第31話 笛の対決になるの?相手には加勢がいますわ。

「ドンピシャでしたな、オズワルド殿下。」

 返り血を浴びたくムサシが、振り返ってニッコリと笑った。

「しかし、余りありがたくありませんな。」

 何とかそれだけが言えた。なんせ、周囲は副魔王の一人が率いる軍に包囲されて防戦一方の状態だった。

 魔王軍の大軍が侵攻してくるという情報が入ったが、ルートについては三つの情報があった。結構嶮しいところもある山岳地帯を通るが、最短距離の北方コース、遠回りになるが平坦な道を薦める西と東の両コースだった。偵察情報と状況判断から北ルートだとオズワルドが主張した。西と東の動きは陽動だが、対応しないわけにはいかなかったので、それぞれフレイアとクロランドの勇者チームを、策を授けて送った。

 兵力を分散させたと考えた魔王軍は、一気呵成に攻めてきた。大急ぎで作った野戦陣地は間に合った。ここまでは、オズワルドの目論見通りだったが、想定より魔軍の兵力があまりにも多かったのが、想定外であった。

 ムサシは、抱え筒から、素早く棒火矢を素早く連射した。発射して、筒を掃除し、発射薬を入れ、棒火矢を突っ込み、引き金を引くという動作を恐ろしく素早く行った。棒火矢は、散弾と焼夷弾を組み合わせたもので、爆風と高熱の炎と散弾が、魔族の隊列の中で、彼らを襲った。タケチが、六連発短筒を連射する。正確に魔族を一体づつ倒し、うち尽くすともう一丁を左手で腰から抜き、器用にうち尽くした方を腰に戻し、右手に新たな一丁を投げ移す。それを狙いを定めて、連射する。それもうち尽くすと、もう一丁を…、しかし、それで短筒はつきる。2人は、お互いの火器の発射のタイミングをあわせていたので、互いに相手の攻撃の際に装填したが、それも長くは続かなかった。どうしても間隙が発生し、2人とも剣を抜かざるを得なくなった。

「タケチ様。危ない!」

 メリーウェザーが、彼に迫る魔族の戦士達の前に立ち塞がった。“痛~い!”心の中で叫んだ。無効化魔法を発動したが、さすがに激痛を感じた。

「かたじけない!奥方様!」

 すかさず彼は、3丁の短筒を連発し、周囲の魔族を倒すと、愛刀ムラマサを抜いて、メリーウェザーの前に立ち、魔族を次々に斬り倒していった。その動きは、優美で思わず見惚れてしまうものだった。しかし、優美な動きなだけでなく、動きに無駄がなく、力強さもあった。

「ムサシ殿、傷は一応治りました。」

 オズワルドが、魔族の一人を相手にしながら、その傍ら回復魔法をかけていた。装填が終わる前に、その隙をついて襲いかかってきた、巨体の魔族の騎士を相手にして、彼は、かなり上位の騎士のようだった、それを斬り倒した直後、矢と火球を受けて負傷したのである。

「治った。後は任せて下さい、殿下!」

 彼は六尺棒を手に取ると、周囲の魔族を、次々に打ち倒していった。ヨシツネもトモエも、自分の目の前の相手で手一杯だった。それは、クロランド、アテナの勇者とそのチームも同様だった。一千の騎士達は、彼らが、支えているお陰で何とか戦っている。フレイア、ヒョウセン達が駆け付けてもどうにかなるか不安だった。オズワルドとメリーウェザーは、互いを背にして必死に身を守るのでやっとだった。家臣達もそうだった。“ああ、もう駄目かも!こんな破滅コースありましたかしら?”

