第36話 光源氏対武則天…怖い…
「いや、ブショウ様、それは出来かねます。」
オズワルドは、少し身を強ばらせながらも、ブショウの要求を拒否した。彼女が、彼が本国に書き送っている手紙を見せろと、会合が終わった後、彼を呼び止めて要求してきたのだ。公式な報告は、彼付きの書記官が行っている。それは彼も見ることは出来ない。その一方で、彼はまめに私的な手紙として、主に母エカテリーナと妹達、そしてアラン王太子宛にである。2人から、父国王に内容が伝えられることを前提にした上でのことだ。ついでに、王妃エリザベスにも伝えられることも見越している。形式を問わない、自由な報告の性格もある。
「私的なものですし、私が書き綴っているのは。」
「だからこそだ。公式な報告を未対応と謂うのではない。私的な手紙を見たいと言っているのだ。疑うわけではないが、あなたが虚偽を書いてないか確認したいのだよ。」
彼女に睨まれては、動揺を抑えるだけでやっとだった。何故、オズワルドだけに言ってきたのか。“私が、勇者でもなく、勇者のチームの一員ですらないからか。”野心家臭がプンプンの彼女は、自分達の活躍ぶりが喧伝されることを強く望んでいる。その名声を梃にしたいと考えているはずだった。勇者ヒョウセンとそれに次ぐロフの脳筋妹兄は、上手く利用できる。平時の忠臣ソウは、正確な報告しかしないだろから、他国の評判を利用可能したいと考えているのは確かではある。ただし、よほどの馬鹿でない限り応じるはずがないのは、誰でも分かることだ。“さっきの会合の恨みかな、やっぱり?”
「ご心配いりませんよ。ブショウ様。」
メリーウェザーが助けに入った。
「この人は、お義母様に小遣いをせびることしか書きませんから。」
「それはないだろう。」
「あら、違うのかしら?」
しかし、それを眺めていたブショウは、軽蔑するような顔になり、
「そんなつまらない芝居に誤魔化されない、我は。」
メリーウェザーは、いつもの優しい笑顔から、悪役顔に変わった。
「分かっちゃいましたか?」
しかし、ブショウに睨まれると、“怖い!”と逃げ出すのを堪えるのでやっとだった。
その時、“騎兵隊”が現れた。ヒカルだった。
「ブショウ様。お戯れはみっともないですよ。」
「戯れ?いいでしょう、先ほどの件、どうしても納得出来ないので、ここでお話しさせていただきます。」
対峙する2人の間から、凄い威圧感が感じられた。“:怖い!”2人は同時に心の中で叫んでいた。思わず両手を握りあうくらいに、2人の波動は凄かった。これは、救い出した先代魔王の養女の取り扱いを巡っての対立からだった。超頭の固い勇者アテナは、即処刑論を唱えた。オズワルドは、驚いて反対した。敵対しておらず、戦力のないの相手を殺すのは、義に反するし、悪戯に魔界の団結を強めることになり、得策ではないと訴えた。アテナは、魔族に殺された人々の無念を無視するのかと迫り、オズワルドは彼女は直接関係ないし、今後のことも考えるべきだ、と反論した。アテナは一時、剣を抜かんばかりだったが、騎士道の固まりのような勇者クロランドがオズワルドを支持し、
「そういう殺し方って、後味が悪いわよね。」
と勇者フレイアが口を挟んで、アテナは怒り心頭というところだったが、頃合いを見計らったディオニュソスの取りなしで鉾を収めた。この後、彼女を先頭に立たせようというブショウの提案が出たが、オズワルドは反対した。こちらは、かなり追い込まれたが、ヒカルがオズワルドに賛成の発言をして、一気にブショウの提案は没になった。勇者アテナは、会合が終わった直後、歩み寄って来て、
「少し頭が熱くなりすぎていた。すまなかった。」
と頭を下げることなく、謝罪した。驚くオズワルドに、小声で、
「何時か、ゆっくり話しがしたいな。」
その後、メリーウェザーに、しっかりとつねられた。
ブショウは、それを蒸し返してきたのだ。長いような、短いようなやり取りが、2人の間で行われた。ブショウは、彼女の名で魔族の中の反魔王派を糾合させ、彼らを戦いの先頭にたたせるべきだと言い、ヒカルが言うように、彼女自身、彼女の名にさほどの影響力がなければ処刑してしまっても大した損失もないし、あくまで、魔族の大物、魔王に連なる者としての処刑なら、かえって味方の士気が上がると声はあらげなかったが、強圧的な調子で主張した。ヒカルは、終始、一見穏やかに、しかし、断固とした調子で、少数でも彼女に集う者はいるし、いざ処刑すれば魔族の中での反発は大きくなるだろうこと、魔王を倒した後の和平の相手として彼女を丁重に、彼女に集う者達を温存することが、その彼女の地位を守る地盤を固めると主張した。激しく対立が続くと思われたが、突然、ブショウの方が、
「ヒカル殿。あなたの主張はもっともだ。失礼をした。」
と突然、自分の主張を撤回した。
「オズワルド王子殿下ご夫妻にも失礼した。申し訳ない。」
頭は下げることはなかったが、ニッコリ笑ってから背を向けて行ってしまった。
「でも、何故?突然納得したのかしら?」
メリーウェザーは首をひねった。オズワルドの方に助けを求めるように視線を向けると、“私に振らないでくれ。”という表情を浮かべた。それど持って2人の視線は、自然にヒカルの方に移動した。彼は、男ですら魅惑する微笑みを浮かべて、
「私にも分かりませんよ。」
と言いつつ、
「しかし」
と続けた。
「私が思うに、彼女も最初からオズワルド殿の考えに同意していたのでしょう。ただ、あくまでも彼女が同意したから、と言う事実を作りたかったのかも知れませんな。」
2人が、“何故?”という顔なのを見て、
「彼女は野心家です。今回のことで、功績や影響力の大きさをより大きくさせたいのでしょう。彼女が、オズワルド殿の意見を後見している形にも見えるでしょう?」
“そうかな?”という2人の顔を見て、ヒカルはおかしそうに笑ってから、
「ブショウ殿は、オズワルド王子ご夫妻を高く評価したようですよ。気に入ったと言った方が良いかもしれませんが。彼女相手に、一歩も退かなかったんですからね。」
“止めてくれよ!”“止めて~!”と心の中で叫ぶ2人だった。
しかし、ヒカルの言葉通りに、翌日からブショウは、親しげに、かつ、頻繁に2人に声をかけるようになった。ソウが、同情するように、それを見ていた。
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