第33話 ピンチですわ!ところで、それは浮気ですわ!

 結界が少女の周囲に張り巡らされた。防御結界の応用だった。賢者見習いとオズワルド、メリーウェザーとで考えたもので、3人の協力によるものだった。しかし、簡単に壊される。しかし、直ぐに再生され、強化される。別の種類の結界が張られた。聖女見習いと2人が考えた結界の強化と彼女ならではの防御結界だった。それも長くは持たなかった。残忍な、笑いを浮かべて一歩を踏み出した。ところが、彼女は倒れた。足下に小さな、転ばせるのにちょうどいい結界を作っていたのである。

「この虫けらが!」

 怒りの形相で起ち上がり、大火球を放とうとした。それが手元を離れる瞬間、弾けてしまった。少しばかり、彼女のほうに火の粉があたった。どうしてという顔をしたが、直ぐに原因が分かった。小さな防御結界が張られていたのだ。小さいだけに、力が集約されていたから、火球を弾けさせることが出来たのだ。

 彼女が怯んだと見て、サンスベール以下が斬り込んだ。彼女から、黒い光の腕のようなものがいくつも現れた。全ての手に剣が握られていた。オズワルドも、メリーウェザーも加わるが、圧倒された。なんとか防戦でやっとだった。メリーウェザーの無効化魔法とオズワルドの火球攻撃、オズワルドの無効化魔法への支援で何とか踏みとどまったが、皆が次々倒れていく。彼女の全力の力の巨大な光の斧が振り下ろされようとした。メリーウェザーはオズワルドに抱きついた。無効化魔法を渾身の力で、二人の協力で最大限に高めたが、持ち堪えられないと思った。最早これまでと覚悟した時、彼女の攻撃が止まった。ヨシツネが、飛んできたのだ。彼の聖剣ムラマサが、光の斧を受け止めた。押されたがヨシツネは持ち堪えた。そのうち、銃声が数発聞こえた。抱え筒の轟音が聞こえてきた。鐘の演奏が聞こえてきた。

「く!」

 形勢不利と見て離脱しようとした彼女の前に、大薙刀が襲った。彼女の黒い光の腕二本の手が持つ剣がそれを受け止める。オズワルドやサンスベールが挑戦して、何とか持ち上げられただけという代物だ。素早い大薙刀の動きに、彼女の黒い腕の持つ剣が何合も斬り結んだ。そして、何とか持ち堪えている内に、勇者クロランドが立ち塞がった。

 勇者クロランドを前にして、彼女は黒い光を体に纏うようにして、自らの手で剣を握った。その剣は電光を発するようにすら見えた。クロランドは、恐れることなく、斬り込んだ。彼女の聖剣が電光を纏う魔剣とぶつかり合った。クロランドの剣技は、相手を上回っているのが分かった。押され始めた相手は、距離を取ろうとした。魔法での攻撃にもって行こうとしたのだろう。しかし、クロランドはそうはさせなかった。遂に、0距離の魔法攻撃を始めた。自分にもダメージがくるが、相手に与える打撃は大きいし、命中率も高い。矢継ぎ早にそれを連発するのは、至難な技だが、その魔族は難なくそれを行った。しかし、どうしても魔法攻撃を放った後、一瞬出来る隙をつかれる可能性も高くなる。クロランドは、彼女の攻撃を聖剣で弾き返し、受け流し、無効化しながら、逆に魔法攻撃を返しつつ、その隙をついた。確実にクロランドの聖剣は、魔族の女の力と体を削っていった。ふらついた瞬間、クロランドの聖剣が魔族の体を貫いた。

「グオ、グオ~。」

と顔に合わない獣のような断末魔の声をあげて動かなくなった。魔族の女の顔は絶命してから次第に変わっていった。トカゲとか、獣の顔に変わったというわけではない。それまでの美少女の顔が、とてもそうではない、醜いというわけではないが、かなり異なる顔に変わっていたのだ。

「あ、思い出した!オウジョだ。」

 間が抜けたように、オズワルドが言った。もちろん、死んだ魔族の女の名前である。クロランド達が戻ってきたのは、魔族の軍の掃討が終わったからだった。

「申し訳ない、遅くなってしまって。」

とクロランドが、メリーウェザー達に頭を下げた。礼儀正しい騎士だった。

「助けていただいたのですから、こちらがお礼を言う立場ですわ。」

 メリーウェザーの言葉に、オズワルドが頷くのを見て、

「あなた方が、ここで奴を抑えていてくれていなければ、私達も危なかったでしょう。」

 ニッコリと微笑んで、手を差しのばした。メリーウェザーが応じて、握手となった。

「心の中で助けてと叫んでいましたのよ、お恥ずかしいことに。」

「私も妻を助けられる状態ですらなかったのですから。」

 そのオズワルドの耳元に、生暖かい息とともに、

「よく戦ってくれたと思っている。」

 勇者アテナだった。その光景に、メリーウェザーのこめかみが微かにピクピクしているのに、オズワルドは気がついた。

 魔王の親衛隊中の精鋭中の精鋭、8人衆の一人、それがオウジョである。かなりの戦闘力を持つが、美人ではないというより、美人からは離れた存在となっている。勇者を誹謗中傷し、陥れた罪を問われた馬鹿王子のオズワルドに取り入り、利用した魔族で、性的関係も持ったが、正体を現すと、オズワルドはかなり不快さを感じることになっていた。腰も抜かしたが、でるものはなかったが、吐き気をもよおした。“まあ、あの顔だしな。”

「お兄ちゃんの浮気者!私が死にかけていたのに!」

「どうしてそうなるんだよ!」

 オウジョのことを説明すると、本気に怒って、上衣の首元をつかんだ。彼女の手を外し、体を抱き締めた。

「お前が死ななくて良かった。」

「私だって、心配したんだからね。」

 戦いが終わり、野営な天幕の中で、口づけを繰り返し始めた。

「こういう姿もそそるな。」

 メリーの下半身だけを脱がせて、オズワルドは興奮したように囁いた。

「あんな後に、しかもそんなことを、お兄ちゃんは変態だわ。」

 少しうわずった口調で詰った。

「でも、お前は?」

 少しの間睨んでいたが、

「私も同じ、変態だわ。」

 そう言って、やはり下半身だけを露出して、あぐらをかいて座っているオズワルドの上に、自ら跨がった。2人は、すぐ激しく動き出し、はじめは周囲を気にして抑えていた喘ぎ声が大きくなるまで、そう時間はかからなかった。

 翌日、オズワルドはサンスベール達に冷やかされ、メリーウェザーは、彼女達付きの女騎士に説教される羽目になった。

 

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