第43話 もちろん送りますわ。

 オズワルドは何も言わずに、メリーウェザーの唇に自分の唇を重ねた。少し、メリーは抵抗するふりをしたが、直ぐに彼の舌の侵入を許し、自分の舌を絡ませた。互いの唾液を飲み合いながら、長い口づけを続けた。“お前しか見てないよ。”という思念を送り込んでいるつもりだった、オズワルドは。“分かっているわよ。”とメリーウェザーは、思念を送っていた。二人は、唾液とともに。

「もちろん彼女を、送りますわ、兄のために。そのために、人選したのですから。兄の結婚が上手くいかないのも、暗殺されるのも困りますから。兄に取り入って良からぬことをするような女でもありませんから、立場も、性格も、それにそれが分かるだけの頭があるの。私達に不利にならないような女よ。」

 唇を放して、少し荒い息をしながら、彼女は一気にまくしたてた。。

「ああ。ヒカル様も、ヨシツネ様も保証してくれているからな。」

 あの2人の見る目は、信じられると思っていたから、それを言ったつもりだったのだが、

「あ、焼き餅?そんなことはないわよ~。」

“本当にお兄ちゃんは、焼き餅焼きなんだから~。”と慌てる妻に、彼は心から可愛いと思いつつ、苦笑した。

 メリーウェザーの兄は、かなりのシスコンではあるが、有能な男である。しかも、名門であり、勢力の大きいエバンズ家の次期当主であるから、取り込もうとする者も、排除しようとする者がそれぞれ数多くいる。ゲームでは、メリーウェザーが、彼を暗殺する、暗殺しようとするパターンもあるほどだ。しかも、彼の妻ごと暗殺している。彼の妻とひどく対立しての上である。兄を唆して、彼の妻を殺させる、殺させようとするというパターンもある。あのエルフ女が、メリーウェザーの兄をたらし込んで好き勝手をやって、正当防衛的にとはいえ、こちらの側が手をくだすことになっては、形の上では同じだから、破滅も同様に来るかもしれない。それは避けたい、避けねばならない。メリーウェザーの運命は、この場合、処刑しかないのだ。ヒカルの見立もあり、彼女は身分もあり、のし上がろうという野心を持つ背景もない。もちろん、お目付役は必要だが。

「それは、お前を放したくないからだ。」

 それは本音だった。

「うん。」

 そう言って見上げる彼女は可愛く、魅力がありすぎた。

 とはいえ、プラトンには教育しておく必要があるし、それなりのものも与えなければならないとオズワルドは思った。が、それどころの状態ではなかった。気分が高まって、互いに、

「こんなところで。」

「こんな時間に。」

と言いながら、そのまま本能のまま突き進んでしまった。

「そうだ!」

とオズワルドが、言ったのは互いに息を弾ませながら余韻を楽しみながら、抱き合っている時だった。

「呆れた。そんな先のことまで考えても仕方がないじゃないの?」

 “あ~、お兄ちゃんの匂いがつきまくっちゃった。”服を着ながら、呆れるように言った。メリーウェザーの兄とプラトンが結ばれて子供が産まれたら、自分達の養子にしようとオズワルドが言い出したからである。行儀見習い、連絡役、護衛として送るが、女の扱いを教える、近づく女達の監視をしろ、いい女なら積極的に彼に近づけさせろ、手取り足取り教えても、マズい女はやんわりと追い返せ、と命じようと考えている。愛人関係になってもいいと思っているが、エバンズ公爵家の正式な嫁とは受け入れられないだろう。子供が生まれてしまった場合どうするかという問題が出てくる。2人の養子に引き取ることにすれば、実際は子供と家臣の中間の立場であるが、将来は有力家臣として財産分与もし、あるいはそこそこの身分の家に婿に嫁に出すとかも出来る、将来を保証すると言うわけだ。お家争いにはならないし…ではあるが。オズワルドのそういうところは嫌いではないが、ちょっと考えすぎ、やり過ぎとも思ったが、

「う~ん、それもいいかもしれないわね。」

と直感から、その言葉が出てきた。

 後日、ヒカルに2人が話してみると、

「それはいい。流石は、オズワルド殿ですね。」

と笑って褒めてくれた。魔族が攻勢に出るようなこどもがあれば、協力してもらわなければならない、いや魔族でなくても、領内の反乱などの対処にも協力してもらわなければならない。領内の反乱を唆すことがないように、友好関係を、監視することも含めて、現在進めている領国経営でも、同じ立場の諸国との間では不可欠だったから、ヒカルとも頻繁に会っていた。それに、ブラトンは、彼のお墨付きをもらった、かつ、彼の愛妾であるハイエルフの亡命王女の関係者であるから、伝えなければならないわけではないが、やはり義理がある。そのハイエルフ女が、彼のそばにいるので、少し心配になったが、

「それはいいことです。人間とのハーフエルフは、なかなか受け入れられない場合が多いので、エルフの世界では。」

と心から安心している風であった。

「亜人たちの中でも差別は?」

「あんな奴らの元に入っても生きていたいと思うような者に、エルフの血が流れているとはとうてい思えませんわ!」

 ちなみに、エルフの分類は、エルフ、人間、亜人であり、エルフは亜人とは考えていない。そう叫ぶように言ってしまって、しまったという顔をして、慌てて、

「ハーフエルフといわれる部族でも、人間とエルフの間の子供は差別されがちなんですよ、程度の差もありますし、例外な部族もありますが。それでも、部族の長の子供であっても、跡を継げないどころか、庶民となるのが普通だとか。」

“ヒカル様は、苦労されているな。というか、すごいな。”オズワルドはあらためて思った。

 どうやって、ただでさえ険悪なエルフとオーガの女を同時に身近においてもおけるのか、彼の想像の範囲外であった。

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