第40話 これは、辺境に流刑になるのかな?

 周囲を掃討、降伏した魔族を捕虜にするなどしつつ、周囲に襲撃する意志がある集団がないか確認する作業が、それから丸二日間行われた。その上で、占領した魔王城で、ささやかな戦勝会が行われた。その後の戦後処理は、面倒な交渉や駆け引きが、謀略まで展開された。

「これって、辺境に流刑、というシナリオになるんだろうか?」

 仮住まいの、砦の櫓の上でオズワルドは、自問するように言った。

「強制力でも働くのかな?」

 快感の余韻に浸りながら、つかんだ窓縁から、身を起こそうとゆっくりメリーウェザーは動きながら答えた。オズワルドの目の前には、彼女の形の整った下半身があり、窓の外には荒涼とした大地と澄み切った青空が見えていた。オズワルドは、ズボンをはいて、窓からやや身を乗り出すようにして、新しい領地を眺めた。露出していた下半身をのろのろとドレスを身に着け終わったメリーウェザーも彼の横に立った。

「もう~、こんなところで。」

と怒ったような表情を向けると、

「下を脱いで、お尻を向けてきたのは、君だろう?」

と切り返した。

 2人は、魔族の境界の領地を与えられ、今、そこにいるのである。何故そうなったかというと、魔王との戦いの戦後処理の結果なのである。

 魔王を倒したといっても、魔族を殺し尽くすことなどはできない。統率のない魔族が、盗賊化しては、それはそれで、厄介なものである。さらに、敗戦への反発力から、強力な指導者が現れでて、魔界を統一し、魔王になって侵攻を開始するということになっては、さらに困るし、絶対に阻止しなければならない。速やかに魔族達に、統一されずに、あまり強くならない程度で、統率が取れた状態になって欲しい。まあ、虫の良い話でもある。魔王を失った魔族の貴族達と交渉し、有利な和平条約を締結する必要があった。脅威にはならないが、魔族の統率のとれる国を、国々をつくらせる。ここで、ルルゴーモアの存在は大きく役に立った。彼女を媒介にして、幾人かの魔族の有力者との交渉が比較的早期に持つことができた。結果、7魔公国ができた。全魔界を統治するほどではないが、人間、亜人との境界付近を領有し、人間、亜人の世界の楯のような役割を担う。さらに、その魔公国を支援し、監視する役割を持った公国、都市を作る必要があった。それは、魔族が占領していた人間達の都市、村々、地域を魔族から返還させたところを中心に作ることになった。魔界に近い国々も、領地が欲しくないわけではないが、それ程豊かな地域ではなく、そのような面倒な役割を担いたくなかった。何故か、オズワルドは、その小公国の一つをまかされることになったのである。母国のバックアップはもちろん、楯代わりになって貰って助かる諸国も支援する約束も取り交わされた。とはいっても、辺境の地である。ちなみに、ヒカルもオズワルド同様な立場となった。しかし、彼は、もう既に、その生活を楽しんでいるが。魔公国を統治する魔大公の有力候補でありながら、それを捨ててきた魔族の女貴族が、彼に挑んで破れ捕虜になった魔王の親衛隊幹部の女騎士と、彼を挟んで睨み合っている。その間に、政争に破れ魔界に逃れて来ていたハイエルフの王女とオーガの若い未亡人でもある女公爵が、どちらも退かずに、彼の傍から離れない。

「いや~、困ったものですよ。」

 完全に楽しんでいる!とオズワルドとメリーウェザーは、確信していた。その彼に、ヨシツネがともに残った、彼の副官として。彼は、組織の中での気配りというか、政治的な関係は苦手らしかったし、色々と彼自身、ヤマトでは何かと難しい立場に立っていたらしい。それは、ヒカルも同様だったが。ヨシツネも、こういうゼロから始めなければならないところの方が、性に合っていたらしい。戦争馬鹿のように思える印象だが、行政手腕もあるので、彼の下では治安も、民政もたちまち安定させ、住民からの信頼も得てしまった。ヒカルとのコンビは最高だった。魔界のハイエルフ(いわゆるハイエルフは、そのことは認めず、ダークエルフの中に分類しているが)、純血ではないが、や魔族の純血ではない女騎士、魔族の血が入った人間の女騎士やハイエルフ以外の色々なハーフエルフが、彼の傍から離れずにいるようになっていた。彼は、彼女達とともに戦い、仕事をし、彼女達に押し倒さた。常に、周囲の女達に優しく接して、気を配るヒカルとは異なり、クールに接して、言葉も少ないし、気配りをしていないようだが、実際は彼女達のことは大切に扱っていた。トモエ、コダテ、ムサシは、属する組織もあり帰って行った。トモエは、未練と心配でいっぱいだったが。こちらに戻って来そうな顔だったが、これを見たらどうするのだろうか?とメリーウェザーは心配になったりもする。他の勇者達は、全員、母国に帰って行った。

 オズワルドとメリーウェザーは、魔界の近くでその脅威に常に晒されていた都市や魔族に支配されていた都市、その周辺の村々、さらに元々魔界にあったが人間が多くいた都市などが、その領地となったので、その掌握で日々を過ごさざるを得なかった。アランが連れて来た将兵の一部が、彼らのため残留していたが、2人の使用人、家臣達が本国から到着するのと交代に撤収していった。現地でも、雇い入れた使用人、家臣達もある程度の数に達していたこともある。しかし、人手不足状態である。グロリアとグリコは、残留者を望んだが、連絡、報告のため、ついでに頼みごとをして、一時的ということで帰国させた。

 戻ってきたら、各公国、魔界の公国を管轄とした聖女、賢者となってもらうことになっている。各公国の同意も既に得ていた。

「聖女、賢者がいると心強い。各公国1人づつは無理であろうから、全体を管轄する方がいて欲しい。ご意志のある方がおられるとのことで歓迎する。」

 ヒカルがバックアップしてくれたのであっさり決まった。ブショウも帰国前に、積極的に必要性を言って回ったことも影響があった。十分な大役ではあるから、2人も、満足してくれるだろう、少なくとも当分の間は。その後は、メリーウェザー達が、慰めていかなければならないだろう。

「そうなると、ここにずっといるわけ?まるで流刑ね。」

「う~ん。」

 メリーウェザーの問いに、オズワルドは唸った。その通りだと思った。破滅パターンの中で一番ましなパターンではあるが。

「でも、こういうのであればいいかも。こういうところで開発を進めるのも、嫌ではないわよ、私は。それに、」

 メリーウェザーは続けた。

「お兄ちゃんと一緒なら、何処でも幸せよ。」

 抱きついてきた。

「僕もだよ。」

 優しく抱き締めた。すると鼻を鳴らして、すり寄ってきた彼女に彼は耐え切れなくなってしまった。櫓の最上階で2人は下半身を裸になっていた。


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