笑を浮かべた。
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