第47話 よくわかってくれたわね

 実は、貴妃やエバンズ家からの連絡はない。アラン・セイ王太子夫妻からの連絡もない。たわいない手紙はきているが。オズワルドの妹達からもないし、母国の友人達や領地の使用人からの報告もない。ことがことだけに、安易に伝える情報ではないとも考えられる。

「母上や王妃様がうっかりしているとは思えないし、アラン様も優しいだけの男ではないし、セイ殿もいるし…。妹達もいるし、…。やるべきことはやっているとは思うし…。」

 2人きりになってから、オズワルドは、長椅子に座って唸った。隣に座るメリーウェザーが、軽く彼の右腕をつねった。

「セイや妹さん達のことが、よ~くお分かりね~。」

 覗き込んで睨んだ。すぐに、不安気な表情に変わった。

「お父様も、お母様も、お兄様だって、情報収集はしっかりしているし、甘ちゃんじゃないから…」

“大丈夫だ”とは思いたかったが、不安だった。

「兄上への信頼感が大きいな。」

「お兄ちゃんの焼き餅焼き餅~。」

 そう言って、寄り添ってきた。

 ブラトンと修道女財務官の一行への襲撃はあった。二段構えで、しかも。さらに、監視役もいた。最初から二段構えだったのか、グロリア、グリコ襲撃グループが、目標の2人が修道女の護衛についたことで、余ることになり、このようになったのかは分からない。どちらにしても、第一襲撃グループはプラトン達の前に壊滅的し、第二グループと監視グループは、より後方から警戒していたユーリックの精鋭に捕捉されて、壊滅した。ユーリックは第一襲撃グループも含め、死体と捕虜を確保して帰還した。実は捕虜は一人を除き、話ができる状態になかったし、話ができる一人も自白していなかった。

 財務官のロージーに言ったのは、半ばははったり、ブラフである。セージは洗いざらい話したが、突然の納得できない使命と形式の整わない通知などを、直属の上司から、無理矢理命令されただけで、あの様な無礼で、挑発的な内容だったとは、ここに到着して、初めて知ったと泣かんばかりに訴えたが、ようは詳しいことは知らないということなのだ。

「私は、貴妃様やエバンズ公の恩義を受けている者ですから、このようなことに…。」

とも訴えた。

 若い妃を唆して、王太子を失脚させようとする、辺境で自立しようとして視察にきた財務官に見破られて暗殺する、辺境領を乗っ取ろうとして、あるいは抱き込もうとして謀反の疑いがかかる、疑われているように思わせるなどの策略を行うパターンがあった。

「それで処刑されたのよね、オズワルド王子は。」

「いや、メリーウェザー様だったんじゃないか、それは?」

 その晩、パターン通りのことが発生した。

「ロージー殿。大丈夫?」

 夜着に返り血をびっしりつけた、メリーウェザーが駆けつけてきた。その後ろでは、臣下に命令、指示をしているオズワルドの姿があった。

「メリーウェザー様。オズワルド様。分かりました。奴らは、謀反を起こそうとしています!」

 後輩の助手を抱きしめながら、ロージーは泣き顔で叫んだ。彼は、彼女を守ろうと身を挺して傷を受けたのだが、あくまで軽症で、かえって彼女の抱きしめる力力の方に、より痛みを感じていた。オズワルドとメリーウェザーも襲撃され、セージも襲われた。軽く返り討ちにしたが、準備が十分だったためか、襲撃に不安感を感じさせるためだけのものだったから、最初から成功しないものにしていたせいかは分からない。

「私めは、お二人を挑発して不安を抱かせ、叛意を起こさせることと、お二人の叛意を報告すること、何でもいいから叛意を証明する事実を見つけることでした。」

“あいつは、あいつは、これを知っていたんだ。”彼女は悔しくて、悔しくて仕方がないという顔だった。

「彼女は落ちついたわよ。」

 執務室に入ってくるなり、いかにも疲れたという感じで、メリーウェザーは言った。

「あら、彼は?」

 すれ違いに、ロージーの助手が出ていったので、尋ねた。

 彼女の助手は、手当てをしてから事情を聴いていた。呑気そうな感じだったが、彼女より状況をより把握していて、彼女を心配していたらしいし、彼からの情報の方が幅広い面があった。当事者ならでは得られるものが、彼の方にはあった。

「彼女のそばにいたいというので許したよ。」

「イケメンだったようね、どういう組織なのかしらね?」

 その代わりに、本当の運命の人を見つけた、と2人は思いたかった。

「でも、あまりにもセオリー通りというか、単純よね?これで黒幕判明といくかしら?」

 長椅子に座って、魅力的な脚を組み合わせながら、不安そうに言った。

「まあ、あの2人と取り巻き達なら分からないことはないけど。」

 彼らを操る黒幕がいて、本当の罠が張っているのではないかという不安を感じていた。

「まず、当面のことを考えるとしてだ。プラトン達には、念話を送ったが、あとセージ殿達は帰国するわけだが、十分な護衛をつけなければならないな。」

「いっそのこと、ずっとここにとどめていたら?」

「そうもしたいが、それだと、彼らを幽閉でもしていると、叛意の理由にされかねないな。」

「そうね。」

“貴妃様、王妃様が黙っているのは、本当の黒幕を捜しているからなのかしら?”


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