第45話 援助停止、謀反…どういうことですの!
「何を言っている?全てが着実に進んでいる。この大切な時期に、支援なしにやれと言うのか?一体全体、誰がいいだしたんだね?国王様の命令?それなら正式な書類を出せ!こんな落書きがなんになる!」
オズワルドは、本国からの使者に怒鳴った。脇から、その書類をみたメリーウェザーは、それ以上に激怒した。その“落書き”には、
「卑しい成り上がりのエバンズ家の嫁」
と記されていたからである。実はそこまで露骨ではなかったが、十分そのように読める文面だった。
「これはどういう意味ですか!我が家は、王国でも五指に入る歴史ある名門!どなたが書いたのですか?言ったのですか!」
使者の男は、真っ青で震えているばかりだったが、副官の女は平然というよりは、傲然という感じで黙っていた。
ようやく春が近づいている頃だった。財政大臣の使者がやって来た。わざわざ、魔界、魔界近くの移動が、まだ容易ではない時期にとは思ったが、その使者が持ってきた書類は、資金等の王国からの援助を唐突に停止するというものだった。財政担当の目から言えば、支出は減らしたいのは当然であり、早く独立採算化して欲しい、出来れば国庫に税収を入れて欲しい。だが、それも限度がある。しかも、使者が持参した書類は国王の署名、印どころが宰相も、何と財政大臣のそれすらもないものであった。内容も、挑発的な書き方が目立った。オズワルドは怒りが収まらなかったが、じっと堪えた。辺境に飛ばされて、反乱を企んで、失敗、処刑されるパターンもあったからである。
「使者殿は、領内をよく視察なされよ。今が大切な時期であることが、よく分かるはずだ。せっかく順調に進んでいるのに、ここでもし支援がなくなっては、独立採算どころではなくなるのだよ。」
使者の男は頭を深く下げたが、副使者の女は、きっと見つめ、
「お二方の横領を疑う者がおりますので、それがないことを、この目で確認させていただきたいと思います。」
ムッとした表情のメリーウェザーは、こめかみをヒクヒクさせながら、
「誰がそのようなことを。ここでは、横領しても使い道もないでしょうに。」
女は少し笑うように、
「ご実家への仕送りとか…、あるいは反乱を準備しているとかを言い立てるものまでおります。私はそのようなことは信じておりませんが。」
「どなたが仰っておられることかしら、馬鹿馬鹿しい。」
メリーウェザーは、笑って見せた。
「使者殿は、遠路、しかもこの時期の旅でお疲れであろう。夕食の準備もさせている。部屋も用意させている。後ほど、お呼びするので、先ほどの部屋でお待ち戴きたい。視察のことは、明日、朝食の際に、家臣達と相談していただきたい。」
2人が下がると、オズワルドはメリーウェザーの手を引き、別の部屋に移動した。
「プラトンをすぐに行かせる?」
メリーウェザーは、部屋に入るなり切り出した。彼女は、一見華奢だが、魔界の冬には慣れているし、本人も冬の旅には自信があると言っていたし、実際領内外で共に移動した際、それは実感している。それに戦士としての実力は確かである。メリーウェザーは、そこまで読んで言ったのである。“さすがに頭がまわるな。”と感心しながら、
「奴らも、誰か急使を送ることを予想しているかもしれない。彼女だけでは危ないかもしれない。サンスルリ、サルスベリをつけよう。2人なら足手纏いにはならない。それに、私達領内でも、王宮でも顔が知られている。」
「ブランタンもつけましょう。彼女は、私の実家とも家族同士の関係も深いし…、あ、両親あて、兄上あての手紙を書いて、与えておくわ。」
“彼女達に伝言を託しました。”という、ある意味信任状である。“ああ、それもあった!”
「私も母上あての手紙を書こう。アラン様、セイ様当ても書かなければならないな。」
「セイ当ては、私が書いたほうがいいわ。」
ドタバタと2人は動き出した。ブラトン達を呼び出し、事の次第を説明し、すぐ出発するよう命じた。こういう場所だから、何時でも旅立てるように準備をさせているので、明日にでも出発することになった。事の重大さを感じて、4人の顔は厳しくなった。彼らが準備のため退室すると、他の家臣を呼び出し、公都内に不審な旅人が、いないか調べるように、警備隊長には、使者達の警護、監視を命じた。また、明日からの彼らの視察の世話と監視を命じた。そして、2人が手紙を書き始めようとしたところ、中断せざるを得なかなった。グロリアとグリコが駆け込んで来たのである。興奮した顔の2人は、突然自分達を解任するとの通知が来たと言い立てて、その通知を見せた。総教会からの通知書であった。そこには、この地域で聖女、賢者として活動している資格を剥奪、教会からも除名するというものだった。寝耳に水だった。一応、2人の管轄は教会にある。そのため、2人はまずこの地の修道女に相談に行った。彼女も驚いた。全く聞いていないと言った。全く頭越しの通知は、彼女の権限、立場を無視するものである。事前に、相談があるべきことである。それ以上に、2人への措置に納得出来なかった。
「自ら、明日に抗議のため旅立つとおっしゃって。」
2人は止めることはせず、自分だけでも同行するつもりだった。
「修道女様の旅には、我が優秀な戦士達をつけ、万全の準備を用意する。明日、旅立てるようにする。しかし、君達はゆくな。我が家、いやわが領の聖女、賢者として迎えるから、ここにいたまえ。」
すかさずオズワルドが命じたが、
「しかし」
「でも」
躊躇する2人に、
「軽はずみに、動いてはいけません。お二人が動かれるのを狙っているかもしれません。」
メリーウェザーが、諭すように言った。さらに、彼女たちの事情を説明した。事が重大なことになりつつあることに2人は真っ青になった。
「何と、お二人が横領、反乱などと、とんでもないことを。」
オズワルドは、2人に当面どう過ごすべきか説明した。グロリアとグリコは黙ってそれを聞いた。
「お互いにあらぬ疑いをかけられているようだ。慎重に行動しなければならない。お互いに、相談しあって考えていこうじゃないか。」
2人は頷きながら、
「陰謀が…恐ろしいこと…おめでたい時なのに。」
「?」
「修道女様が嘆いておられたのですが、マララ妃とブラダ妃が、ご出産した、おめでたい知らせがあったばかりなのにと。私も、この時初めて知ったことですが。」
「私も。」
“聞いていない。”“聞いてない。”
2人が退室して、手紙を書き終えて、署名と印を押し、さらに綴じて封印を押した。
「国王様も相変わらずね。」
「ああ。」
呆れたという顔と感心する顔が交差した。
“そんな情報がこちらに来なかった?”とも思ったが、それ以上に
“馬鹿な女達だ。”と2人は心の仲間で罵った。アラン・セイの王太子夫妻は二組の親子に冷酷な仕打ちはしないだろう。王妃、貴妃はいたずらに害を及ぼすほど無体てわはない。“私達は、感心もないのに。”“どうでもいいことなのだがな。”
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