第48話 どう動くべきか

「お兄ちゃん、如何する?ロージー達を連れて私達も王都に行った方がいいのかしら?」

「ここを管理する義務を放棄しての帰国は、処罰の口実になるしな…。下手に動かない方がいいだろう。」

「でもさ、動かないのも問題だよ。」

 心配そうな顔でメリーウェザーが指摘した。彼女もオズワルドの考えは分かっていた。オズワルドも、彼女の指摘が的を得ていることは分かった。一つ方法がないではなかった。いい考えというほどではなかったが、両方が出来る。1人が帰国して、もう1人が残るということだ。

「それは駄目!」

 2人の心の中で、その考えは却下されているのだ。理由は、

「離れていたくない!」

からである。

 財務官一行とユーリックス指揮下の護衛隊に、サンスベールをつけて送りだした。その見送りが終わった後、とにかく領主としての政務に精出しつつも、あーでもなたいこうでもないと、2人にしては珍しく、決断のつかない日々かが続いた。そうしたある日、ヒカルがやって来た。

 彼は、珍しく浮かぬ顔だった。温かい茶と菓子を出して、2人は彼の話しを聞くことにした。ちなみに、あの4人はちゃんとついてきていた、さすがに心配気に彼を気遣っているようで、何時ものように言い争いも、競い合うこともなかった。彼の切り出した話しは、2人を驚かした。

「ヨシツネ殿に、反乱の疑いがかけられているのですよ。」

「え?」

とは言ったものの、疑えば、そう見えるところはある。ヨシツネは、魔公国の一つに支援のためずっと入っている、そこの女魔大公に大いに気に入られている。さらに、魔界の反乱分子対策に努めているが、魔公国で軍備を蓄えているといいたてることも出来た。

「しかも、間が悪いことに、魔界での情勢が不穏なんですよ。彼が得ている情報では、かなりの勢力となっているらしいのです、反和平派が。」

 それを察知したヨシツネは、対策を講じざるを得なくなっている。戦いに備えているわけだ。ますます、ヨシツネへの疑いに材料を、与えることになっているのだ。戦いの場、あるいは行政でも現場での活動に天才的な人である。それだけに、自分の役割を全うすることが、自身の弁明であると思い込む人だ。それに、魔界の状況は彼無しでは、彼が進めていることを続けることが正しい行動なのである。ヒカルは、さらに詳細を説明したが、さらに厳しい状況にあることがわかった。

「さて、どうしたものか。」

 さすがに、ヒカルも迷っていた。本来であれば、速やかに各公国が連合軍を結成し、和平派の諸魔公国を支援して、反和平派の軍なりを潰すのが上策である。もちろん、本国、周辺各国、諸都市にも急使を送る必要がある。

 しかし、今の状況では、反乱の準備とされかねない。鎮圧後に処罰や糾弾、最悪の場合には戦い勃発の前に処分を受け、その結果の敗戦、混乱の責任をとらされることになるかもしれない。

「我々も同様な立場になって悩んでおります。」

 オズワルドは、姿勢を正し直して、

「妻とも相談したのですが、自分達の義務を果たすことしかない、後のことはそれを果たしてから、おこってから考えるしかないと。」

「最後は、2人で手に手を取って、逃げましょうと。」

 メリーウェザーが割って入った。その言葉に、ヒカルは笑い出した。いかにも愉快そうに。

「仰られる通りです。目の前の懸案、務めを果たさずして、その後のことを憂いて何になりましょう。」

 4人の愛人達を見て、

「最後は、ともに逃げてくれるか?」

 4人とも、“もちろんです!”という顔だった。それを確認すると、ヒカルはまた、オズワルドとメリーウェザーの方に向き直り、

「目から鱗が落ちました。ありがとうございます。迷いは晴れましたよ。速やかに、動員などを始め、各方面に急使を送り、獲得公国に協力を求めることといたしましょう。オズワルド殿、メリーウェザー殿。ご協力いただけないでしょうか?」

 2人はお互いを見て、うなずき合ってから、

「もちろんです。」

 皆は立ち上がって、オズワルドとヒカルは握手をした。

「お前達にも、頑張ってもらいたい。」

「馬鹿共に目にもの見せてやるわ!」

「田舎戦士どもが増長しおって。」

「腕力だけのあんたでは、役に立たないんじゃないかしら?」

「魔法だけのお前は、後ろにいた方がいいんじゃないか?」

 4人は、かしましく彼の後に従った。

 ヒカルが、オズワルド達に励まされたわけでもなく、良い助言を受けたからというわけではない。“とにかく進みましょう、目の前のことに。”と言ってもらいたかった、言ってもらうことで、迷いを払拭できたのである。

 メリーウェザー達も動き出した。

「トーマ。ニーニック。君達の部隊を出兵させることになるかもしれん。準備を始めてくれ。オスカー、オスカー。君の部隊は国内待機だが、非常事態に入る可能性があるし、不測の事態があるかもしれない。臨戦態勢に入れるようにしとおいてくれ。オロキュース。君は、私の不在中の政務を代行してくれ。」

「しかし、それならロース殿が。」

 オロキュースの質問は当然だった。彼女の質問にオズワルドは、

「ロースは、私と共に魔界にいくことになるだろう。彼の知識、人脈、能力が不可欠だ。」

 オズワルドは、本国からの不穏な動きについても説明し、不在中でのそれに対する対応にも指示した。

 そして、各公国への協力要請をヒカルと共に行った。その会談の過程で各公国共に、本国との深刻なトラブルがあることが分かった。そのため渋る者もいたが、ことが切迫していることを強調して、何とか協力体制が構築できた。

 メリーウェザーとはいうと、侍女や使用人達を集めて、魔界の不穏な状況を伝えた上で、本国の不穏な動きを説明し、いざとなったら、何時でも戦えるようにしておくよう命じた。ここに連れてきた侍女達は、エバンズ家、オズワルドの直属も含め、いざと云うとき戦える者達ばかりだった。

「言っておくけど、先走らないこと。慎重に対応してね。」



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