第38話 魔王城を攻略…安全なところにいたいのに、先頭に
「誰が推薦したのか。」
オズワルドは頭を掻いていた。安全な後方にいたい、もう十分戦ったのだから、と言いたかったが、魔王城攻略戦の先頭に、勇者達と共に立っていた、2人は。
「お二人がいてくれて心強い。」
とのクロランドの言葉に、“そんなこと言われても!”とオズワルドも、メリーウェザーも心のそこで絶叫していた。
「勇者様とともに、最前線で戦える名誉を与えられ、光栄です。」
連合軍のお歴々の前で、心にも無い見栄をはってしまったというより、言わざるを得なかった。
「妻として、夫とともに戦います。」
メリーウェザーも進み出てくる。止めたい気持ちと1人だけで死にたくない、また別れてしまう
寂しさは耐えられないという身勝手な思いが交差した。それは、メリーウェザーも似たようなものだった。“もう、お兄ちゃんを手放さない!”勢いづいて、サンスルリ達も、
「我々も!」
グロリアとグリコも、次期聖女、賢者のそばにいれば安全なのに、随行を名乗り出る始末。
「兄上。メ…、義姉上。ご無事で。」
アランはというと、心から心配し、危険な目に会わせたくないのにという顔だった。何とかは出来ただろうが、誰かが手をまわしていると、オズワルドはみた。過剰なアランへの忠誠心か、それならいいが、それ以外の策略ならアランを心配してやらなければならない、オズワルドは心配は一応はした。とはいえ、国の威信のためには勇者がいない以上、オズワルドが勇者と肩を並べて戦うことは、必要ではあった。それは現実の判断としては、正しいと言える。
「本当にお二人が来て、心強いですよ。」
ヨシツネは嬉しそうに言った。困ったくらいに、嘘や世辞の言えない彼の言葉は嬉しくはあった。それ以上に迷惑だったが。
「私も、ヨシツネ様のそばにいれて幸せ!」
「駄目ですよ。亭主持ちは、そんなに近づいては。」
トモエが、笑って割って入る。この時は目は笑っている。
「じゃあ、私はいいわよね。」
と言ってすり寄るフレイアや黙って、いつの間にか近くに立っているアテナには、こめかみをピクピクさせながら微笑んでいた。もちろん目は、笑っていない。ヨシツネは、自分の周囲のことには、全く気がついていなかった。
「ヒカル様は?」
ふと気がつくと、ヒカルがいないことに気がついたメリーウェザーが誰ともなく、質問の声を上げた。
「王侯貴族奥方や令嬢、女騎士や女将軍から、もみくちゃにされていますよ。」
ムサシが、いつの間にか背に立っていた。批判する感じは無かった。
「あれでも、立派な情報の収集なんですよ。」
半平太が、静かに言った。
「でも、あの旦那はそれも楽しんでいるようだよ。」
割って入ってきたのは、シンドバッド兄だった。
「それだけではないぞ。武勇についても、我が国の騎士達も、あの方には好感を持っている。」
クロランドも加わってきた。騎士そのものの、そのクロランドが表情を曇らせた。視線の方向を見ると、ヒョウセン、ロフの脳筋兄妹を従えたブショウが、これまた、いつの間にか立っていた。
「男にも女にも、文武のどちらの士にも、好感を持たれるお方だ。ロフとは相撲は取るし、詩を王侯貴族の方々と交換したりと…。邪魔で殺したくなるような方だ。」
「共に肩を並べて戦いたいとか、良き国作りをしたいとか、楽器を奏でたいとか思わないのですか?」
クロランドは、如何にも不快だというように言った。ブショウは、小さく笑って、
「天に二つの太陽はあり得ないということさ。」
「ブショウ様は、違う言い方で、あの方を高く評価しているのですよ。」
オズワルドは、2人を取りなすように言った。
「好敵手として認めているということですよ。」
さらに、シンドバッド兄が補足した。クロランドは、仕方がないという顔で、
「確かにそういう言い方もあるかもしれませんね。」
と自ら折れた。
そんな話をしていたのは、前日のことだった。翌日の戦いを前にした不安を忘れるための軽口を誰もがしていたのだ。ヤマト国、1000名の兵の鉄砲、大砲が一斉に火を噴いた。続いて、各国軍の投石器、大型弩などから石や燃焼玉が放たれ、石弓、長弓兵が矢を放った。さらに、魔道士、魔法使いなどが、詠唱を唱えて、魔法攻撃をかける。魔法を使える人間が少なく、聖剣などの聖具、魔法石などのあまりない、また、ドアーフなど特殊な魔法道具を作る種族のいないヤマト国では、人間の細工品があらゆる分野で発展していた。ただし、幕末の後装填ライフル単発銃の水準では、魔法攻撃や聖剣などの兵器、エルフの矢とかというものの中では、かなりの威力を示すと言っても、決して決定的なものではない。また、人間、亜人が区別なく交わっている社会のため、特別に身体能力の高い人間が多い。また、聖剣に近いものを生み出す名工も多い。しかし、勇者は現れず、神が与える、ドワーフ達が生み出す聖剣、魔剣の類いとは異なるもので、決して対抗できるものではない。
それらの援護の下で、移動式櫓、雲梯車などを中心に将兵が魔王城の城壁に取り付くが、魔王城の城壁からは、攻撃側と同様な攻撃的がかえってくる、ただし鉄砲の類いはないが。
破壊槌や亀甲車が、作った割れ目に、長い詠唱を唱えていたフレイアの特大の衝撃魔方陣が放たれた。轟音とともに、はっきりとした割れ目が出来た。その時、歌い踊る声が聞こえてきた。
コームの魔法が発動されたのだ。祭壇を設けて、歌い踊ることで発動する類いのものだ。敵側の力を削ぎ、味方の力を高める魔法だとすぐ分かった。ヒカルが、琵琶を奏でながら、歌い、踊り始めた。コームの魔法が中和するように、消えていくのが分かった。
「勇者の方々、早く進んで下さい。こちらは、時間も、範囲も限界があります、時間がたてば押し負けます!」
勇者達、それに続く者達は、その言葉を聞いて、前へ進んだ。
“て?何で私まで、前に前にと行ってるんだ?”“何で、お兄ちゃんが先頭にいるのよ?それより、そもそも、何で私が先頭にいるのよ!”
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