第41話 早くブラコン双子妹は帰ってよ

「お前達が来てくれて嬉しいんだが、お前達には大切な役割があるんだから。」

 オズワルドは、自分達の双子の2人の妹達を前にして言った。彼の前の椅子に礼儀正しく座って、彼をじっと見つめているソーニャとナターシャは、わざわざ折り返しで戻ってきた、グロリア達とオズワルドとメリーウェザーの使用人、護衛兵達の追加の面々についてやってきたのである。しかも、しばらくのここに居ると言うのだ。もうすぐ冬である。そうなると、移動は色々と不安である。春になってからということになる、兄として当然、そう言わざるを得なくなる。しかし、砦を仮宅としている状態で、まともな生活は、王都での生活の半分どころか、1/10も与えられない。そんなことは、兄として耐えられない。その兄の気持ちも分からず、

「私達といたくないのですか?」

「私達は邪魔者なんだ。」

と頬を膨らませた。大きな溜息をついて、

「お前達に逢えて嬉しくないはずはないだろう。必要な物や情報を持ってきてくれて感謝しているし、お前達が私達のことを王都に伝えてくれることは助かると思っているよ。」

 嘘ではない。彼が求めていないが、これがあれば助かると思う物を持ってきた。公式には要請するものではなかったものだからだったが、何も言わなくても察したのだろう、母の貴妃が。そういう心遣いができる人だった。人を惹きつけるのだ、“そこも怖いんだよな。”また、父国王、母の私信などは2人でなければ運べない。彼女達の見聞は、身内だから割り引かれるにしても、頭のよい2人の見聞きしたことも含めての話しは、彼に優位にはたらいてくれるはずだった。それに、母貴妃や父国王の許可があって来たのだ、邪険に出来るはずがない。

「ふん。そんなこと言って、お邪魔虫だと思っているんでしょう。私達がいたら、櫓の最上階で、下を脱いで、淫らなこともできなくなるからでしょう。」

「しかも昼間に。」

「だ…」

 声に出そうになったが、詮索は止めた。大体は推測がつく。そのことで弁解することも止めた。

「なあ、お前達。」

 彼は椅子を引き寄せて座って、暖炉をまず見た。火が燃えさかり、暖かい空気を運んできている。“あとは。”

「何か温かい飲み物でも…、ホットワインを持ってこさせよう。」

 侍女を呼び、2人にホットワインを持ってくるように命じた。彼女は分かりました言うと頭を下げて、出て行った。

「お前達には、母上を守り、国につくす義務があるだろう?」

「は?」

としていたが、直ぐに思いつくことがあったのか、窺うように、小さな声で、

「王妃様が?」

声が同時だった。

「王妃様は、そんな馬鹿ではないさ。」

 外に聞こえない程度の声だった。それを聞いて、合点したという顔で、

「あの馬鹿で、生意気な小娘たち。」

 また、息が合っていた。

「そうだよ。」

 大きく頷きながら、“お前達が、小娘と言うな。”心の中で叱りつけた。2歳くらい、あっちの方が年上だ。見事な金髪の小柄なグレダ、これまた見事な銀髪で、やはり小柄なマララ。2人は、3人の父である国王の若い愛人、妃である。女としては長身の王妃、貴妃の反動からか、対称的な可愛いというタイプである。妹が言うように馬鹿女ではない。聡明で、よく気がつく娘達である。気配りがきくし、会話も楽しい。音楽の演奏から手作りの品を作り、王に贈るなど、政務などに疲れ切った国王が癒やされて、可愛くて仕方がないという気持ちが分からないではない。それ程接触はなく、母に対する礼を持って接していたが、どこか信用できないと、彼の感が叫んでいた。実際、グレダはアランの結婚式の一連の事件への関与が疑われた。決定的な証拠がなく、国王が不問としたので、うやむやのうちに終わってしまったが。それには2人も同感だった。