 その時、笛の音が微かに聞こえてきた。すると力が回復していくのを感じた。

「これがヒカル様の笛の力?」

 メリーウェザーの言葉に、オズワルドが首を振り、

「ヒカルの君が吹く笛の音がもたらす力だよ。」

「?」

 似たようなものではないかと思えるのだが、オズワルドによると違うらしい。よく分からなかったが、反撃の機会であることは分かる。ムサシをはじめとして、皆がが生き生きとなり、魔族を押し返していく。

「私達も続いて、助けなくてはなりませんわ!」

 彼女が力強く言うと、彼女の周りに家臣達も集まって来た。誰も欠けていない。

「妻の言うとおりだ。勇者様達に続くぞ!」

 オズワルドはそう言うとメリーウェザーの手を握った。

「一緒にいきましょう。」

 ようやく、引き返してきていたフレイアとヒョウセンの勇者チームも加わった。さすがに、この状態での、左右からの夾撃に魔族の軍は崩れた。それにつけこんで、力を得て、勇者クロランドと勇者アテナは、魔軍の本陣深くに突入し、相手側の親衛隊をなぎ倒して、副魔王を倒した。が、それで終わりではなかった。

「クロランド様!危ない!」

 メリーウェザーが飛び込んで、膝をついたクロランドに抱きついて、周囲に渾身の無効化の結界を張った。

「ひ~!」

 あまりの衝撃に気を失いかけた。

「アテナ殿!どうですか?」

 オズワルドがアテナの背に両手をつけて回復魔法をかけていた。

「十分だ。感謝する。」

 相手は、かなりの予備軍を隠していた、いや、もう一軍が、いたのだ。両勇者が、不意打ちながら受けた攻撃の打撃を見ると、この軍の大将は、副魔王クラスの者と思われた。アテナが起ち上がり、その大将に向かった。クロランドが遅れて続き、彼女を援護する。彼女らのチームも続く。ムサシ達も、メリーウェザー達も続いた。ここが頑張り処だとは、何となくメリーウェザーにも分かった。その時、オズワルドの耳に琵琶の音色が聞こえてきた。

 礫のような、雨のような水滴のような、霰のようなものが魔族の軍に降り注いだ。大きな打撃を与えるようなものではなかったが、行動を抑える効果があった。勇者を先頭に魔族を押し返していく。ヒョウセンとフレイアの支援を受けて、アテナとクロランドが大将クラスを倒した。先に致命傷を与えたのはアテナだった。

「アテナ殿。お見事でした。」

 クロランドが、彼女の前で、姿勢を正して、頭を深々と下げて、丁重に彼女を賞賛した。アテナは、無表情で、無言で、軽く頭を下げただけだったが、姿勢を正していた。ヒカルが、勇者達に勝利の礼を述べ、全軍に勝利を告げた。グロリアは、聖女の役割を生き生きとして果たしていた。グリコは結界を張ろうとしていた。戦いに、皆が疲れて、このまま野営する必要があった。それには、夜襲の危険性があった。そのための結界なのだが、持続的な結界は賢者ならではの仕事である。

「しかし、小魔王クラスの魔族には…。」

 グリコが悔しそうに言った。オズワルドが、耳打ちをした。

「そんなことで…。」

 意外だという顔をしたグリコに、オズワルドが笑って、

「発想の転換してみようじゃないか。それはそうと、出来るかね?」

「何とかやってみます。絶対やり遂げます。」

 真剣な表情で頷いた。

 戦勝の宴は出来なかったが、勝利の後の食事は美味かった。そして、夜襲があった。結界がけたたましい音を発して破られた。その音でより早く、人間側は準備ができた。そして、進んだ魔族の軍は、はたと困惑しなければならなかった。後続がいなかったのである。破られた結界が、ある程度の時間を経て再生して、魔族の兵が阻まれたのである。これに、勇者達を先頭にたった反撃で、魔族の軍は窮地に陥った。その時、笛の音が魔族の側から聞こえてきた。力が抜けるような疲労感に襲われた。すかさず、反対側から笛の音が聞こえてきた。ヒカルである。その力は拮抗したが、魔族の側から竪琴の音が聞こえてきた。気がつくと、2人の、笛を吹く者と竪琴を奏でる者が進み出てきた。挑発だった。ヒカルは、特に出てこようとはしなかった。

「オスクリダ兄弟、オルフェウスとアポロ。」

 魔王の親衛隊、8人のトップの2人だった。

「どうしよう、相手は加勢が来てるわよ、お兄ちゃん!」

 メリーウェザーが叫ぶように、オズワルドにすがりついた。

 

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