第39話 魔王との決戦に、何故私がいるのよ!

 後方で、何人かの聖女や賢者が、参加した諸国の一部にしか聖女、この戦いに役立つレベルの聖女が、はいなかった、軍を支援した。それも、コーウの魔法とぶつかりあっていた。グロリアとグリコは勇者達と共にあって、自分の力を発揮した。

“だから、私達はいらないわよね~。でも、なんでいるの、ここに。”メリーウェザーは、心の中で泣いていた。それでも、

「タケチ様、ムサシ様!危ない!」

と叫んで、2人の後ろから無効化魔法を発動していた。自分以外に、かつ、ある程度の範囲に展開出来るようになっていた。

「プランタン!」

と叫んで、自国の女騎士の前に立って、魔剣の攻撃を食い止めた。

「オズワルド殿。助かりました。」

 ヒカルが感謝の言葉を口にした。

「かたじけない!後は任せて!」

「感謝する。貴方は後ろに!」

 クロランドが、何とアテナも声に出して、オズワルドの回復魔法に礼を言った。 

「私達、一体何をしているのよ~?」

「う~ん?」

 いつの間にか、互いに背中合わせになりながら、魔族相手に必死に戦っていた、というよりは身を守っていた。

 魔族兵の剣、槍、矢そして魔法攻撃をメリーウェザーが、無効化魔法で防ぐ。オズワルドは、その彼女に回復魔法や強化魔法やらで支援する。相手が攻めあぐんで、その攻撃が止まった所を見計らって、オズワルドが火球を速射、連発、斉射する。それによりできた隙を突くようにして、二人がかりで、二振りの聖剣で斬る、突く、斬撃を放つ、光魔法やらを放つを繰り返していた。何人かは倒した、その倍くらいは傷ついて退けたが、まだまだ周りには魔族兵がいた。それは、確か、魔王城突入4日目だった。本丸に勇者達と共に突入(しなければ良かったのだが、引っ張られるように、“共に生きて帰りましょう”と言われたら“待ってます”などとは言えなかったのだ)、この先に魔王がいるという所で、2人で声を合わせて、

「勇者様方、ここは私達に委せて、魔王を!」

(言わなければ良かったわ~!)(同感だ!)

 二人は、自分の“過去”を想い出して、激しく後悔した。周囲に助けてくれる連中はいるはずだが、目の前の魔族兵達の相手で見てられなかった。なのに、ヒカルの姿だけが目に映った。かなり高位の魔族の女騎士が、ヒカル目がけて、黒い光(?)の球を、小さな稲妻⚡を発している、を放った。かなりの魔力を使っている、彼女はかなり消耗しているのが、何となく分かった。ヒカルを良き敵と見ているように感じられた、その表情から。ヒカルはというと、剣を抜いて戦いながら、両腕につけた鈴の腕輪をならしながら、謳いながら、そして踊っていた。踊りながら、剣で魔族の剣や槍を受け止め、矢を叩き落とし、魔法攻撃を払っていた。滑稽にも見えたが、そうやって魔族兵達を、彼は退けていた。踊り続けることで勇者達をコーウの魔法から守り、力を与えているのだ。その彼に向かって放たれた雷雲?を、メリーウェザーが無効化魔法でとらえたが、多少の威力が落ちただけでヒカルに迫った。距離があり過ぎ、疲れて、効果があまりにも落ちてしまったのだ。あとは、自分らの危機を凌ぐので精一杯ではあったが、ヒカルに

「危ない!」

と二人は叫んだ。ヒカルは、ニコリと二人に向かって微笑むと、この表情も踊り、謳い、演奏と関係するとのことだった(後で説明してくれたところによると)、雷雲?を足で受け止め、踊りながら、その雷雲?を蹴鞠の鞠のようにポンポンと蹴っては受けを繰り返し始めた。それは、見事に踊りの流れの中で調和していた。

「この…、馬鹿にしおって!」

 女魔族騎士は、怒り、それと感嘆の表情を浮かべてながら、第二弾を放った。最初のよりかなり威力が劣っているようだったが、直撃したら完全にヤバイと分かるものだった。もう、メリーウェザーには、申し訳程度の無効化魔法もヒカルのために展開することが出来なかった。力も、余裕もなかった。しかし、ヒカルはそれをも受け止めた。お手玉のように、足で二つの雷雲?を蹴鞠し始めた。流石に、女魔族騎士も、他の周囲の魔族兵達も感嘆?呆れて?動きがしばしが止まった。そして、その二つの雷雲?をポ~ンと、本当に軽くポ~ンと、返すよ~というように、蹴り返した。女魔族騎士の右側の少し離れたところに落ち、それは炸裂した。周囲の魔族兵、そして、魔族女騎士も、その衝撃で倒れた。女魔族騎士は、かなりのダメージを受けているようだが、よろよろと立ち上がった。まだ、戦う気満々だった。このまま彼女が退けば魔族兵の大半が四散するように思われた、何となくだが。逃げ腰になっていた魔族兵も気を取り直して、こちらに向かって身構えた。かなり減ったが、半分以上の魔族兵が戦える状態だった。そして、こちらにも後続の将兵が駆けて来るのと同様、魔族の側も加わってきている。兵力差はかなり縮まってはきたが、まだ魔族側が圧倒的だった。“まずいよ~!”その時、

「魔王を倒した!」

との声が頭の中に響き渡った。それは魔族の側にも届いたのだろう。或いは、魔族側の悲痛な叫びの言霊の魔法が飛び交ったのかもしれない。初めはじりじりと、次第にはっきりとあてず去りし、最後は我先にと背を向けて走り始めた。女魔族騎士だけは、その中にあっても動かなかった。ヒカルが素早く動いた。彼女には避ける力は残っていないようだった。いや、もはやこれまでと思い、魔王或いはコーウに殉ずることを望み、自分が認めた相手の手で倒されるのを望んだだけだったのかもしれない。ヒカルの拳が、彼女の体にめり込んだ。彼女は、仰向けに、ゆっくりと倒れた。ヒカルは優しく彼女の頬を、跪いて撫でた。オズワルドとメリーウェザーは、魔王兵が、周囲にいないことを確認してから、そのまま、崩れるように、その場に座りこんでいた。

「私達生きているんだよ~。」

「何とか…だな。なんか実感しないな。」

「今夜確認すればいいよ。」

「そうだな。」

 2人は手を握った。

「オズワルド様!奥様!」

「メリーウェザー様!」 

 サン・スルリ達が駆けよってきた。

「ご無事で安心いたしました。」

 返り血や自身の血で、汚れた姿で平伏していた。

「皆無事か?」

「まず、自分のことを優先なさい。」

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