第35話 やっぱり孔明様に刃を向けることになりましたわ

「まあ、ある意味、オウジョは賢い女だったということですわね。」

 メリーウェザーが溜息をついたのは、魔界に進み、初めて落とした城、コウオウ城でルルゴー・モアの話しを聞いた時だった。彼女はこの城に幽閉されていたのだ。長い金髪をそのまま下に下ろした褐色の肌の、小柄な美人の彼女は先代の魔王の養女だった。王妃の親戚だった。彼女の養父は、孔明ことコームの謀略で魔王の座を玄徳ことゲーンに禅譲させられたのである。

 魔界統一まで後少しのところまで行ったギイ帝国は4代皇帝没後、次々に即位した皇帝が若死にして、10年の間に4人が即位するという異常事態の末、後継者がいなくなり、一族の遠い血筋の者を前皇帝の養子として即位させた。その頃、代々の皇帝から文武ともに重用されていたカベージョがぼけてしまった。皇帝擁立の立役者は専制を行ったが、10年後、実は世を騙して、好機を窺っていたカベージョがクーデターを起こし、皇帝もろとも葬ってしまった。それにより即位したのが彼女の養父であり、初代皇帝の末っ子の孫に当たるので先代より、はるかに血筋からいって相応しかったが、当時15歳に過ぎず、カベージョの完全な後見をうけての即位であり、傀儡とも言われていた。この皇帝は、カベージョを父のようにしたい、既に父は亡く、母からそのように言われたのだが、関係は最後まで良かった。しかし、女運は悪く、最初の皇后は彼を暗殺しようとし、その後の皇后達も敵を引き入れるまでやらかし、悩んだカベージョは5人目からは自分の娘、孫娘を皇后にたてたが、これまた、何を勘違いしたのか、父のため、祖父のために皇帝の暗殺を図る事態となった。皇帝は、自分のわがままで離婚したという形にしたのだが、カベージョは自害しようと考えるところまで悩んだ。その時、当時13歳の彼の双子の娘が名乗り出た。20歳離れた彼女達はよく皇帝に仕え、ようやく皇帝は女運の悪さから解放され、カベージョと上手くやって、彼の代で魔界統一が達成された。カベージョ自身は、傀儡にしているという意識はなかったが、子供達はそうではなかった。とはいえ、彼の亡き後も10年以上彼の帝位は揺るがなかった。それがある日、朝起きると妻も含めて、周囲には誰もいなくなっていた。それでも数日以内は頑張ったが、再開した皇后達から、愛妻達から、騙された、幸せではなかった、苦痛だったと罵られ、遂に屈服して、禅譲した。彼には辺境の小さな地域が温情として与えられた。ただ、幸いなことに皇后達や古参の親衛隊員達が彼に加わった。

「何故、あの時、あんなことを。」

 皇后達はそれについて死ぬまで悩んだ、夫は、責めることはなかったのだが。彼女達は後悔を姪である彼女に言ったという。

「禅譲相手がゲーンで、お膳立てをしたのが、コームと言うわけ?

ゲーンはあなたの養父や伯母でもある養母の一族なの?」

「全然、違うの。いつの間にか入ってきていたのよ、そう養母達は、言っていたわ。コームとその妻のオウジョにいつの間にか、操られていたそうよ。」

“そういう意味でここでは頭のいい女、貞女だったわけね。”

 数年後、慕う者達が次々に移住先して来るようになったが、2人の妻が移住後数年で死んだ。50に手が届こうという年齢だったが、30代半ばにしか見えなかったという。それが突然この世を去った。彼女の一族の影響力を恐れての暗殺ではなかったかとも噂された。数日前、オウジョが魔都に帰らないかと呼び戻しの使者としてやって来たという。2人ははっきりと断った。オウジョは、そのまま帰ったのだが、疑わしかった。残った元魔王は、2人を喪いひどく気落ちしたものの、2人が引き取り養女にした遠縁の少女の養育に生きがいを見つけたが、3年後に、これまた突然亡くなった。一時間前まで元気だったのにである。この時も、オウジョが突然来訪した、彼の死の直前だった。これも疑わしいことだった。そして数年後、昨日まで忠義な家臣達が突然彼女を幽閉した。副魔王の1人が、この領地の主となり、砦を作り、そのまま幽閉され続けることになったという。もちろん、この土地は没収され、彼女は反乱者の嫌疑で幽閉されたということになっている。2年近く前のことである。

 そして、勇者達と彼らを支援する軍が姿を現したというわけだ。

「それで、あのオウジョは、どんな姿だったの?見栄えのしない小太りのおばさん姿だったの?」

 メリーは、好奇心満々で、前のめるくらいになって尋ねた。彼女は、憎々しげに、

「妖艶な美人だったわ。死んだって言うけど、どんなだったの?」

 メリーが事細かに説明すると、

「正体はそんなだったの?」

 如何にも愉快そうに笑った。

 戦いは、思いの他上手くいった。どうも、大軍を集めてから進行して来ると考え、まだ先のことと思っていたらしい。更に、一度は裏切った家臣達が、何故か悔い改めて、副魔王に造反し、彼女を助けようと決起したことも要因だった。事前にヨシツネ達が十分に偵察していたことも大きかった。

「オズワルド殿。貴国の聖女殿も賢者殿にも、大いに助けられましたよ。」

 ヨシツネが、攻城戦直前に彼にそっと言ったくれた。礼儀正しく、思いやりのある男だったが、もちろん言葉の使い方も心得ているがる。他方、社交辞令のお世辞は上手くないし、あまり言わない。それを心得ているが、好きではないのだ。2人が、本来得意としている魔法を応用して、内部や外部のざっくりとした状況の把握や補給路に結界を張るなどの工作、砦の一部にひびやら通路の移動を邪魔する結界を張ったなどを、わがことのように嬉しそうに語った。“義経のイメージだな、これが。”と微笑ましく思えたオズワルドとメリーウェザーだった。

 このようなこともあり、攻城兵器は不足気味ではあったが、また、フレイアが後方から、周囲を守られながら、かなり長い詠唱の後、特大の火球と雷電球を放って、城壁のかなりの部分が崩れたこともあり、一気に

「各々方、今が攻め時ですぞ!」

ムサシの言葉に総攻撃に移った。

「大丈夫ですか?勇者フレイア様?本当に凄かったですわ。」

 膨大な魔力を消耗しつ、さすがに疲れ果て、地面に座りこんだフレイアひメリーウェザーが声をかけた。彼女も、地面に腰が抜けたように座りこんだいた。

「あなたこそ、無理しすぎよ。でも、助けられたわ。礼を言います。」

 あれだけの魔力を発動している

いると、相手にも察知される。魔法での狙撃をされると、あのような状態ではフレイアとて危ない。だから、守っていたわけだが、メリーウェザーも加わって、それどころか、フレイアの前に立った。案の定、気がついた奴がいて、狙撃してきた。無効化魔法で、無効化したのだが、かなりダメージを受けた。防御障壁を避けて、かなりの長距離で、急いで放ったので、何とかなったと言うところだろう。

「全く…、でもよくやった。」

「もっと褒めてほしいですわ!」

 オズワルドに回復魔法をかけてもらいながら、噛みついた。フレイアは、聖女見習いに回復魔法をかけてもらいながら、笑っていた。

 砦を陥落させた後、オズワルドとメリーウェザーは、聖女見習いと賢者見習いに、ヨシツネの言葉を伝えた上で、激賞し、かつ、増長しないように、暗に、やんわりと諭した。“こいつらを使って、あるいはこいつらの暴走に巻き込まれて、破滅するパターンもあったのよね。”

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