第44話 春になるまで
12月25日、クリスマス。前日の深夜まで静かに過ごし、生誕とともに祝いの日に変わる。周辺の各国、魔族の公国、領内の有力者などを集めた宴も開いていた。庶民への配給というか、交付も行う。それは他の国でも同様だった。合同の魔獣狩りもある。オズワルドは勿論、メリーウェザーも参加した。ヒカルの4人の愛人達、彼女らは4人とも根っからの戦士だったから、ともに武装姿で参加している。彼女らにも、ヨシツネの連れた女戦士達にもひけはとらなかったと思っていた。これは、冬の食料確保、娯楽でもある。得た肉は、参加した各国に分配されるが、オズワルド達はさらに大部分を領内に配っている。それも、彼らに限ったことではない。領内の統治には必要不可欠な行為なのだ。
「クリスチャンではない我々が、この日を祝っては迷惑ではありませんか?」
やってきたヒカルが、笑いながら言った。4人の愛人達を、当然引き連れて。
「そんなことはありませんわ。」
メリーウェザーも、負けないくらいの笑顔を浮かべて迎えた。
「800万の神々を信じるお国、新たに加わった神の誕生日祝いを祝うのに、何の問題もないのではないかと思いますがどうでしょうか?」
「メリーウェザー殿も、オズワルド殿も、我ら以上に我らの宗教をお分かりですなあ。」
笑顔の中に窺うものがあった。慌てて、
「ヨシツネ様がおいでになれなかったのは、残念ですわ。」
話しをそらせた。ヒカルがそれに誘導されたとは思えなかったが、彼はそれにあわせてくれた。
「魔公国の一つから、統治に関して協力依頼があったことはご存知かと思いますが、彼は引き続き現地に残って協力しているのですよ。」
その話は聞いていた。魔公国では、どの分野でも人手不足で、しばらく前には、その一国から行政での協力の依頼があった。ヤマト国が、正確にはヒカルが代表を務めるヤマト国領にだが、その依頼を受けたのだ。このような情報は、必ず他国にも伝えることになっている。そうでないとつまらぬことを争う対立の種になるからだった。
「でも、その魔公国の大公は、妙齢の美人大公とか。大公殿がヨシツネ殿を気に入って、離したくないのでは?」
いつの間にか、そばに来ていたオズワルドが口を挟んだ。
「あなた。失礼ですよ。」
“わあ~。お兄ちゃんを窘めている~!”したり顔で窘めた。
「それもあるかもしれませんな。しかし、彼を慕う女性達も行ってますから、熱い対立になっているかもしれませんな。」
「しかし、それでは雪崩の被害が出ませんか?その時は、ヒカル様が?」
ヒカルとオズワルドが掛け合いの冗談を飛ばしていると、ヒカルの周囲の4人は、“絶対、ヒカルはいかせない!”と珍しく意見が一致し、協力を目と目で誓い合っていた。そして一斉に、メリーの方を見た。“私達の同盟に入りますわよね!”メリーウェザーは困ったが、すぐに頷いて、同盟参加を受諾した。“お兄ちゃんをいかせたくないわよね。”
「勇者様方との日々が、こうしていると懐かしいですね。」
女達の雰囲気を感じて、オズワルドが慌てて、話題をそらせた。
「勇者様方…。そのことなのですが。」
「勇者様方が、皆、ご苦労なされていることですね。心得痛むことですね。」
勇者クロランドが幽閉されたとい話である。シンドバッド兄弟が奔走しているというが、彼女の冤罪が晴れたという情報は来ていない。勇者フレイアは無事だが、補佐役のロキ、メンバーのフェンリル、ミッドガルド、ヘルが牢獄に繋がれ、フレイアが怒り狂っている、アテナがアレスなどと対立し、デオニシスが苦労していると話が耳に入っている。
「勇者クロランド殿は、正に騎士そのもの、鏡というべき方、よき見本というべき方、シンドバッドご兄弟が補佐をしていたのに。ヒョウセン、ロフご兄妹は何も悪い話を聞かないのが幸いですが。」
「脳筋兄妹ですが、ある意味、ユシツネと似ています。ただ、ブショウ殿やソウソウ殿がついていますからね。」
ソウソウはともかく、ブショウは2人を利用して陰謀を働く側である。“つまらぬ陰謀はしないか。あれ、みんな私が関わっていたか?”ゲームでは、クロランドが主役の勇者のパターンで陰謀に加わって、かつ、馬鹿まるだしの恥ずかしい奴はオジワルドだった。その他の場合もそうだ。あの馬鹿が、どうしてこんな陰謀を進められたんだ、と突っ込みをいれたくなるが。“メリーウェザーがというのもあったな。どれも悲惨な末路だったな。しかし、そうなると、私達が加わっていないが、類似した形だと考えると、ヒントがでてくるか?”オズワルドが考えあぐねているのを見て、ヒカルは、
「我々が出来ることはありませんが、彼らが不利になることは言わない、しないということだけですね。」
と諭すように言った。オズワルドは、小さく頷いた。とにかく今は、立派に統治をするしかないのである。冬を乗り切ることだった。
不自由な冬の間、統治体制は何とか進んでいた。ようやくオズワルド達の館、かなり貧弱ではあるが、無いよりましなものだったが、が出来上がった。
それが、恐れていたことが、想ったより早く来てしまった。
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