「それは確か、でも。」

「母上なら大丈夫…。」

 どうしても、しばらく、かなり長いしばらくだが、ここにいたいらしいな、とオズワルドは察した。

「母上でも、上手の手から水が漏ることもある。私は、お前達を頼みと思っているんだ。」

 ドアがノックされた。侍女が、ホットワインが入った陶器のコップを三個、盆に載せて持って入ってきた。

「ここでは、これでも上質なやつなんだ。我慢して飲んで、暖まれ。」

 自分の分を受け取りながら、

「まあ、帰る支度をするのには数日かかるだろうから、それまで不自由なことばかりだが、我慢してくれ、ここで。」

 ホットワインを吹きながら、飲みながら、少し嬉しそうな顔をしている妹達に、

「しばらく、久しぶりに四人でゆっくり過ごそう。」

“短い、しばらくの間だぞ。”と心の中で強調し、後半の“4人”という言葉に頬を膨らませて妹達は無視した。“母も父も、ここには長く滞在させるつもりはないはずだし。”

 別室では、メリーウェザーが、大きな、大きな溜息をついていた。手紙をテーブルのうえに、パタッと落とした。 

「兄さんときたら、どうして妹離れができないのかしら?」

 頭が痛くなる、という風に椅子に座り直して、頭を抱えた。

「それに、あんなことまで、伝えて…。伝えたのが誰かは分かっているけど。」

 ドアの方をチラッ睨んだ。兄からの手紙であった。必要な情報も書いてはあったが、寂しいだとか、早く帰れないのか、何時戻れるとか、里帰りはもっとしてくれ、そんなはしたないことはどうかと思うとかが、あまりに多かった。

「もう、早く結婚しちゃえばいいのに。愛人だっていいわ、私のことを半分くらい忘れる程度に夢中になってさ。ヒカル様やヨシツネ様に頼んで、エルフか、魔族の美人を調達してもらって、贈ろうかしら。」

 自分でも善からぬことと分かることを考えてしまっていた。

“早く帰ってよね。エセ妹達!”

“お兄様に淫らなことはさせない!”

 妻と妹達の散らす火花に、半分心を痛め、多少たのしんでもいたオズワルドだが、厳しい魔界の冬を前にやらねばならないこと、早く新しい領地を掌握することを急いだ。人間が多数派とはいえ、魔族の血がはいっている者がかなりいるし、亜人の比率も高かった。その亜人も魔族の血がはいっているいる者が多くいた。魔族もどちらかと言うと少数派だが、かなりいる。ただ純粋といえる魔族は、その中でもあまり多くなく、人間・亜人の血が入っている者が多い。だから差別が少ないなどということは、全くといってない。互いに差別しまくっているのが現状だった。それを調整して、ここを豊かにしていかなければならないのだが、最初から大変だった。ゆっくり、妹達を領内を案内するというわけにはいかなかった。メリーウェザーにもついてきて、助けてもらわなければならないし、というわけで、妹達もそうした場に同行させることにした。“領内を案内するのと同じだろ。”とオズワルドは開き直っていた。

「ですから、良い肥料や農具、人手、灌漑用の水車や風車があれば、農地を大幅に広げられますので。」

「腕の良い職人が足りないので…。」

と人間側の陳情があれば、

「元々は、ここまでが我々の領域で。」

とハイエルフが言えば、ハイエルフ内部でも揉める、他のエルフやハーフエルフとの争いが始まる。魔族達は、強行に自分の権利を主張する一方、生活難やらでの救済を求めてくる。夫婦二人で、善人顔と悪人顔を使い分けながら、相手をした。王家と公爵家からの援助をてこにして、感謝させながら、最大限相手の自助を引き出すことに、何とか成功して、目的は遅々として進めていた。ナターシャとソフィアもこういうときには、かなり役に立ってくれた。いい意味で対抗意識を燃やしてくれて助かったな、とオズワルドは思った。後から考えると、かえって二人についての報告には都合が良かったとも思った。メリーウェザーも、そう思ったが、おもしろくなかった。オズワルドに強引に寄り添い、彼も協力するのだが、二人もくっついてきて、いつも通りいかない、それも不満だった。オズワルドも不満ではあった。しかし、そんなことは微塵も見せずに常に微笑んではいたが、最後はこめかみがピクピクしだした。ちなみに、双子達は、

「お兄様は、私達の前でも、あの嫁がベタベタするのを許して…、本当に情けないといったら…。」

「尻に敷かれてる。」

と言って、父と母を笑わせていた、帰国後に。


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