第46話 賢いことは馬鹿なことかもしれない。
両妃は、メリーウェザーとは同い年の生まれ月が後という若さである。父国王にも色々と事情?はあったろうが、さすがにアランとオズワルドも、口には出さなかったが呆れた。王妃や貴妃は、表面上は嫌な顔すらしなかった。優しく王宮内のしきたりなどを教えていた。よく言えば母のように、悪く言うと上から目線で。オズワルドの双子姉妹は、露骨に嫌な顔をして、顔同様な態度を取っていた。母に窘められていたから、無礼な言葉を投げかけることはなかったし、意地悪をすることはなかった。似ているということはなかったが、金髪で、小柄な、負けん気の強い顔をした、まだ少女の見える女達だった。同じ歳のメリーウェザーはもちろん、一つ下のセイのほうが、ずっと成熟した女性に見えるくらいだった。オズワルドの双子姉妹のほうが大人の女の美しさを持っているようにすら見える。
そして、2人はともによく気がつき、賢い女性だった。国王が、心安らぐのが分かる気がした。ナターシャは、
「あの目。小狡そうですわ。信用出来ませんわ。」
ソフィアは、
「胡散臭い。」
と斬り捨てていたが。
母は強しとも言うが、悪魔に魅入られる場合もある。2人を操る黒幕はいるのか?2人が協力して、というのも疑問を感じる。“妄想だな。”全ては、2人に子供が出来たという情報だけで考えていることなのだから。
「ユーリック殿。プラトン達が修道女様をお守りして、もう直ぐ出発する。君は、一隊を率いて、後方を警戒して欲しい。プランタン達も腕は確かだが、不逞の輩は何を考えるか、何人いるのか、どういう能力の者がいるか分からないので、万全を期さないといけませんからね。」
若い騎士は、頭を深々と下げて、
「修道女様達の安全を確保いたします。」
彼が出るのと入れ違いにメリーウェザーが、話に割って入ってきた。
「修道女様の旅の準備はできたわ。グロリアとグリコも、領地をでるところまで、修道女様の警護をするそうよ。」
そう言って、直ぐに寄り添って来た。
「2人の警護に1人か2人つけないといけないわね。」
「そちらも、手配するか。3人はいるか。」
「王妃様や貴妃様は、大丈夫かしら?セイとアラン様は大丈夫かしら?」
それから5日後のことだった。
「ご苦労でした。昨晩は、よく眠れましたか?」
広間、謁見や請願、応客用に使用している、でメリーウェザーは、オズワルドの隣に座り、ニッコリと笑い、二人の前に立つ財務官に尋ねた。
「はい。…。」
言葉が続かず、男の財務官、セージはおどおどしていた。
「大変よく眠れました。このように快適な環境を得られているのなら、視察の結果から見ても、独立採算以上になっているかと、拝見いたしました。もちろん、私の個人的見解ですので、判断は財務大臣がなさいますが。」
ロージー財務官、怖いくらいに厳しい表情をした、眼鏡の女財務官は挑発的な言葉を口にした。金髪をショートカットにした、中背でスリムな、美人といえなくもない女だった。
「それでは、謀反を準備しているように聞こえるのだが?」
オズワルドの言葉の調子は、穏やかなだが内容は物騒な質問に、
「それは、宰相閣下がご判断されることかと。」
平然としていた。
既に、ヒカルから、
「貴国から、極秘通知が来ています。あなたが、反乱、自立を企んでいると。」
情報提供があった。
「それに、セージ殿から、昨晩、たっぷり情報提供を受けているんだよ。」
ロージーは、“ふん。騙されませんよ。”という顔だった。
「君の監視魔法は、無効化させてもらったし、それが分からないようにもしておいたのだよ。」
「それは凄い魔法ですね。拝見したいですね、是非。」
「大したものではないのよ。合わせ技でできるのよ。私の無効化の魔法と夫の回復魔法はね、用途が広いのよ。」
秘密の噂を、こっそり告げる風にメリーウェザーが云っても、ロージーは平然としていた。
「ところで、私達が、妻の実家と領地に送った使者、修道女様も同行なされていたが、を襲撃した一団がいてね、全員捉えたところ、一人が白状したんだよ。」
ロージーは、無表情だったが、たたみかけるように、
「王妃様や貴妃様があのままでいると思っているのかね?お二人が争わないのは、国のことを第一に考えてのことだ。そのお二人が、なすがままにされていると思っているのかね?王太子ご夫妻も、甘くはないよ。どうだい、今なら間に合う。セージ殿は、このまま財務官としてのコースに残れるし、君は、どうだね、この地の財務責任者として辣腕を振るってもらえないか?こちらは人手不足でね、優秀な財務官の君がきてもらえると嬉しいのだよ。」
「私達は、あなたの財務官として能力を高く買っているのよ。美人で、有能な財務官を失うのは、とても惜しいのよ。」
メリーウェザーがダメ押しの、やさしいお姉さん顔で微笑んだ。ロージーの表情が少し動いた。“有能さ”という評価は、よく耳にしていた。しかし、この公国のトップとして辣腕をふるうほどでの評価はなかった。“今のこのポストでは、有能”程度であった。今まではずっとそうだった。“彼ら”もそうだった。いや、ずっとましだったかもしれない、あくまでドングリの背比べ程度では。オズワルド王子夫妻の言葉は彼女が待っていた言葉だった。それでも、躊躇った。その時、目の前に浮かんだ男の顔が浮かんでいた。急いでかき消して、“違う!私はそんなので!”
「時間をあげよう。明日の朝、回答を聞かせて欲しい。」
それから言葉を切ってから、
「君も暗殺の対象になっているから、気を付けたまえ。十分、警護はつけるが。どうしてか?という顔がだね。君たちが、死ねば私の叛意の疑いが濃くなったと言いたてることができるだろう?それとも、君を守ってくれる奇特な男でもいると思っているのかね?」
しばらくしてからようやく、その可能性に思いいたったのか、ロージーの顔が蒼白となった。
実は、オズワルド達の話は、半ばは嘘というわけではないが、想像、憶測なのである。
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