第37話 迷惑な忠義だては止めてくださいまし!

 攻撃を加えてきた魔王軍を撃退した翌日に、各国軍の本隊が次々到着した。

「兄上。ご武勇聞き及んでいます。メリー…、義姉上のご活躍も、もちろん国中で持ちきりですよ。」

 アランが、パリア聖王国軍の総大将としてやって来た。王太子としての初陣を、華々しく飾るのにはうってつけである。

 ちなみに、メリーウェザーの活躍は、尾ひれをつけて、面白おかしくも、大活躍ぶりが国中の話題になっていた。オズワルドのそれはついでで地味だったが、軍人関係ではかなり評判だった。

「何か、私は付け足しのようですわね。」

 睨みつけたが、直ぐに表情を緩めて、

「セイ、…王太子妃様はお元気?」

「ええ、元気ですよ。こちらにこれなくて、残念がっていましたよ、メリーウェザー、あなたに会えなくて。」

 アランは、穏やかに微笑んでいた。“仲は良いようね。”オズワルドはというと、アランに丁重に頭を下げ、状況を簡単に説明した。これからは、実際の戦闘はともかく、他国との関係は、アラン王太子と彼とともに来た将軍達や外交官達が主役になる。

「オズワルド様やメリーウェザー様が、どれほど、ご活躍なされたか。それを、まるで後から来て、自分がやったように。」

「お二人があまりに報われないのを見ていると、悔しいです。」

 グロリアとグリコが、不満を露わにして、吐き捨てるようにつぶやいた。2人の不満は、次期聖女や次期賢者が自分達とは、天地以上に違う待遇で、アラン王太子に従っているのを見て、自分が受けた待遇との差に不満を持ったことで、彼らへの義憤がわきおこったのだ。

“迷惑なことはやめてよ。”

 この2人が何かしでかしたら、と思うと怖くなった。実際、2人が「本当の」聖女や賢者に対する陰謀を巡らして処刑されるシナリオもあるからだ。しかも、裏で操るのは、オズワルドだったり、メリーだったりするのである。もちろん、そのシナリオでは、2人もまた処刑されているのである。もし、2人が暴発したら、関係からいってオズワルドとメリーウェザーにも累が及ぶ。2人が全く知らないことであり、野心もなかったことが分かっていたとしても、2人の罪をいいたてる者達はいるのである。アランやセイだって、自らの地位を守ることを考えれば、どう判断するか分かったものではない。

「アランは、その決断を下すくらいの冷酷な聡明さはあるだろうな。セイは絶対あるな。」

 オズワルドの言葉に、メリーウェザーは思わず震えた。“確かに、ヒロイン達は冷酷に復讐しているわよね。”を思い出した。

 2人は、グロリアとグリコに王太子夫妻との良好な関係にあることと国への忠誠心やらを説明してから、メリーウェザーが悪女と優しいお姉様の顔を交互に使い分けて、

「お二人には、ずっと傍にいて欲しいですわ。ねえ、あなた、どうにかなりませんの?」

と我が儘を言うように、傍らのオズワルドに言うと、

「気持ちは分かるが、2人に相応しい地位とかを考えると…う~ん、やはり王都や少なくとも本国で…。」

と悩む風に考え込む。

「何とか、考えなさい!」

と叱咤する。それには流石に、2人から、

「奥様。ご主人を責めないで下さい。」

「僕は、お二人の傍なら、地位とかは関係ないありません。」

「そ…そうです、私もです。」

と慌てて言ってきた。メリーウェザーは、その自分達を慕ってくれるような言葉に少し嬉しそうな頬笑みを浮かべながら、心の中で、“やったわ!”と大笑いしていた。

「お前達は、本~当に詐欺師だよな。」

 どこからともなく現れたブショウが、笑いながら言った。彼女に親しげに話かけられるのは、はっきり言って、怖いし、迷惑だったが、そんな顔は出来ない。

「それはあまりにも、酷い言い方ですな。妻はどちらかと言うと、人がよすぎる方で、いつも心配しているのですが。」

「何ですの、善人だとどうしていけないのですの?それに、頭に馬鹿がつくのは、ご主人様の方では?」

 三文芝居は、彼女には通じないが誰かが聴いているかもしれないので、打ち消消す言葉を聴かせないといけない。

「フン!」

と鼻で笑った彼女は、

「誰も周囲にはおらん。」

“見透かしているか。”“お見通しね

。”と思ったが、表情を何とか変えずに堪えた。

「我は、お前達を評価しておるのだ。お前達のような片腕が欲しいくらいにな。それはそうとしてだ、一つ知恵を貸そう、いや、今回は無料だ。」

 つい、彼女らしからぬ、最後の言葉に噴き出してしまった。

「お前達には、僅かなりとも、恩賞があろう。お前達が興味はなくとも、辞退したいと思っても、少しは与えなければ、国の威信に関わる、それだけのことをしておるのだからな。そこにあの2人の場所を作ってやれ。お前達がこれで我慢している、それが自分に与えられていると思えば、不満も和らぐ、さらにお前達の傍ならば喜んで、不満も不満としないだろうさ。後は、自分で考えろ。」

 彼女は、そう言って背を向けて行ってしまった。

「妹と弟にするか。」

 オズワルドが言うと、その意味を察して、

「弟モドキに妹モドキよ、あくまでも。妹が唯一無二、それは私ですからね、お兄ちゃん!」

 そう言うと、力一杯きつく腕を組んだ。オズワルドは、負けじと力を入れながら、

「問題はその段取りと何を貰って、それを与えるかだが…。」

 彼らが暴発させないように、そして、自分達2人にあらぬ疑いをかけられないようにしないと、彼は思い悩んだ。



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